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7-75 信じて送り出した娘がお姫様になってしまった!?

 今回の騒動はむしろ、騒動が片付いてからの方が面倒であったかもしれません。


 まず何と言っても厄介だったのが、リミア嬢の養子縁組の事です。


 リミア嬢はボーリン男爵家の御令嬢ですが、紆余曲折を経て、大公陛下の養女になってしまわれました。


 本来なら書類を改竄して、一時的な措置として終わらせるつもりでしたが、あろうことか大公陛下が書類を“本物”にしてしまったため、男爵令嬢から大公女に格上げ。


 もちろん、父親であるボーリン男爵ポロス様は狼狽するだけです。



「何がどうなったら、そうなるというのですか!?」



 ご覧の有様です。


 心配しながらも仇討ちに燃える娘を送り出してみれば、なぜか大公家に養子縁組ですからね。


 こちらも何をどう説明しようか、迷ったほどです。



「それがでございますね。例の事件を一緒に追っていくうちに、ひょんなことから大公陛下とお目見えする機会に恵まれまして……。そうしましたら、陛下がリミア嬢の事をいたく気に入られ、いきなり養子にするとかどうとか」



「それで本当に養子縁組をしてしまったと!? こちらの断りもなしに!?」



「まあ、お気持ちは分からないでもありませんが、ここは娘の出世を喜ぶべきではないでしょうか?」



「んんん~!? いや、まあ、そうなのだろうが、いきなり大公女プリンチペーサなど、リミアは大丈夫だろうか?」



 信じて送り出した娘が、なぜかお姫様になって戻ってきました、ですからね。


 心配するのも無理はありませんわね。


 一応、貴族としての最低限の礼法は学んでいましたが、まだ社交界デビュー前の少女ですので、至らぬ点は多々見えます。。


 それを急遽、最上位の姫君に仕立て上げろと、私にまでとばっちりが来ました。


 陛下に押し付けられ、リミア嬢の指南役は私になってしまいましたから。



(おまけに、魔女の手癖まで付いた上に、それを真似したがりますからね。魔女ではなく、貴婦人として仕上げねばならないと言うのに、先が思いやられますわ)



 怒り任せに下町訛(スラング)をぶちまけ、殿方の股間を蹴り上げたりしていましたからね。


 あれをまず修正しなくてはなりません。


 はっきり言って、かなり面倒臭いです、はい。



「まあ、あの闊達な振る舞いはどこでも好かれる事でしょう。それに、陛下よりその辺りの指南役は私に任されておりますので、安んじてお任せください」



「ヌイヴェル殿なら大丈夫だと思うが、父としてはあれを世に送り出すのが早いような気がしてな」



「まあ、なるようになりますわよ。ああ、それから、陛下からの特別の計らいという事で、ボーリン男爵家の所領は拡張するとの事。子爵への格上げも手続しておくとの仰せです」



「子爵!? 我が家が!?」



「まあ、いきなりのお話ですので、色々と困惑なさるかもしれませんが、今回の迷惑料とでも思ってお受け取りくださいませ」



 ちなみに、貴族の家格は“域内の領民の数”で決まります。


 当然の話ですが、領民の数が多い程、得られる税収も大きくなります。


 しかし、領民を増やすと言っても、それを受け止められる産業が領内になければ養うのも不可能ですし、家格の変動というものはかなり稀です。


 何かしらの事情で領地が増え、その際に昇格するくらいですわね。


 ちなみに、一番良い状態は、人口が控えめなのに高収益の事業や特産品を抱えているのが、理想的な貴族だったりします。


 家格が上昇すると、大公や教会への上納金の量も増えるので、一概に昇格も喜べるものではありません。


 我がファルス男爵家は、そう言った意味において恵まれた貴族です。


 人口は高々三百人程度の漁村を一つ領地として持っているだけですが、大規模なヴォンゴレの養殖場を抱え、その他海産物も豊富。


 それを捌くためのイノテア商会を有し、さらに高級娼館『天国の扉(フロンティエーラ)』の経営まで行っています。


 男爵ですので上納金は少なく、家門の営む事業収益は膨大。


 おまけに“裏仕事”の報酬もありますからね。


 男爵という下級貴族でありながら、下手な伯爵家よりも余程恵まれた経済状況なのが我が家なのです。


 アルベルト様が当主を務めておりますプーセ子爵家が、家格が低めになっているのもこのためです。


 プーセ子爵家は代々の密偵頭ですので、今少し上の家格でもよいのでしょうが、家が大きくなると出入りする人手も多くなりますので、秘密保持の観点から小さめの家門に抑えているのだとか。


 足りない費用も大公家から“機密費”名目で色々と流れ込んでいますから、職務に影響ないとの事。


 この家も大公女殿下の実家という事で、実質一門扱いになるでしょうし、多少の優遇措置もあるでしょう。


 そういう意味では、羨ましい事ですわ。



「まったく、何がどうなっている事やら。とはいえ、大公陛下からの思し召しでは、男爵程度では抗えませぬか」



「別に取って食おうというわけではありませんよ。そのような輩は、一人残らず片付けましたゆえ」



「『処女喰い』か……。事件のあらましは耳にしましたし、解決したのは良かったのですが、よもや娘が家を出ていく事になろうとは」



「私が言うのもなんですが、リミアお嬢様は才能豊かで、大いに伸びる可能性があります。私がしっかりと面倒を見ますので、その辺りは安んじてお任せください」



「……分かりました。ヌイヴェル殿にお任せいたします。どうぞ娘をしっかりとしつけてやってください」



 こうして、私は思わぬ形で弟子を取る事になり、親御さんからの許可も得る事になりました。


 本来なら、弟子は従妹ラケスの腹の中にいる子供になるはずでしたが、事件の影響でとんだ事になりましたわ。


 まあ、リミアが才能豊かである点は、嘘ではありませんわよ。


 もっとも、リミアの持っている魔術は“魔女”には不向きですので、やはり貴婦人として育成するべきだとは思いましたが。


 まずはその辺りからきっちり修正しなくてはなりませんわね。

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