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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第1章 チロール伯爵家の遺産
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1ー1 魔女と豚

「おのれ魔女め! 死に晒せ、このクソ女が!」



 面罵などと言うものは聞き飽きる程に両の耳へと届けられましたが、今少し優雅な物言いはできないものでしょうか。


 つたない教養に裏付けされた語彙力の無さが、透けて見えますわよ。


 まあ、相手は“豚”でありますから、人語を話せる知能があるだけマシ、とでも思っておきましょうか。


 おっと、申し遅れました。私、ヌイヴェル=イノテア=デ=ファルスと申します。


 娼婦、魔女、そして、男爵夫人、三つの顔を使い分け、時に美味しい話に乗っかり、あるいは面白い喜劇に首を突っ込む。そんな生活を営んでおります、上流階級の隅っこに鎮座いたしますしがない女にございます。


 そして、本日のお相手をなさっている御方は、よく言って“豚”でございます。


 醜く太ったそのブクブクの肉付きに、食い散らかしては社会の発展に何ら貢献しない穀潰し。


 まさに“豚”! それ以外に表現しようのない御方でございます。


 まあ、着ている服は立派でございますわよ。なにしろ、この豚さん、あろうことか“伯爵”でございますから。


 いつから豚ごときが爵位を得られるのかと、小一時間皆々様と談義を重ねたいところでございますわ。


 床に組み伏せられた男がジタバタともがき、私をキッと睨んでまいります。


 ああ、なんと醜悪な姿でありましょうか。


 これでもまだ大人しくなった方なのでございますよ。


 先程まではもっと喚き散らして、ブヒブヒ叫んでいたのでありますから。


 よくもまあ肥え太った豚さんで、動く度に肉が揺れる。揺れる。たぷたぷ揺れる。


 今少し、身体を引き締めた方がよろしいですよと、ついつい説教したくなるほどでしたわ。


 普段、私は高級娼館『楽園の扉(フロンティエーラ)』にて働いておりまして、一夜の夢を皆様にお届けする事を生業といたしております。


 いわゆる“娼婦”と呼ばれる享楽の請負人でございますわ。


 もちろん、それ相応の“対価”を要求する事となりますが、一夜の夢を謳歌できるのであれば、それは決して高いとは思いません。


 まあ、私も娼婦の端くれでございますし、この手のふくよか(・・・・)な御客人の相手をしたことはございます


 しかし、今日この瞬間、目の前の豚さんに見せるのは夢は夢でも、“悪夢”に類するものでございます。


 まあ、致し方ありませんわね。


 なにしろ、この私に喧嘩を吹っかけ、あまつさえ、対価もなしに私の体に手をかけようとしたのですから。


 フフッ、少しは懲りたでしょうか?


 教訓を学ぶ機会に恵まれてよかったですわね。


 でもダメ。許しませんよ。


 お店の女の子にそんなことをしたら、“怖ぁ~いお兄さん”がやって来て、不埒者を締め上げるのは常識でございますよ、常識♪


 現に今の豚さんは、鍛え上げられた私の護衛役に組み伏せられているのですから。



「さて、どうしてくれましょうか、この始末。ちょっとやそっとじゃ許しませんよ」



「黙れ、魔女め! 父をたぶらかし、財産を掠めようとした不埒者めが!」



「誤解ですわよ、誤解! ただ単に、御父君のハルト様がお亡くなりになる前に書かれた遺書、それに“なぜか”私の名が記されていて、相続される財産の内、半分を差し出す旨が記載されていただけですから」



「それを誑かしたと言うのだ!」



 ほんと、話の通じない豚は嫌ですわね。


 人語を話せる珍獣ではありますが、人語を話せる事と意思疎通を図れることは別儀であると、つくづく痛感している次第です。


 では皆さま、少し時間を遡り、どうしてこのような事態になったのか、お話するといたしましょう。


 ええ、何のことはございません。寝物語の一つと思っていただければ幸いです。


 なぜ娼婦である私が、特に血縁でもないのに『チロール伯爵家の遺産』を貰い受けるような事態になったのか、お聞かせしたいと思います。


 少し長くなりますが、どうかお付き合いくださいませ。

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