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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第10章 金か、女か、信義を取るか? 全部取ります、魔女の企み!
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10-4 仕事終わりの一杯

「はい、これでおしまいっと」



 ジュリエッタが最後の書類の確認を終え、先月の収支報告は完了。


 過不足なく帳簿に記載され、美しい数字が並ぶ。


 ああ、やはりどんな商売であろうとも、キッチリと利益を出して、黒字で終える収支報告はたまらなく良い!



「あ~、久しぶりに全力の書類仕事、疲れましたわね」



「まったくですね。支配人は逃げるし、オクタヴィア様もこっちに押し付けるしで、やってらんないっての」



「まあ、いずれはこっちが主な仕事になるでしょうけどね」



「あたしはまだ、十七歳ですからね。店の事務方に回るのは、もっと先です」



「ジュリエッタはそうでしょうけど、私はどうなのかしらね~」



「いや~、ヴェル姉様もまだまだいけるでしょ。三十過ぎても、全然若いですし」



「うふ、ありがとう」



 それなりに努力はしておりますからね、若さを保つために。


 良質な食事を心がけ、身体を引き締めるために程よく運動し、新しい知識を入れては頭も動かす。


 普段通りを普段通りにできる間は、全然大丈夫そうですわね。



「まだまだ娼婦として稼ぐつもりでいますけど、さて、後何年続けられるやら。どこぞに、私を担ぎ上げてくれる“玉の輿”でも、ないものかしらね~」



「いいですね~、それ! すぐにでも玉の輿が見つかったら、ちゃちゃっとのっかりたいもんです」



「ジュリエッタ、あなたなんて、まだ二十歳にもなっていないというのに、もう玉の輿探しですか



「若くて、売れている時期なんてあっと言う間ですよ。高値で売れる時に、高値で売っておかないと!」



 微妙にグサッと来る一言ですわね。


 まあ、三十過ぎてまで未婚を貫き、娼婦稼業をやっていれば、ずっとこのまま続くのではと考えなくもないですが、やはり結婚は意識してしまいます。



「いればいいのですけどね~。ああ、どこかに、お金持ちで、家柄も性格も良くて、なおかつ美男子っていないものか」



「ヴェル姉様の上客は?」



「何回、空ぶった事か」



 そんな好条件な男性は、すでに“予約”が入っているものですよ。良家の子息など、婚約者がいるのがほぼ当たり前なのでございますから。


 それにフェルディナンド陛下も、アルベルト様も、女に関してはヘタレ(・・・)ですからね。


 誘っても一向に乗って来ない、あのガチガチの兄弟。


 私はそんなに女としての魅力がないのかと、疑念に思う事もありますわ。



「ジュリエッタはユリウス様狙いかしら?」



「そりゃあ、ユリウス様は条件としては申し分ないですよ。私より年下で若いし、陛下の御身内で家柄も申し分ないです。おまけに礼部に入省されてから、トントン拍子に出世されているみたいですからね」



「いずれは宰相かって、若手の有望株。玉の輿としては最良」



「でも、陛下に近すぎるってのが問題。未来の宰相夫人が娼婦ですじゃ、うるさいのが多そうだし……。そうなると、収まるとしたら愛妾枠。それは私がイヤ。ちゃんと嫁に迎えてくれるとじゃないと無理。どんだけ寵を受けようとも、愛人愛妾じゃ豪華な牢屋の囚人と一緒。それなら娼婦のままでいいですよ」



 牢屋の囚人ときましたか。まあ、愛妾では飽きられれば捨てられるのがオチでありましょうし、私も真っ平御免です。


 私の場合は頭脳と魔術がございますから、愛妾よりも知恵袋として居座る自信はございますが、やはり一度くらいはちゃんとした婚儀を執り行うのも一興でありましょうか。


 三十過ぎと齢を重ねた元娼婦を娶る物好きがいればですが。


 ジュリエッタと他愛無い話をしておりますと、また一人、部屋に誰かが入って参りました。油断ならない老紳士が一人、ヴィットーリオ叔父様です。



「おお、二人とも、書類仕事は終わったか?」



「終わったかじゃないですよ、支配人。こっちに仕事を回して、御自身はフラフラであるいているんですから!」



「後々の修行とでも思っておれ」



「まあ、身受け前に娼婦稼業を引退すれば、そりゃ事務方、“取り持ち女”になるでしょうけど、いくら今日の予約が取り消しになったからと言って、ガンガン仕事を振って欲しくはありませんね」



「そう言うな、ジュリエッタ。ほれ、差し入れだ」



 そう言って叔父様は酒瓶を一つ、私達の前に差し出して参りました。



「うほ~、バローロじゃないですか! 我が国一の名酒! 最高の葡萄酒ヴィノ! なんだ、こんな上物があるなら、早く言ってくださいよ!」



 ジュリエッタはウキウキ気分で酒瓶を握り、何度も頬ずりをする。


 まあ、我が国でも特一級の酒が目の前にあれば、先程の不機嫌も吹き飛ぶと言うものですわね。



「まあ、今夜はゆっくり飲み明かそうとするか」



「叔父様もワルですね~。まだ日も明るいというのに」



「たまには良かろうて」



 老紳士も、一皮むけばただの男。


 酒や女を愛する、ごく普通の殿方。


 まあ、女の方は干からびておりますが、酒の方はまだまだたしなまれますわね。


 さて、それならばと、今宵は三人で飲みますか。


 何気に、血の薄い家族である我ら三名、酒を結着材に楽しむとしましょう。

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