10-15 いざ、修道院へ! (1)
ゴスラー様の借金をどうにかすると約束し、それに向けて実際に行動を起こしましたのは次の安息日。
いつものように儀典に出かけ、毎度のごとくヴェルナー司祭様から熱視線を浴びた後、私、ジュリエッタ、ゴスラー様は我が家の厩舎番兼御者のオノーレが操る馬車に乗り、街の郊外に向けて走り出しました。
「いや~、今日も『天国の扉』が誇る二名花とご同席できるとは、安息日だというのに罰が当たりますな!」
相変わらずのこの態度は、さすがとしか言いようがありません。
ジュリエッタも苦笑いしつつ、内心ではかなりうんざりしているようですね。
「別にジュリエッタもついて来なくても良かったのに」
「ヴェル姉様がどんな魔術で、このお気楽貴族様を更生、いえ、矯正するのか、興味がありますので」
「それは着いてからのお楽しみ。まあ、向かう先はこの前のヴィットーリオ叔父様との酒の席での続き、みたいな感じかしら」
「ん~、あ、修道院! 修道院で叩き直してもらおうって事ですか!」
三人で酒を飲んでいる席で、修道院、修道女の話が出ましたので、あっさりとそれに気付いて来ましたわね。
「え~、私はこれから神職になるのか!? 先程のヴェルナー司祭のように、貴族出身の神職に!?」
「実際、世間の垢と申しますか、その欲望に忠実な姿勢を叩き直してもらった方が良いかと思いますよ?」
「それは困る! それでは二度と二人と遊べなくなるではないか!」
「そんなだから、御家が傾くんですよ!? 少しは自覚を持たれては!?」
「望んで得た地位ではないのだがな~」
やいのやいのと賑やかに話すゴスラー様とジュリエッタ。
割と仲がよろしいのですよね、この二人。
まあ、ジュリエッタは完全に仕事上の付き合いと申しますか、“ちょろい上客”程度にしか見ていないのですが、それでも砕けた関係なのは間違いありません。
どういう接客や奉仕で和ませているのか、容易に予想がつくと言うものですわ。
「さて、ゴスラー様。修道院に向かうに際して、例のツケ払いについての提案がございます」
「おお、それが本題だものな! んで、何をすればよい?」
「修道院に入られておりますとある女性、そちらの方に会っていただきます」
「ふむふむ。それで?」
「そちらの方は私の幼馴染みでありまして、私より少し年下。ゴスラー様とは同い年にあたりますわね」
「なぬ、その年で修道院入りとは、何か理由でも?」
「それはお会いしてからご自身の目で確かめられてください。ちなみに、そちらの方はとある伯爵家の御令嬢で、二十年近く修道院にて暮らしております」
「二十年近く!? 私と同い年で二十年近くとなると、それこそ十代前半にはすでに、修道院暮らしとなるではないか!?」
「はい。そのことを念頭に入れて、こちらを身に付けておいてください」
私は壁にかけておりました道具袋から一枚の布、性格には顔を隠すための頭巾を取り出しました。
少し黄ばんで薄汚れた白地の布で、“その手の病人”を演出するのには丁度良いでしょうね。
「これを身に付けてください。そして、彼女の前では“その時”が来るまで、決してその頭巾を外さないでいただきたいのです」
「つまり、身分、素性を隠して会え、という事か?」
「そうです。今日は軽い顔見せ程度で終わらせるつもりですので、一言もしゃべらなくて結構。私も軽い挨拶程度で済ませるので、すぐに終わりますわ」
「何を企んでいるのだ?」
「それは彼女にお会いした後、帰り道にてお話いたしますわ」
まあ、びっくりする内容ではあると思いますよ。
なにしろ、私が目指しておりますのは、ゴスラー様と修道女の“結婚”。
普段なら有り得ないはずの組み合わせですからね。
片や、超絶美男子の侯爵家当主。
片や、“とある理由”で修道院に押し込められました伯爵令嬢。
身分的にはおおよそつり合いは取れておりますが、両者を隔てる壁はとてつもなく大きい。
身分以上に立ちはだかるは、“今現在の立ち位置”というどうしようもない理由。
それは神様の与えた試練か、はたまた悪魔の気まぐれか。
それは分かりかねますが、一つだけ言える事があります。
(ゴスラー様、もしあなたが人生の立て直しを企図されているのでしたらば、その頑なな修道女、私とは方向性の違う口八丁にて、口説き落としてくださいね♪)
さてさて、どんな結果が出るかは、ただ神のみぞ知る。
この貴公子の運命がどうなるか、しっかりと見届けてやりましょう。
もちろん、ツケ払いはしっかりとやってもらいますからね♪




