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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第2章 名医になる予定の男
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2-7 お引越し

「ただいま戻りました」



 丁度契約云々の話が終わったところで、ラケスと散歩に出かけておりましたディカブリオが戻ってきました。


 まだ肩車をしており、肩に乗せている仔猫が頭をぶつけぬよう、身を屈めて部屋に入ってきまして、随分と親睦を深めたのかすっかり懐いておりますね。


 大変結構!



「おお、ディカブリオ、戻ったか。丁度、“契約”の事を話して、了承を得たところじゃて」



「ああ、やっぱり何か企んでいましたか。それでどういったお話で?」



「この兄妹を“年季奉公人”として、八年間ほど雇う事にした」



「なぜそうなったのか、理解に苦しみますね」



 そう言って、熊は仔猫を肩から降ろし、アゾットの前に着地させました。


 降ろされたラケスも、面食らって驚いておりますね。



「え? お兄ちゃん、どういう事なの?」



「これから二人でヌイヴェル様の下で働くんだよ。住み込みでな」



「じゃあ、ここからお引越しですか!?」



「そうなるね。まあ、仕事と言っても、家事だし、お前にもすぐ覚えられるよ」



 驚く妹に対してアゾットは優しく頭を撫でて、宥めすかしておりますが、まあ、住めば都でございます。すぐに慣れる事でしょう。


 まして、順応力の高い若者ですし、熊を恐れぬ闊達な娘。他の使用人からも愛される事、請け合いです。



「仕事の内容については、私の家の者から聞くが良い。ラケスや、働き如何によっては、また美味しい物を食わせてやろう」



「本当ですか!?」



 娘は目をキラキラさせております。


 やはり、“胃袋”を掴むのは強烈な効力を発揮しますね。


 こうまで言っておけば、必死で仕事を覚える事でしょう。


 しっかりと働き者になるのですよ、愛らしい仔猫ちゃん♪



「さて、こちらとしてはいつでも良いが、アゾットよ、いつ引っ越す?」



「では、今から大家に話しをしてきますので、すぐに赴きます」



「ほう、思い切りが良いな」



「どうせ身一つでしか行けないですから」



 互い以外に何も持たない兄妹。何もないからこその身軽さと、その決断の速さは良いですね。


 ますます拾い物ですわね、この二人は。



「ディカブリオや、そういうわけですから、二人を連れて私の邸宅に行きますよ」



「畏まりましたが、衣服はどういたしましょうか? さすがに男爵家の召使いがこの出で立ちでは」



「ん~、それもそうか。では、アゾットにはお前の古着を、ラケスにはジュリエッタの古着を与えるとしよう」



「それなら、少し直せばいけそうですね」



「ええ、仕立て屋の手配はよろしくね。それと、ある程度落ち着いてから、お婆様にも顔合わせをするつもりですから」



「婆様に? 召使いの雇用程度に、婆様を関わらせますか?」



「ちょっとした目利きをお願いしようかな、と。お婆様の人を見る目はずば抜けてますからね。この二人を見てもらいます」



 なにしろお婆様は先読み、先行投資に関しては間違いなく天賦の才をお持ちです。


 今の我が家の繁栄も、そのお婆様の先を見る目の結果ですからね。


 是非とも、この二人の“先”も見てほしい。



「そういうことでしたらば、礼服も用意しましょうか?」



「そこまで畏まらなくても良い。あくまで立場は召使いなのですからね。普段着を与える程度で良い」


 そう、“今”はまだただの召使い。


 でも、この二人には“可能性”が秘められている。


 それをお婆様がどう思われるのか、私自身の“目利き”も試される事になる。



(お婆様の眼鏡に叶ってくれればいいのですけどね)



 こうして、アゾット・ラケスの兄妹は我が家の一員となりました。


 奉公人契約で八年間のお務めです。


 その間に二人の魔術が目覚めるかどうか、それはやっってみなければ分かりませんが、これもまた先行投資。


 芽吹いて花咲き実を結ぶその日まで、私がしっかりと面倒を見て差し上げますよ、お二人さん♪

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