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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第8章 魔女に捧げる愛の詩
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8-19 魔女と貝合わせ

 さて皆様、『貝合わせ』という遊びをご存じでしょうか?


 以前にもお話し致しましたが、我がイノテア家は元々は漁師の家でございまして、それが他に先駆けて“ヴォンゴレ”の人工養殖に成功いたしました。


 煮てよし、焼いてよし、蒸してよし。非常に使い出のある食材で、しかも美味。


 特に蛤の麵料理(ヴォンゴレ・ビアンゴ)が良いですわね。


 そんな蛤を中心としました魚介類の商いを営みまして、財を成して裕福な漁師一家として成り上がっていったのでございます。


 その裏で今一つの稼業である“娼婦稼業”も行っておりました。


 元々は一族の未婚の女が、風待ち、波待ちの空いた時間に、他の漁師や行商をお誘いして、色艶を用いた小遣い稼ぎをしていたのがその始まり。


 今では立派な娼館を運営し、港湾都市ポルトヤーヌスでも一番と評判の高級娼館『天国の扉(フロンティエーラ)』を営業するまでに成長。


 財と名声、そして、祖母であるカトリーナの辣腕らつわんも相まって、ファルス男爵の称号を受けるまでになったのが我が家というわけでございます。


 そのため、一族繁栄の象徴が“ヴォンゴレ”であり、一族の家紋を“蝶をあしらった蛤”にしているのでございます。


 羽は二枚あってこそ羽ばたけるもの。そして、蛤の貝殻というものは、同一個体の殻でなければぴったりとかみ合わない。


 かみ合わないからこそ、他者と交わらないという純潔の証。

 

 “ヴォンゴレ”は貞節の象徴とされ、“貞淑な女”に見立てられる事もございます。


 それが『貝合わせ』の遊びの由来。


 同一個体の貝殻でしかかみ合わないので、いかに多くの貝を合わせられるのかを競うのでございます。



(……が、それはあくまで“子供のお遊び”の事。“大人のお遊び”はまた別。いやはや、そちらを実践する日が来ようとは)



 蛤は同一個体でしかかみ合わないからこそ、夫婦円満、貞淑の象徴などと言われておりますが、今し方行った行為はまさにその逆。


 “別個体の貝を無理やり合わせる”という、他人が聞けば顔をしかめかねない不貞極まる行為でございます。


 貝に見立てた女性生殖器同士を直接擦り合わせる性行為を、『貝合わせ』などと揶揄しております。


 女性器同士を接触させる、極めて高難度な行為。男女の交合と違い、突起形状で誰でもできる訳ではない、ある種究極の行為の位置付けではないでしょうか。


 男女間性行為のような結合は無いため、恍惚エスタシーへ至る道程、時間は互いの協力と思慕に左右されます。



(まあ、どうやるかは知っておりましたので、あとは“腰使いの巧みさ”と、“お互いの気持ち”がかみ合えば、悦楽を得られるのでございますよ。ヴィニス様のように)



 前者の条件は私の腕前次第。そこは長年“娼婦”として培ってきた技の冴えがございますので、問題はございませんでした。


 後者の方はと言いますと、これがまた“かみ合わない”。


 なにしろ、私がヴィニス様に向けております感情は、“思慕”や“劣情”などではなく、人脈構築という“下心”と、不遇な境遇に身を置く少女への“同情”でございますから。


 しかし、そこは三つの顔を使い分ける都合の良い女、ヌイヴェル=イノテア=デ=ファルスの腕の見せ所。


 偽りの仮面を被り、耳元にて偽りの愛を囁き、相手を快楽の沼に堕とす事くらいやるのは、“いつもの事”でございます。

 

 実際、目の前にいるヴィニス様は寝台の上でぐったりと寝転がっておりますのが、今宵の成果が確たるものである事の証。


 安らかで、満ち足りている寝姿を私に晒しております。


 年頃の娘、結婚している女性が、伴侶以外に見せてはならぬ姿でございますが、ご安心くださいませ。


 私は口の堅い娼婦であり、魔女でございますので、口外は致しませぬ。


 艶事をお聞きいただいている皆様方にも、ここまでという事で。


 具体的に何をしたのかは、皆様の想像にお任せいたしますのでご勘弁を。


 二人だけの秘事、口外する事は禁則事項でございますので。


 さて、一仕事終えた事ですし、私も眠るとしましょうか。


 慣れぬ事をしましたので、私もいささか疲れてしまいました。


 風邪をひかぬよう、横になっているヴィニス様に掛け布団(ピウモーネ)を被せ、私もそれに包まりました。


 肌から伝わって来る感情は、“安堵”。


 ご満足いただけたようで何よりでございます。


 今宵くらいは何もかも忘れ、温もりの内にお休みなさい、籠の中の小鳥よ。


 魔女がもたらした、偽りの愛と温もりに騙されながら。

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