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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第10章 金か、女か、信義を取るか? 全部取ります、魔女の企み!
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10-41 結納金

 教会の入口にやって来た男、それはパリッチィ銀行の行員。


 私が待ちに待っていた瞬間の到来です。



「失礼いたします。マリアンヌ=ゲーティ=デ=マクディ様の式場は、こちらでよろしいでしょうか?」



 ゆっくりと歩み寄って来られる行員ですが、集まっている顔触れを見てギョッとされました。


 まあ、フェルディナンド陛下に加え、幾人か名の知れた貴族がおりますので、当然と言えば当然の反応です。



「行員さん、お疲れ様。マリアンヌの式場はここですわよ。花嫁がそう」



 私の主要銀行でもありますので、行員の顔はほぼ把握しております。


 行員にしても、私のような全身白い独特な容姿を忘れるはずもなく、こちらの姿を見て安心された様子。



「では、マリアンヌ様はこちらの方ですね。どうもお初にお目にかかります。パリッチィ銀行より参りました」



「え? 銀行屋さん? 私に何か?」



「保険金の支払いでございます。マクディ伯爵名義の保険が“満期”となりましたので、そのお支払いでございます」



「え? 兄の保険?」



「ああ、失礼。言葉足らずでした。保険を掛けたのは先代の伯爵様です」



「じゃあ、父上の名義ですか」



「左様でございます」



 そう言って、行員は視線をヴェルナー司祭様に向けました。



「司祭様、こちらの御二方は結婚なされた。それで相違ありませんか?」



「うむ。それは間違いない。夫婦となり、新たな旅立ちを誓ったばかりだ」



「正式な書面は出しておらんが、それもすぐに発行する。が保証人だ」



 フェルディナンド陛下がズバッと言い切りました。


 司祭様に加え、陛下の了承を得て、間違いなく夫婦となった二人。


 それだからこそ、“保険”が効力を発揮するのですから。



「では、間違いございませんね。マリアンヌ様、どうぞこちらをお納めください。保険金の受取人として、先代の伯爵様が第一。もし伯爵様が亡くなっていれば、マリアンヌ様を次の受取人に指定されておりましたので」



「は、はあ……」



 いまいち要領を得ないマリアンヌでありましたが、この場にいる幾人かは“保険”と聞いてすぐに察したようで、首を頷かせていました。


 そして、行員より受け取った封書を開封して中身を確認しますと、そこには手形が入っていました。


 銀行に持って行けば、それと同額の金銭を得る事が出来る証明書ですね。


 が、問題なのは、その金額です。



「う、嘘……。金貨で1万2000枚ですって!?」



 随分とぶっ飛んだ数字ですわね。


 ちなみに、一般的な市民労働者の年収だと、金貨換算で約30枚程度だと言われております。


 市民の年収400年分の金銭が、ポンと湧いて出てきたというわけです。


 そりゃマリアンヌも驚くでしょう。



(まあ、|私はこうなる事を知っていたのですけどね《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》)



 これこそ取りはぐれない借金回収の技。


 “マリアンヌに掛けられていた保険金”からの回収です。


 マリアンヌに保険が掛けられていたのは、銀行のとある保険機構の運営委員に名を連ねている私が、とっくの昔に知っていたのですから。



「あ、あの、行員さん、その、これをいただいても!?」



「はい。先程も申し述べましたが、先代のマクディ伯爵様がマリアンヌ様に掛けられていました保険が、満期になったのです。その払戻金ですね」



「父上は一体、何の保険を?」



「それは『婚礼保険』でございます」



「婚礼保険!? なんですかそれは!?」



「まあ、平たく申しますと、結婚した際に、掛け金に応じて保険金が下りる。そういう保険でございます」



 そう。それこそがカトリーナお婆様が始めて、後にパリッチィ銀行に事業ごと売り渡した新しい保険商品『婚礼保険』です。


 結婚すると、保険金が払われる。


 女性にだけ掛ける事が許された、かなり特殊な保険なのでございます。



(私はこの保険事業に運営委員として、委員会に紛れ込んでいましたからね。誰がどんな保険を掛けていたかは周知していました。だから、マリアンヌが結婚すると保険金が下りてくるのを知っていた。これを使えば、借金の回収くらい容易い、と)



 ゴスラー様を焚きつけて、マリアンヌと結婚するように勧めた理由がこれ。


 マリアンヌを修道院ろうごくから救い出すと同時に、ゴスラー様からの借金回収も可能とする。


 ゴスラー様の熱意あっての方法ですが、失敗したら失敗したらで、合法的に侯爵家へ介入して、搾り取るつもりでもありました。


 まあ、その必要もなく、ちゃんと回収できそうなのはよかったですわ。



(あらためておめでとうございます、ゴスラー様とマリアンヌ。これで後顧の憂いなく、領地経営に専念できますね)



 借金はこれで返済可能。


 私もほっとした気分です。


 何より二人からも借金という足枷が無くなったわけですから、晴れやかな気分で領地にひきこもれるという訳です。


 これにて一件落着!



(……とならないんですよね、これが)



 皆が騒いでいる中、冷ややかな視線が一つ。


 行員から、私に向けられたものです。


 まあ、立場を悪用し、顧客情報を流用して、今回の保険を適応させたものですからね。しかも、保険機構の運営委員が!


 ちょっと説明という名の弁明をしに、銀行に足を運ばねばなりませんね。


 やれやれ、やはり守秘義務というものは破るべきものではありませんわ。

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