10ー1 転ばぬ先の杖
どうも皆さま、初めてお会いする方は初めまして。以前にお目にかかられた方は、お久しぶりです。ヌイヴェルでございます。
私は高級娼婦を生業としておりまして、いわゆる上流階級の皆様方に寄生して生きている女吸血鬼でございます。
って、この自己紹介、いささか不釣り合いになってしまいましたわね。
なにしろ、この前、本物の吸血鬼と出会い、お友達になってしまいましたから。
ああ、魔女のお友達が吸血鬼、なんとも不思議な巡り合わせでございますわね。
さてさて、今日は“転ばぬ先の杖”についてのお話と、それにまつわる男女の悲喜劇をお聞かせいたしましょうか。
さて、皆様、“保険”という言葉を聞きますと、どのような事を頭に思い浮かべますでしょうか?
何かしらの緊急時、いざという時に掛け金や積み立てをしておきますと、そうした問題事の発生時において、ドサッと保険金が下りてくる。
解決の一助となる方策だと考える方が多いかと思われます。
私は少々ひねくれておりますので、“保険”の一連の流れを“賭け事”と認識しております。要は指定の期間内に、物が壊れたり、人が亡くなったりする、それの可否を問うのでありますから。
壊れるのか、そのままなのか、死んでしまったのか、生きているのか、硬貨を上に放り投げて、裏が出るか表が出るかの判断。
まさに賭け事そのもの、というのが私の考えでございます。
そして、賭け事である以上、規則を決める“胴元”の方が圧倒的有利ということもまた事実。
なにしろ、儲かる手段があるからこそ、それが商売として成り立ち、それを取り仕切ろうとする方がいらっしゃるのですから。
私は現在、とある保険事業の運営委員会の理事を務める身でもあります。
まあ、理事と申しましても、ただ定期的に開かれます委員会に出席いたしまして、話を聞くだけの簡単なお仕事であります。
多少の情報のやり取りはございますが、保険に関する運用は他の方々に任せております。
そもそも、この保険は私の師であり祖母でもある、大魔女カトリーナが始めたことでございました。
祖母はある出来事に目を付け、それに関する保険を売り出しましたところ、これが大反響でたちまち加入者が続出!
事業が軌道に乗った段階で運用権を別の商会に売却し、現在、創業者とも言うべき我がイノテア家は理事の末席に名を連ねるだけの存在になっております。
祖母が始めた事業、その保険に関することを、今宵はお話しいたしましょう。
そして、申し述べておく事があります。
『女の価値は掛け金の多寡で決する』と。




