11-1 戦場の名は“宴”
どうも皆さま、初めてお会いする方は初めまして。
以前にお目にかかられた方は、お久しぶりです。
ヌイヴェルでございます。
魔女、娼婦、男爵夫人、三つの顔を持つ私は、その時々に応じて仮面を着け、その場に相応しい姿で現れるズルい女。
そして、今日は“男爵夫人”として、出陣する事となりました。
私は特に男爵の伴侶でもなく、あるいは、自身が男爵号を所持しているわけではございません。
実際に男爵なのは従妹のディカブリオであり、男爵夫人を名乗るに相応しいのはその妻たるラケス。
しかし、フェルディナンド陛下の御高配やディカブリオの許可もあって、男爵夫人を名乗る事を許されております。
何かしらの貴族の集まりでは、娼婦や魔女の振る舞いや装いよりも、男爵夫人としての肩書が役に立ちますからね。
まあ、私はかなりの有名人ですので、素性を知る者は成り上がり者だの、卑しい商売女だのと蔑んでまいりますが、特に気にしてはおりません。
なにしろ、それは事実なのですから。
嫌う者は嫌っていただいて結構!
陛下を始めとする、一部の方々には信頼を寄せていただいておりますので、それで十分ですわ。
さて、皆様。私などが口にするのも今更でございますが、順番や手順というものは非常に重要なものでございます。
ここぞという場面にてそれを疎かにしたばかりに、全てが台無しになってしまうなどままあることでございましょう。
特に、わたくしが身を置きますのは貴族という名の人の皮を被った魑魅魍魎が跋扈いたします、上流階級の社交界にございます。
醜悪な噂が、口外できぬ金銭が、ときに血生臭い一刺しが、舞台の表に裏に繰り広げられる場所。
悲劇と喜劇が幾度となく繰り返される、そういう世界にございます。
普段は娼婦として、ごく一部の貴族や富豪の相手をしていればよいのですが、ごく稀に社交界へと呼び出されることがございます。
今回のお話がまさにそれ。
今日の宴は“生誕祭”、要するに誕生日を祝う宴でございますね。
どなたの誕生日かと申しますと、フェルディナンド陛下の御子、すなわち、次なる大公位に就かれるであろうお世継ぎ、大公子ジュリアス殿下の事でございます。
お生まれになられて丸一年。
それを祝うという事で、あちこちの貴族に招待状を出し、盛大な宴が催される事になったのです。
そして、招待客の中に我らファルス男爵イノテア家も含まれておりました。
華やかな宴へと、いつもの顔触れと共にいざ出陣!
しかし、光が強ければ強い程、影もまた濃くなるのが社交界という魔境。
さてさて、今日はそんな華やかな宴の席、その裏で繰り広げられます暗闘、その一幕をお話いたしましょう。




