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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第10章 金か、女か、信義を取るか? 全部取ります、魔女の企み!
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10-7 酒の席の話 (1)

「そういえば、叔父様。今日の会合はいかかでしたか?」



「うむ。色々と酷かったぞ。アロフォートの手土産がなければ、不貞腐れておっただろうよ」



 ズバリ言い切るヴィットーリオ叔父様。


 酒が入っているとは言え、普段は物静かな叔父様がこう言うのですから、相当ひどかったのでしょうね



「昨今、他国との貿易が拡充し、商業組合の活躍著しいので、これを大いに労いたいとの陛下よりの下知があり、何か祭りなり宴なりを催したいということでな」



「結構な事ではありませんか」



「うむ。特に私やアロフォートのように、商業組合に属している者からは、『さすがは陛下だ。下々の者にまでよく気が回る』と賛同する意見が多く出た。『陛下がそれをお望みである』の一言で片付く話なのだが、それを先立って公表し、どういう催しにするのかは、それぞれで考えようとのお達しだな」



「陛下のお気遣いに感謝ですわね」



 陛下をよく知る身としては、本当に周りをよく見ていて、器も大きい御方。


 かの御仁を主君として戴けるのは、臣としては望ましい事です。



「むしろ、地獄であったのはそこからよ」



「何かございましたか?」



「アロフォートの奴が調子に乗って、国を挙げてのお祭り騒ぎにして、公都キャピターレゼーナも、港湾都市ポルトヤーヌスも、街中を酒と美食で埋め尽くし、飲めや歌えの大宴会を催そうと捲くし立ててな」



「アロフォート様らしい提案ですわね」



「で、これまた会議に出席していた司教のネフ様が『豪奢に過ぎる』とお小言だ」



「うわぁ……」



 私も思わず呆れ顔を作ってしまいましたが、ネフ司教の話なので仕方がありません。


 なにしろ、我が国で一番の不人気聖職者でありますからね。


 ネフ司教は公都キャピターノにあります教会大聖堂カテドラルの管理者であり、ジェノヴェーゼ大公国の布教活動の責任者というわけです。


 伯父のヴェルナー司祭様の直接の上司という事になりますわね。


 そして、不人気の理由は“堅物すぎる”事が原因です。


 とにかく、規律! 規律! 規律!


 すべての生活様式を型に嵌め、規則正しく生きる事を至上命題とするガッチガチの聖職者。


 しかも、厄介なのはそれを平然と他人に押し付けてくることです。


 質素倹約、清貧と献身、それを成してこそ神の御許へ旅立てる、人として正しい生き方であると説き、何かにつけてお小言を飛ばして来るので、皆がうんざりしているのです。


 聖職者の生き方としては至極真っ当ですので、それだけに反論しづらい。


 反論しづらい正論製造機であるからこそ、人々からは煙たがられております。


 真逆を行くヴェルナー司祭様の方に人気が集まるのも、上が口やかましいからという理由があったりするのです。



「なぁに、いつもの司教様からの有難いお小言よ。とにかくほんと、堅苦しくていかんわ、あの司教様は」



 教会絡みの祭事の打ち合わせであったので、会いたくもない顔に鉢合わせしたのは不運でしたわね。


 下手に格式ばった事をするより、もっと自由に騒いだ方が楽しいですのにね。


 そう言う儀式は宮殿の方でやるべきで、市政の方にまであーしろこーしろと述べるのは、祭りに雰囲気をぶち壊しにするだけだというに。



「ネフ司教が『華美に過ぎる』とお小言を飛ばせば、同席していた兄上が『祭りに際して目くじらを立てるのはいかがなものか』と、兄上がやんわり諭すも聞く耳なし」



「ヴェルナー司祭様に人気が集中するのも、分かるというものですわね」



 ヴェルナー伯父様も、“私”に関すること以外は本当に良識ある御方ですからね。


 皆が盛り上がっている所に水を差す言動が、いかに正論であろうとも皆に嫌われるのかを理解すればこそですね。



(仮に、司教様のように勤勉と清貧を旨とした生活をしていれば、実に無味乾燥とした面白みのない世界が出来上がるでしょうね)



 正しい事が、必ずしも良き事であるとは限らない。


 それを“堕落”と捉えるのか、“娯楽”とするのかで、人生のいろどりは違ってきます。


 行き過ぎた“楽”は仰る通り、堕落に通じる者になりましょうが、適度な“楽”は人生を豊かにする。


 今、手に持つ酒がまさにそれ。


 過度に摂取すれば毒なれど、程よい酩酊は気をよくさせる。


 それすら否定なさるのであれば、それは存在しているだけで、生きているとは言い難い人形にも等しい人生。


 そんなものは、もちろん真っ平御免ですわね!

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