表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/404

9-47 大魔女の仕掛け (7)

 ガンケン様よりもたらされた情報によると、カトリーナお婆様がアラアラート山から下山してくる際、その両の腕にはそれぞれ赤ん坊を抱えていたという事。


 “地上の人間”が生きて下山してくる事自体が異例であるのに、赤ん坊を、それも二人も連れておりてくる事は特筆すべき事です。



(その赤ん坊の内、一人は私。では、もう一人の赤ん坊はどこへ?)



 双子の忌避感による遺棄という結末でしょうか。


 それはない。


 お婆様はそもそも、貴族ではなく、一般庶民であり、そうした双子への忌避感は薄いはずです。


 私の家において、私と同い年の子が死んだなどという話もない以上、どこか別のところで育てられたのかもしれません。


 そうなると“異国の魔女”であるレオーネが怪しい。



(私やジェノヴェーゼ大公国への執着があるのは、何かしらの因縁があると考えるのが自然。もし、彼女が私の“双子の姉妹”であるならば、ある程度、話に筋道が見えてくる。しかし……)



 断片的な情報しかなく、そう断じるには情報が少なすぎます。


 せめて“顔”だけでも見れば良かったのでしょうが、彼女は仮面を被っていたため、その素顔を見る事は叶いませんでした。


 あるいは私のような“肌の白さ”があればと考えましたが、それは“魔女相手”では通用しない事も考えられます。



(そう、化粧による【変身メタモルフォーゼ】がありますからね。肌の色くらい、誤魔化しが利く。まして、あの時は夜でしたからね。余計に判別しにかったですし)



 結局のところ、結論は“情報不足”という事です。


 次に彼女と見える事があれば、意地でもあの仮面を引っぺがし、素顔を見る必要がありそうです。



「まったく、法王聖下おにいさまも阿呆な事をしましたわね。入水自殺ではなく、生け捕りを命じておけば、こんな苦労は……」



「ん? 何か思い当たる事でもあるか?」



「ガンケン様が仰るには、私は実は“双子”かもしれないとの事ですが、そうなると怪しい人物が一人います」



「誰だ?」



「レオーネと名乗る女性で、ネーレロッソ大公国の魔女だと名乗っていました」



「ネーレロッソか……。ジェノヴェーゼ大公国とは仲が悪いよな?」



「犬猿の仲と言っても障りない程には。そして、その魔女はここ最近、ジェノヴェーゼ大公国内で発生した数々の事件を裏で操っているという事を、当人の口から聞いております。おまけに、私の生け捕りも画策していました」



「なるほどな。条件的には、お前の双子である可能性は十分あるな」



「もっとも、顔は仮面で隠しておりましたし、確証を持てる情報は表に出てきておりませんでしたが」



 とは言え、嫌疑をかけるのには十分すぎるほどの相手である事は間違いありません。


 ガンケン様のみならず、ダキア様もユラハも納得の首肯を繰り返しています。


 いくら何でも、怪しすぎると。



「で~も、それだとさ、法王が“わざと”そのレオーネとか言うのを逃がした可能性もある」



「つまり、ダキア様の懸念としては、“言霊プネウマ”に抵抗する事を見越して、撤収する猶予を与えたと?」



「知識の探究者である魔女には、“言霊プネウマ”の効果が薄いみたいだし、十分考えられる事よ。神話の再現を狙っているのならば」



「神話の再現……。まさか、法王聖下おにいさまは自らが“人類の始祖”の再来となるために!?」



「神話の再現っていうのであれば、そうだと思うわよ。始祖アーダームの両の腕には聖光母ハヴァと魔女王リリンが必須。その役目のヌイヴェルとレオーネとか言う魔女に負わせようとしているとすれば?」



「魔女王に必要な“楽園からの追放”と、“集呪ガンドゥルとなるための呪い”を執り行う必要がある、と」



「聖光母は手元に置いて可愛がる。魔女王は追放して“ガンド”を集めさせる。そう考えると、不合理な事象も、納得のできるものとなるわね」



 神話の再現、という新しい情報を元に考えますと、あの場の法王の行動は“私を助ける”というよりも、“レオーネを逃がす”事を目的としているという事。


 あのままですと、フェルディナント陛下かアルベルト様に殺されていた可能性があったため、これ見よがしに干渉してきた、と。


 しかも、私に程よく情報を与えて、興味を持たせてくるというやり口もまた巧妙。


 実際、今の私はカトリーナお婆様のやろうとしていた事の探究に、かなり心血を注ぐようになりましたからね。



(それが神話の再現というのであれば、その先は何? あるいは、お婆様のやりたかった事とは?)



 薄ぼんやりと見えてきた真実の数々も、まだ濃い霧を晴らすには至っておりません。



「結局のところ、レオーネを捕縛するのが唯一の道筋かもしれませんね」



「その仮面を引っぺがしたその下に、何が潜んでいるのかもね」



 ユラハに指摘されるまでもなく、素顔を見るというのは最重要案件。


 もし、私とレオーネが双子であれば、その容姿はかなり似通ったものになっているはずですし、より真実への到達に近付く事でしょう。


 あるいは、こちらにない情報を持っている可能性も高い。


 優先すべきは、行方知れずのレオーネを見つけ出し、その身柄を確保する事。


 やるべき事、見えてきましたわね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ