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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第10章 金か、女か、信義を取るか? 全部取ります、魔女の企み!
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10-44 守秘義務違反

 パリッチィ銀行は、知らぬ者なき大銀行。


 当然、その総支配人であるフランヴェール様は超が付くほどの大金持ちであり、その資産は大公陛下すら上回るとさえ謳われるほどの大富豪です。


 仕事上の付き合いで顔を会わせる事もありますが、最大の接点はやはり末娘のヴィニス様との関係ですわね。


 ヴィニス様は“自称・魔女の恋人”であり、夫であるグリエールモ市長などそっちのけで私に熱を上げております。


 いやまあ、恋人と言いましても、娼婦と客の関係でありますし、私としてはあくまで疑似恋愛の域を超えたものではないと考えております。


 ヴィニス様がそう思っていないのが、少々面倒な話なのですが。


 そんなわけで、目の前にいるフランヴェール様とは、公では仕事の付き合いがあり、私的には娘の相談役をしてくれている、という間柄なのです。


 ちなみに、フランヴェール様は現在、私に対しては難色を示す態度で視線をぶつけてきています。


 教会での一幕の後、私は行員に連れられて、銀行本店にあるフランヴェール様の執務室に通されたのですが、まあ良い顔はしませんわね。



(マリアンヌに掛けられた“婚礼保険”の事を知りながら、ゴスラー様との結婚を仕組んだのですからね。本来なら、決して結ばれる事のない二人。と言うか、出会う事すらないであろう二人を、わざわざ引っ付くように画策しましたし、フランヴェール様もお怒りでしょう)



 保険の有効期限は36歳までに結婚となっておりますので、あのまま修道院暮らしであれば、掛け金が丸々の儲けです。


 それを逃したのですから、不機嫌になるのは当然。


 まあ、それ以上に、私の守秘義務違反の方をこそ、咎めたいようですが。



「ヌイヴェル殿、分かっていると思うが、今回の件は本当にしでかしてくれたな」



「それについては弁明いたしません。保険の事を知りながら、あえて世を捨てた修道女を還俗させたのですから」



「分かっていてなおも、か。友人への手向けのつもりか?」



「それもありますが、儲け話でもありますから」



「守秘義務違反はやり過ぎだぞ」



「最低限のスジとして、保険の件は伏せておきました。もし、保険金が下りるとなれば、ゴスラー様の対応も変わったものになるでしょうから」



 これは本当の事です。


 邪な感情を挟まず、純真な心をもって口説き落として欲しかったですからね。


 結納金目当ての結婚も、悲喜劇のネタになる程に転がっているのもまた事実。



(もし、ピエトロ様が妹の“婚礼保険”の事を知っていれば、修道院になど押し込めず、あの顔でも不問とする相手と結婚させ、保険金を奪い取っていたでしょう。そこから多少の結納金を支払えば、あの保険金の大半を懐に収める事が出来た)



 保険の性質上、十分あり得る話ですからね。


 しかし、それが起こらなかったという事は、保険の件は誰も知らなかったという事になります。


 マリアンヌの父、先代のマクディ伯爵が密かに手続きをして、娘が嫁ぐ際に驚かせようとしたのでしょう。


 しかし、マリアンヌは顔に大火傷を負い、先代様も早くに亡くなられてしまったため、誰も保険の事を気付くことなく修道院行きとなってしまいました。


 だからこそ、保険の運営委員に名を連ねる私が、それを利用したわけです。


 守秘義務違反として問い質されるのは止むなき事ですが、保険の件を一切口外せずに結婚するように仕向けた、という点が唯一の免罪符。


 その点は察してくれているようで、だからこそフランヴェール様も怒りを保留してくれたわけです。



「まったく、おてんばなのは娼館の中だけにして欲しいものだな」



「フフッ……、あいにくと、店では貴婦人で通っておりますわよ」



「迂闊な行動で、化けの皮がはがれている内は、カトリーナ殿には勝てんぞ」



「それは重々承知しております。ですから、罪滅ぼしと言っては何ですが、儲け話をご用意させていただきましたわ」



「そうやってすぐに金で釣ろうとするところは、祖母にそっくりだな」



「フランヴェール様にはそれが一番有効だと、私も、祖母も、ちゃんと理解しているからですわ」



「否定はすまい」



 実際、銀行屋としては儲け話に首を突っ込んで、あれやこれやと投資して、利益を得るのがお仕事ですからね。


 昔からの付き合いのある者から儲け話と聞いて、興味を持たない訳はありませんからね。



「……で、その儲け話とは?」



「すでに聞き及んでいるとは思いますが、アールジェント侯爵がマクディ伯爵の妹君と結婚しました」



「お前の仕込みでな。あと数年、塩漬けにしておけば、掛け金が流れていたものを」



「その点はご容赦ください。それ以上の利益を上げる話でありますから」



「金貨にして、1万2000枚を超える利益であろうな?」



「はい。それはもう! 実にアツアツなお話でございますよ」



 アツアツなのは、ゴスラー様とマリアンヌの話。


 二人が恋愛結婚できたのも、その熱量のおかげですからね。


 その熱を以て、今度はこちらを温めていただきましょう。


 もちろん、懐具合の事ですわよ♪

 

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