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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第10章 金か、女か、信義を取るか? 全部取ります、魔女の企み!
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10-35 花嫁兄への招待状 (後編)

 結婚の承諾、ならびに結納金の件は片付きました。


 今更、放逐したい妹マリアンヌと関わり合いたくはないと言わんばかりのピエトロ様の姿に、私としても不機嫌になりつつあります。


 仮にも、兄として、妹への情の一片もないのか、と。


 まあ、そんなものがあれば、二十年前に捨てたりしませんからね。


 そう言う意味においては、遠慮なく目の前の傲慢な御貴族様を貶めるのに、躊躇しなくて済みますわね。



「それと、伯爵様、今一つお願いしたい事があります」



「なんだ? 結婚を認めてやったのだ。どこの誰とでも結婚するがいいし、これ以上何を求めるのだ?」



「これはマリアンヌからの提案なのですが、近々開かれます教会での結婚式、それにご出席いただきたいと」



「式への出席だと!? 寝言は寝てから言え。なんで放逐した妹の結婚式に、こちらが出向いてやらねばならんのだ?」



 露骨に不機嫌な態度になりましたピエトロ様。


 まあ、これは当然の反応ですわね。


 会いたくもない妹、その結婚式に兄として出席しろと言われましても、不快感しか出てこないでしょう。



「まあまあ、落ち着いてください、伯爵様。マリアンヌが言うには『嫁げば嫁ぎ先の仕事で忙しくなるでしょうし、階級・・も違いますので、お目にかかる事もないでしょう。ならば、今生の別れと思って最後に一目会っておきたい』と」



「ならば、余計に会いたくもないな。階級が違う云々を述べるのであれば、もっと位の高い男を引っ掻けるべきであったな、と!」



 激高するピエトロ様ですが、むしろ、私は笑いをこらえるのに必死です。


 階級の高い男を引っ掻けろ、まさにその通りですわね。


 でも、“今”はそれを言うつもりもありませんので。



「だいたい、騎士階級だというのであれば、なんで伯爵の私が結婚式に出席せねばならんのだ?」



「花嫁の兄でございます。家族として、家門の長として、一族の女性の新たな門出を見届ける義務と言うものがあります。結婚の許可を出したのですから、それくらいはしていただかねば、式の準備に当たっております、ヴェルナー司祭様に失礼に当たりますよ」



「ぬ……」



 司祭様の名前を出されて、少々怯みましたわね。


 ヴェルナー司祭様は、人気が高い。貴族にも庶民にも、人望のある御方です。


 今日、私がこうしてピエトロ様に面会できましたのも、ヴェルナー司祭様が仲介してくれたからという点があります。


 影響力の大きな人気の司祭に対して、あまり騒動は起こしたくない。


 そんな態度がみえみえですわね。



「それに、フェルディナンド大公陛下に対しても失礼に当たります」



「陛下に対してだと!?」



「はい。陛下も二人の結婚を祝福なさり、一時は式に出席するとまで仰られておりました。まあ、結局、政務の関係で出席する時間がありませんでしたので、祝辞文を送る程度で済ませるようですが」



「陛下が臨席!? いくら直臣騎士とはいえ、そこまでか!?」



「陛下にとっては、何かと縁深い騎士、というわけです」



「むむむ……、それは出席せん事にはマズいか」



「はい。花嫁の兄が特に理由もなく欠席となりますと、場をしつえてくださった陛下の顔にも泥を塗りかねません。ですから、伯爵様にもどうか出席していただきたいのです」



 まあ、九割の真実、一割の虚偽ですけどね。


 陛下の直臣騎士、という点だけが嘘。本当は陛下の義兄で侯爵。


 あとは本当の事か、もしくは伏せている状態。



(とはいえ、効果は抜群。露骨に焦り始めています。こういう権力や階級をかさに着て威張る輩には、より上位をぶつけてやれば簡単に折れる。陛下が祝辞を、というのは本当の事。ゴスラー様は陛下の義兄ですから、お願いすればすぐにでも一筆したためるはずです)



 焦るピエトロ様に心の中で笑いながら、話を続けました。



「伯爵様、別に式に出席すると言っても、特に何かする必要はありませんわ。兄として席に座っているだけでよいのですから」



「ふむ……。私からの祝辞やらはなし、だな?」



「はい。そのようなお手はわずらわせません。あくまで、“見ているだけ”で結構でございます。まあ、もちろん、気が変わって何か申し述べる事があれば、それなりの場を設けさせていただきますが」



「余計な事はせんでいい。まあ、仕方がない、出席しよう」



 どうやら、嫌々ながらも承諾してくださいました。


 これで準備完了。


 ピエトロ様に出席していただかなくては、話が進みませんでしたからね。



(しかし、これで整った。魔女が企画する最高の宴が!)



 笑顔で頭を下げ、出席についての礼を述べましたが、その笑顔に身を目の前の阿呆は気付いていない様子。


 ああ、本当に笑いをこらえるのが大変です。



「いいか、魔女よ。あくまで陛下の顔を立てて出席するのであって、妹がどうこう考えた事はないのだからな!」



「心得てございます。では、改めて招待状は送付いたしますので、式の日は時間を空けておいてください」



 再び頭を下げて、ピエトロ様の御前から引き上げました。


 これでよし。


 金か、女か、信義を取るか? 全部取ります、魔女の企み!


 ついでに、“報復”もして差し上げましょう


 さあ、ピエトロ様、心して式場にお越しくださいませ♪

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