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7-79 小鳥は夢の中へ

 アルベルト様との密談も終わり、気が付くと夜半になっておりました。


 屋敷もすっかり寝静まり、一部の見回りの者だけが起きているだけ。


 月明かりを頼りに廊下を進みますと、そこにあるのリミアの寝泊まりしている部屋。


 私が面倒を見る事になった弟子のような、あるいは娘のようなものではありますが、公式な立場としてはフェルディナンド陛下の養女であり、“大公女プリンチペーサ”でございます。


 その扱いは丁重であり、用意した部屋も一番良い客間を宛がっています。


 少し扉を開き、 暗くなりました部屋の中を覗き込みますと、今宵は歌い疲れたのか、可愛らしい小鳥リミアは静かな寝息を立ててございます。


 貴婦人の御指ディータ・ディ・ダーマに誘われたる小鳥は、今は夢の世界へと旅立っている様子。


 貴婦人のフリをした魔女の指が傷ついた小鳥を拾い上げますと、もう一羽やって来て、すっかり居ついてしまいました。



(いや、ほんと、世の中、何がどうなるか、分からないものですわね)



 『処女喰い』に関する調査が、回り回ってこのような結末になろうなど、誰が予想したでありましょうか。


 魔女に憧れた小鳥は、一体どんな夢を見ているやら。



(しかし、この子の魔術の才は【太陽に(ソーレ)愛される(プリマ)第一の女(ドンナ)】。魔女ではなく、歌劇オペラ歌手になるためのような才能。早めに修正しませんとね)



 リミアの中を私の魔術で覗き込み、歌の魔術を見出した時には歓喜と同時に、困惑したものです。


 見つけてしまった、太陽を。


 日陰者の魔女の下に、小鳥の姿をした太陽がやって来たようなものですから。


 今は魔女の耳元で囁くだけの小夜啼鳥ナハティゲル。それがいずれは天高く舞い上がり、太陽へと変わる使い魔だったとは。


 東の果てではカラスは太陽の化身と伝え聞きますが、よもやそれが私の下へ来ようとは。やはり魔女の使い魔は鴉で正しいようでございます。


 ただ、此度はたまたま小夜啼鳥ナハティゲルの姿をしているだけでございました。


 いずれ万人があなたの歌声の虜となるでしょう。私などより遥かに人々を魅了することでしょう。


 そのときがくるまでは、私がしっかり面倒を見て差し上げねばなりませんね。



(私には見えますよ。あなたが舞台の上に立ち、軽やかに歌声を響かせて、観衆がそれに聴き入る姿を。もちろん、私もその中にいることでしょう)



 リミアよ、夢を見る小鳥よ、あなたの持つのは輝ける太陽のごとき才。


 今はまだ愛らしい小夜啼鳥ナハティゲルではありますが、いずれは燦々(さんさん)と輝く太陽となるでしょう。


 そして、いつかは小鳥に戻り、素敵な殿方の耳元でさえずることになるでしょう。


 そのときは約束通り、“お馬さん遊び”をお教えしましょう。それが魔女と使い魔の間で交わされた唯一の約束なのですから。


 皆様方、随分と長く話してしまいましたが、今宵のお話はこれまでといたしましょうか。


 貴婦人を気取って小鳥を救い上げてみれば、妙に懐かれてしまいました。誰かに巻き付く宿木やどりぎに住み着いてしまった小鳥のお話でございました。


 すがるのではなく、すがられる。たまにはこういうのも良いのかもしれませぬ。 


 ですが、私はあくまで高級娼婦。魔女で、女吸血鬼で、神に救いを求めて天を目指す哀れな一本の宿木やどりぎ


 巻き付く相手がおらねば、生きてはいけぬ身の上にございます。


 さてさて、次のお客様はどちらの方になるでしょうか。



          【第7章 『処女喰い』 完】

これにて第7章『処女喰い』は完結でございます。


穢れなき存在は神聖なものであり、供物として捧げるのであればこれ、みたいな感覚は万国共通だったりしますからね。


現代においてもその名残は存在し、“処女性”を重視する傾向が見られたりします。


古代においては生命の象徴と見なされ、それ故に、それを好む性癖もまた存在します。


そのあたりは、社会風俗、風習に直結しており、調べて見ると面白いですよ。


そして、物語の根幹にかかわる重要な情報を出すため、少々長く書き過ぎました、この章は。


次章は箸休め的な、ギャグパートでお送りしようかと思います。


今後とも、よろしくお願いいたします。

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