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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第8章 魔女に捧げる愛の詩
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8-18 少女を堕とす魔女

 勢いさえ削いでしまえば、私にとっては仔犬と大差ありません。


 ヴィニス様は抑圧された感情と立場を、私との交流を以て程よく解消していたようだというのは分かりました。


 それも私が想定していた以上に、効き過ぎている事も。


 ゆえに、私がいきなり音信不通になって、余計に不安になったというわけです。



(先程の暴走はまさにその表れ。久しぶりに遊べると、キャンキャン吠えながら、喜んで走り回る仔犬も同然。しかし、その遊び相手が、貴婦人の皮を被った獅子や熊だとは思っていなかったでしょうね)



 私自身、少女相手の夜伽は初見という事もあって、戸惑っていた自覚はあります。


 しかし、その猪突さが却って気付け薬となりました。


 さて、この悪戯っ子をどうさばいて差し上げましょうか。


 口付けを続けたままでしたが、流石に呼吸が苦しくなったのか、ヴィニス様の方から顔を逸らせて、空気を求め始めました。


 荒い呼吸と、そこから生じる僅かな隙に、私はトンと軽く少女の体を押しのけました。


 不意討ちであったために体がよろけ、二歩三歩と後ろに下がり、そして、その先にあった寝台にゴロンと身を預ける事となりました。



(当然、そのまま追撃!)



 ササッと寝台に歩み寄り、倒れ込んだヴィニス様に多きかぶさるように私もまた寝台へ。


 強引なやり口は趣味ではないのですが、目の前のお客様の趣味ではありますね。



(そう、目の前の少女が求めるのは、焦がれるほどの“情熱”! 普通の女子であれば、優しさなどを求めるかもしれませんが、それにはすでに飽いているのがヴィニス様。お爺様みたいな年の離れた夫、自分よりも年上の息子、いずれからも丁重に扱われています。それはすでに把握済み!)



 今こうして押さえつけている間にも、我が魔術【淫らなる女王の眼差しヴァルタジオーネ・コンプレータ】を発動させております。


 互いの肌を介して伝わって来る日々の寂しさ。


 なんの刺激もない平穏無事なる日々は、若い身の上では退屈そのもの。


 色恋を知る前に、色恋を卒業したご老体に嫁いでは、まさに心が死んでいるようなものでありましょう。


 そんな中に颯爽と現れましたのが、この私。そう、何よりも刺激的な魔女でございます。



(だからこそ、私を求めているのが目の前の少女。今こうして情報を見ておりますと、それがひしひしと伝わってきております。わざわざ平穏安寧の日々を放り出し、それこそ魔女の使い魔にでもなりに来た物好きな小鳥ちゃん)



 抑え付け、掴んでいるその手首からは、血潮の鼓動が早鐘のごとく伝わってきております。


 このままさらに抑え込み、控えめの胸に手を当てれば、駆け足の心臓の音がすてくることでしょう。


 気が付けば、顔はいかにもと言うべき程にうっとりとしてこちらを見上げている、穢れどころか、一切の刺激さえ知らぬ少女。


 僅かばかりの刺激でこうなのですから、服を剥ぎ取り、魔女にして娼婦たる我が手管にて、悦楽の園へと案内いたしますれば、どれほどのものになりましょうか。



(ああ、さながら熱せられた蝋燭のようではありませんか。柔和で、いくらでも形を変えてしまいそうな、そんな感じが目の前の少女から漂ってまいります)



 後は固めず、熱を帯びさせたままこちらの都合よく、心を操ればよいだけ。


 恋を知らぬゆえに、猪突した先程の暴走も、千を超す殿方と色恋を語り合った私からすれば未熟も未熟。



「あ……」



 私の唇がヴィニス様の首筋に触れると、可愛らしい反応が返ってきましたわね。


 何をして欲しいのか、何を求めているのか、すでに例の手紙で伝えて来てましたからね。


 お望み通り、魔女の手管で虜にして差し上げましょう。



「ご緊張なさらず、ただ私に体を委ねてください。孤独という名のこびり付いた汚れを、私が奇麗に拭きとって差し上げますわ」



 そう耳元で囁き、軽くフッと息を吹きかけますと、ピクリと体が跳ねる。


 ああ、なんて初心な反応なのでしょうか。


 いやまあ、こういう事が初めてなのですから、当然と言えば当然なのでしょうか。


 こちらも少女のお相手は初めてなのですが、どこをどういじくれば快楽を得られるのかは、女の体であるがゆえによく存じ上げておりますとも。


 さあさあヴィニス様、今宵は何もかもを忘れて、悦楽に身を委ねてくださいませ。


 手は抜きませんとも。代金は既に支払い済みなのですから。


 存分に楽しんでくださいませ。

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