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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第10章 金か、女か、信義を取るか? 全部取ります、魔女の企み!
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10-27 意外な訪問者

 アロフォート様に煽られてからと言うもの、ゴスラー様は頻繁にマリアンヌのいる修道院へと足を運ぶようになりました。


 食べ物や衣服の差し入れは言うに及ばず、吟遊詩人トルバドールとしての技量を活かし、愛を彩る歌を捧げたりと、あの手この手で求愛の情熱を伝えたそうです。


 たまに店まで来て、私に報告してきますからね。


 その行動は丸分かりの、親切丁寧な説明付き。


 いやまあ、出資者(借金の肩代わり)なのですから、事業報告あいのこくはくの途中経過を聞くのは当然でありますわね。



(しかし、アロフォート様からの助言といいますか、挑発といいますか、あの助言が効いたようですわね。熱心に口説かれて結構な事ですわ)



 心を閉ざした三十路女と言えども、これで心を開いて欲しいものです。


 まあ、頭巾を被って顔と身分を隠しておりますので、変な男に付き纏われている、とでも思っているかもしれせんが。


 そんなこんなの日々が三月ほど続きまして、不意な来客が私の下に訪れました。


 渦中の人、マリアンヌその人です。


 彼女もまた頭巾をしておりましたが、声を聞けば余裕で分かります。



「お久しぶりね、マリアンヌ。この“魔女の館(わたしのうち)”に来たのも、二十年ぶりくらいになるのではないかしら」



「話をはぐらかさないで、ヌイヴェル! あの覆面男、あんたの差し金でしょ!?」



 やはりご立腹のようですわね。


 まあ、心閉ざして祈りを捧げ、神との対話だけに生きてきたのが、彼女の二十年の歩み。


 火事で火傷を負い、家族から疎まれて修道院へ放り込まれてから、ずっとそうですからね。


 私も幼馴染みとして、たまに顔を出してはいましたけど、とても幸せとは程遠い生活ですからね。


 マリアンヌは節制と規律に縛られた修道院での生活。


 一方の私は、娼婦として夢と享楽を提供するふしだら(・・・・)な生活。


 何もかもが逆。


 顔の火傷さえなければ、あるいは普通のお嬢様としての人生が約束されていたでしょうに、神様も残酷すぎますわ。



「ええ、そうですわよ。あの覆面男は私が差し向けました」



「何考えているのよ!? 毎日毎日、しつこいくらい顔を出しては、訳の分からない歌を歌って来るのよ!?」



「元は吟遊詩人トルバドールですからね。歌は得意なのですよ」



「歌うのなら、神への讃美歌にしなさいと言っても、私へのバラードしか歌わないの! 頭おかしいんじゃないの!?」



 色々と捲くし立てて私に怒りをぶつけてくるマリアンヌですが、内心、私はほくそ笑んでおります。


 理由は簡単。心を閉ざし、感情を殺して、神への祈りだけの生活であったはずなのに、今は間違いなく感情剥き出し。


 二十年分の積み重ねが、今やそれは剥がれ落ちた。


 私の目には、二十年前の、少女時代のやんちゃな伯爵令嬢が戻ってきたように感じてしまいます。



(火傷で顔は歪んでいようとも、心は決して歪まない。神への対話と称した延々と続く祈りも、人の心を殺すには至っていない)



 この点は流石と言っておきましょうか、ゴスラー様。


 消えていた蝋燭に再び火が灯ったのですから、まずは初期段階は成功と言ったところでしょうか。


 あとは、生じた心のモヤモヤを、色恋の“劣情”に変えていく。


 それこそ、私の得意分野なのですから、魔女としてまどわし、娼婦としてたぶらかし、最後は男爵夫人として仲人を勤め上げる。


 無理かもしれないと思っていたゴスラー様とマリアンヌの恋物語、成就する切っ掛けが見えて参りました。


 さあ、ここからですわよ。


 二十年間溜め込んだ劣情と享楽の祭典、見事に華を咲かせてみせましょう。


 なにしろ、そうしないと借金の取り立てもできませんからね。


 あくまで私本位な考えと行動。


 でも、二人が幸せになる道筋はちゃんと用意してあります。


 始めましょうか、二人で歩む華燭の花道ナヴァタ・ヌチィアーレ


 そして、今の私は賑やかしの道化師。


 世間一般では、仲人とも言いますかしら。


 フフッ、三人揃って、幸せになりましょうね♪

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