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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第11章 魔女の宴は華やかに
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11-3 招待客 (2)

 宴の会場となっております宮殿の大広間は、それこそ千人は超すであろう貴族の方々で埋め尽くされておりました。


 皆、揃って煌びやかな衣装で身を包み、笑顔で談笑しております。


 しかし、それは“嘘”で糊塗されておりますのは、私が最もよく知る事であります。


 欲望、嫉妬、遺恨、それらを覆い隠すとばりが笑顔なのですから。



(表面的には、ジュリアス殿下の1歳の生誕日を祝う宴。列を成して大公家御一家へ挨拶し、祝辞を述べ、持って来た祝いの品を差し出す。表面的には賑やかで、祝福で満たされておりますこの空間。しかし、見る視点を変えればなんと醜悪な事か)



 チラチラ目につくのは、会場の隅の方で輪を作っているいくつかの集団。


 顔と名前はほぼ把握しておりますが、まあ、それなりに地位のある御貴族様ばかりです。


 むしろ、その振る舞いこそ、貴族の生業とも言えますが。



(何しろ、我が国には“議会”というものがありませんからね)



 基本的に、“統治”と言うものは各々の好き勝手にやれてしまうものなのです。


 すべての大元であり、最上に位置します“雲上人セレスティアーレ”の治める国、ロムルス天王国を頂点とし、五大公が頭立って、各地の貴族を治めているというのが、おおよその政治状況。


 上位者に定められた上納金を支払えば、自身の領地内ではおおよそ好き放題というわけです。


 一応の法律や規則は設けられておりますが、それもかなり緩い。


 緩いからこそ、自由が利くと同時に、争いもまた絶えない。


 貴族間の小競り合いやいさかいなど、日常茶飯事ですからね。



(まあ、最近の教会側の動きを見ますに、放置しているとも見れますけどね)



 “雲上人セレスティアーレ”の統治は、愚民化政策と放任主義の合わせ技。


 教義によって人々を洗脳し、神への畏れを教会や“雲上人セレスティアーレ”への畏怖へと変える“虎の威を借る狐”。


 下手な仲介をさせず、絶えず各地の貴族を競わせ、時に戦争すら起こし、武力の矛先が教会や“雲上人セレスティアーレ”へと向かないようにする“制御された戦乱”。


 これがあの空高き人々の統治術。


 身分の高い方々ほど、自由気ままに好き勝手出来る体制となります。


 貴族にしても、“一応”五大公の治めますいずれかの大公国に所属している事になっておりますが、実質的には独立した状態。


 上納金さえ支払えば、自身の領地内ではかなりの裁量権が与えられております。


 なので、いちいち集まって会議を開くという習慣がほぼ無い。


 これが市井の民衆でありますれば、各都市、あるは職業別のギルド毎に議会が設けられ、規則を定めたり、あるいは法の違反者への懲罰を下したりするものですが、貴族にはそれがありません。


 金さえ払えば、領地内では勝手にできるのですから。


 それゆえに、陛下への上申は“集団訴訟”が基本単位となります。


 同じ利益、利権の集団となる貴族を集め、その連名を持って陛下に上申するというやり方です。


 それを陛下や宰相、あるいは各省の尚書が調整し、問題を解決したり、新たな制度や法律を設けるというのが、基本的な流れです。


 このやり方は、五大公が力と知性を持っている状態でありますと、上手く回るような制度でありますが、そうでないとたちまち混乱をきたすという危ういやり方。


 現に、先代大公が急死され、若くして大公位を継ぐ事になりましたフェルディナンド陛下の即位直後は、かなり混乱しましたからね。


 あのときはカトリーナお婆様がまだ存命中でしたので、方々に睨みを利かせられましたが、その無理が祟って、混乱が収まった直後にお亡くなりになられました。


 上がしっかりしなくては、たちまち混乱する極めて脆い統治体制。


 それを許容し、敢えて放置する最上位の“雲上人セレスティアーレ”。



(まあ、“雲上人セレスティアーレ”からすれば、下が程よく争ってくれている方が、自分に矛先が向かず、放置の構えですからね。たまにしゃしゃり出て、恩を着せる程度)



 少なくとも、百年前の“ラキアートの動乱”に匹敵する規模の動きがない限りは、放置というわけです。


 なので、下界の統治は各貴族単位。


 そして、貴族は貴族で徒党を組み、各地の頭領とも言うべき大公に、集団で訴え出るという形が出来ます。


 今、会場の隅で輪を作っております貴族の集まりも、そうした同じ根を持つ利権集団というわけです。


 宴の席は、まさに戦場。


 離合集散を繰り返し、己の利益を第一と考える醜悪な一面を覗かせる。


 議会がない以上、顔を会わせるのは、こうした宴会となりますのでね。


 お貴族様にとっては、宴席こそが議会。


 そのため、招待客同士、笑顔を崩さずニコニコ話しながら、こいつは敵だ、あっちは味方だ、こいつは引き込める、あいつはダメだと、値踏みしているのです。


 手紙でのやり取りと違い、面と向かって話し合うのは、相手の状況や空気を掴むのに極めて有効ですからね。


 なので、会議を開く機会に乏しい貴族にとっての主戦場は、こうした宴の席となります。


 それこそ、対立する貴族であっても、招待状を出す事が多く、それを受けるのもまた器を示すことになりますので、出席する事が多い。


 それが敵情視察となるか、友好関係の構築となるかは、各々の判断次第。


 その読み合い、交渉が貴族の最大の仕事なのです。


 私はそうした空気をほぼ読み取れますので、宴席、それも貴族の催す大規模な宴席が嫌いなのでございます。


 なにしろ、魔女にして娼婦である私に向けられる感情は、ほぼ悪意、あるいは軽蔑に満ちておりますからね。


 男爵夫人など軽々しく名乗るな、といった具合で。


 それを力と知性でねじ伏せたからこそ、カトリーナお婆様が凄いのですけどね。


 毒や悪臭が煮詰まっているのが、この空間。


 隣で呆けておりますラケスやアゾットにしても、表向きな華やかな一面のみに捉われて、奥底に潜む“蟲毒”には気付いておりませんし、犯されてもおりませんしね。


 そういう意味では、ジュリエッタとディカブリオは図太い。


 気付いていながら平然としていられるのですから、これも長年の慣れ。


 口では厄介事は嫌だと言いながらも、いざという時にはそれに飛び込む胆力を持ち合わせておる。


 社交界ここはそういう世界だと、割り切っているという事でもありますね。



(むしろ、それを変えようと考えている私の方が不埒者ですけどね)



 ここ最近、知り得た事から、“雲上人セレスティアーレ”への疑念は高まる一方ですからね。


 もちろん、あくまで私個人で収まる範囲での動きに留めてはおります。


 あまり動き過ぎては、あらぬ誤解を受けてしまい、一族郎党火炙りなんて事にもなりかねませんからね。


 というわけで、まずは宴を“表向き”は楽しみましょう。


 ここに集まる御貴族様達の思惑はどうあれ、余計な騒動を起こしては、招待していただいたフェルディナンド陛下の顔に泥を塗る事にもなりますからね。


 まずは気晴らしに葡萄酒ヴィノを一杯。


 うん、さすがに上物を取り揃えておりますわね。


 さすがは陛下、大好きですわよ♪

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