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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第10章 金か、女か、信義を取るか? 全部取ります、魔女の企み!
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10-21 三つの約束 (4)

 結婚とは人生の牢獄。


 一度入れば抜け出す事が出来ない、墓場であり、牢獄なのです。


 しかも、貴族社会では政略結婚が当たり前であり、愛情も介在しない。


 家同士の繋がりこそ重視され、結婚する婿と嫁の関係は二の次。


 住めば都と申せど、好きでもない者同士がずっと同じ空間にいるのは大変です。



(だからこそ、希少価値の高い“恋愛結婚”。貴族社会でこれを成した夫婦は、本当に珍しい。夫婦が愛し合う事よりも、家の存続と繁栄の身を考えるのが貴族の考える婚儀でありますが、夫婦仲が良好である事に越した事はありませんわ)



 実際、人の心はうつろい行くもの。


 家のためにとその身を捧げ、会った事もない男女が夫婦の誓いを立てる。


 そこを出発点として、夫婦に愛情が芽生える場合もあります。


 政略結婚と言えども、愛が育まれる余地はあります。


 逆に、好き合って夫婦となった者であっても、破局が訪れる場合もあります。


 何かの事情で急に冷めた、という場合は往々にしてありますからね。



(ですから、ゴスラー様、彼女を見事に口説き落とし、そして、末永く愛してあげてください。私が全力で裏から手を回して差し上げますので)



 修道院という牢獄にも等しい場所に押し込められたマリアンヌ。


 私の幼馴染みであり、古くからの友人。


 その幸せを願っておりますが、決してそれは並大抵の事では取り返せない。


 十歳の頃までは蝶よ花よと大切に育てられながら、火事で顔を醜く歪められてからは捨て置かれる哀れな身の上。


 ただ神に祈りを捧げるだけの日々に、一筋の光を差し入れたいというお節介。


 それでも、友人を救い上げてくれる白馬の貴公子が、ようやく目の前に現れたのですから。


 まあ、借金の返済ゆえにやむを得ず、という俗な状況でもありますけど。



「よし、分かった! 魔女殿、私も腹を括って、すべての条件を飲もう!」



「おお、よくぞご決断くださいました! ならば、私も全力で動くとしましょう!」



 決断されたゴスラー様の顔は凛々しいですわね。


 誰であれ、やはり悩み抜いた末の決断の表情は、格好の良いものです。


 ましてや、社交界一の美男子の決意の表情ですからね。


 これだけで危うく見惚れてしまいそうなほどに整っております。


 だからこそ、封印してくださいね、その甘い仮面ペルソナは。



「……で、具体的にこれからどうするのだ?」



「まずは借金の一本化。これから私はゴスラー様のツケや借金を全て肩代わりいたします」



「結構な金額になるぞ」



「我がイノテア家の財力をなめてもらっては困ります。男爵と言えども、伯爵よりも財豊かでありますから。それにパリッチィ銀行にも顔が利きますので」



「ああ、あの大銀行か」



「なので、今後の資金につきましては、私かパリッチィ銀行の方にご相談ください。あそこが私の使っている主要銀行ですので」



 何しろ、あの銀行の支配人フランヴェール様には、いくつか“貸し”がありますからね。


 これをこの際、利用させていただきましょう。



「あとはゴスラー様の腕前次第。素性を伏せた状態で、見事マリアンヌを口説き落としてください」



「任せろ! 女口説くのは得意分野だ!」



「そして、夫婦となる約束を取り付けましたら、必ず私のところへ来てください。仲人役として、色々と見届ける義務がありますので」



「それも了解した」



「それらがすべて終わってから侯爵領へと引き籠り、しばらくは夫婦仲良くそこで過ごし、領地の再建に努めてください」



「それは分かったと言いたいのだが……」



 ここで難色を示されましたゴスラー様。


 やはり、放浪癖のある者には、引き籠りはお辛いですか。



「そもそもの話として、私は領地経営なんぞできんぞ? 政治や経営なんぞと無縁の生活をしていたのだ」



「家臣の皆様がいるでございましょう?」



「まあ、そちらに丸投げするのもよいが、どのみち資金繰りが厳しい。アールジェント侯爵家が誇る銀鉱山、あれが枯渇したのが資金難の原因だからな」



「分かっています。ですので、新しい産業を興すための初期資金を、私とパリッチィ銀行がお貸ししますので、それで立て直してください」



「借金を消すのに、借金を重ねるか」



「経費をケチっては、良い仕事はできませんわよ」



 これが私の投資のスタイル。


 勝ち筋が見えたら、とことんぶっこむのが私。


 今回の話も、どう転んでもアールジェント侯爵家に影響力を行使できる、という役得を期待しているからこその先行投資なのですから。


 借金を返せるならそれでよし。


 返せないなら、返せるように産業を起こして回収いたしますから。



(もっとも、ゴスラー様とマリアンヌの魔術が合わされば、そんな心配すら意味を成さないレベルで儲けを出せますけどね)



 難しくはあっても、勝機はありますし、それだけに勝負に出ます。


 債権の買い取りだけでもかなりの金額を使いますが、なんとかギリギリ賄えるだけの額です。


 さあ、始めましょうか。


 金か、女か、信義と取るか?


 全部取ります、魔女の企み!

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