10-50 ハズレなき山師 (後編)
【ハズレなき山師】
ゴスラー様がお持ちであった魔術。
効果は「近くに鉱石が埋没していると、直感でそれが分かる」というものです。
発現条件は、「鉱山経営に一年以上関わる事」。
ゴスラー様がアールジェント侯爵領に戻られ、慣れないながらも領地の経営をされてから一年。
どうやら私の想定通り、その秘められた力が目覚められたようです。
「なるほど。これもまた、姉上の目論見通りというわけですか」
侯爵領からの報告書に目を通したディカブリオは、報告書と私を交互に眺め、ヤレヤレと言わんばかりに吐息を一つ。
同じく、従者のアゾットも苦笑いしてますね。
「まず、侯爵様とマリアンヌ殿との恋愛劇を成就させて、アツアツの内に結婚させる。マクディ伯爵への絶縁状や、保険金の扱いでさらに二人の間を確かなものにしつつ、侯爵領へと送り出す」
「この段階でマリアンヌ様の【笑顔の夫婦に祝福を】は覚醒しておりますので、アツアツ状態のお二人ならば、何かしらの幸運が舞い降りて、当面の生活は大丈夫というわけですか」
「まあ、結果として、銀の横領や帳簿の改竄を発見し、それを修正する機会を与えられたのですから、財政面は万事解決」
「そんなこんな忙しなく動いていれば、一年、二年程度であれば領地に縛り付けられ、いくら放浪癖でウズウズしようとも、領地に留まらざるを得なくなる。結婚という名の“牢獄”は機能し、結果、条件付けに成功して、秘めた魔術が覚醒する、と」
二人してつらつら状況を解説しますが、まさにその通り。
想定以上にアツアツになり、思った以上の効果を上げたのは、嬉しい計算違いではありましたが。
「それと、これでゴスラー様の放浪癖を封じ込める事にもなったわ」
「と言いますと?」
「マリアンヌの魔術で幸運値を上昇させ、何気なく歩く領内の山々。そこに希少鉱石が埋まっているかもしれない。なにしろ、“幸運の女神”が全力で支援してくれるのですから」
「なるほど。侯爵の放浪癖も、領内の散策で事足りるようになる。以前のようにフラフラ他所へ出かけることなく、夫婦連れだって領内を散策して、悪い癖が収まるという訳ですか」
「そういう事! 二人の間が良好な内は、もう何の心配もいらないわ」
“幸運の女神”と“歩く希少鉱石探知機”、この二つが合わされば、まさに無限の可能性を示してくれますわね。
銀鉱山どころか、今度は琥珀まで発掘されたのですから、しばらくは侯爵領の鉱山業が大いに活気づく事でしょう。
当然、掘り起こされた銀鉱石は精錬されて銀塊となり、貨幣や装飾品へと姿を変える。
琥珀もまた、研磨され、宝石へと姿を変える。
どちらも確実に金銭を稼ぐ特産品であり、その儲けも確実。
鉱山業は儲かる。
ただし、それは当たりの山を見つけてこそです。
しかし、この二人は外さない。
希少鉱石に近付けば、なんとなしにそれを感じ取れる【ハズレなき山師】。
愛情を燃料とし、幸運を招き寄せる【笑顔の夫婦に祝福を】。
ゴスラー様とマリアンヌの魔術が重なり合う時、膨大な富を生み出す。
もちろん、それは私にとっても大いに恩恵があります。
「イノテア商会と、パリッチィ銀行が侯爵家の経済顧問、会計監査として居座っていますからね。当然、侯爵領内の物流に大きな影響力を及ぼせます」
「おまけに、ゴスラー様自身、金銭には無頓着ですからね。確かな利益を上げていれば、何も文句は出ない。ほぼ丸投げ状態に等しいですしね」
「銀に加えて、琥珀まで産出したとなると、装飾品絡みの商売が活気づきますからね。精錬や研磨の工房、加工する職人、売買する商人、人で賑わう事でしょう」
「商いを行うには、まさに最適な環境。人の集まる所に商機あり。我らのイノテア商会もまた、魚や塩を売り捌く好機ですね」
「内陸の領地ですし、塩や干し魚の需要は高い。なんなら、侯爵におねだりして、領内の専売契約でもいただこうかしらね」
これは儲かると、ニヤニヤ笑う私とディカブリオ。
そして、不敵に笑うアゾット。
やはり、苦労して二人の間を取り持ったのが、ようやく実ったといったところでありましょうか。
感無量、それ以上に表しようがない状況ですわね♪




