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7-74 事件の後始末 (後編)

 私とフェルディナンド陛下が湖畔であれこれ話しておりますと、そこへ馬が一騎、駆け込んでまいりました。


 やって来たのはアルベルト様。


 法王の前ではさすが失礼に当たるからと、仮面を外しておりましたが、今はいつもの仮面を着け、顔が分からなくなっております。


 一応、陛下とアルベルト様は異母兄弟という事になっていますが、実際は双子の兄弟であり、顔立ちはそっくりです。


 その辺りを勘繰られないようにするため、アルベルト様は人前に出る時は仮面を身に付けたり、あるいは髪を染めたりと、普段から変装を行ってきました。



(もっとも、たまにお互いが入れ替わって、陛下がお忍びで私のところに遊びに来ることもありますがね)



 大公陛下が夜遊びを興じに宮殿を抜け出すというのは体裁が悪いので、兄弟が入れ替わってしまう場面もあります。


 今回は珍しく二人揃って大暴れでしたから、まあ見応えがありましたわ。



「おお、アルベルトか。そちらはどうであった?」



「今のところ、対岸への到達者はおりません。ヴェルナー司祭が言うには、湖の底から凄まじい数の死者の声が聞こえると」



「全員、水面に沈んだか。当然と言えば当然か」



 さすがに甲冑着たまま、湖を対岸まで泳ぎ切るのは無理でしたか。


 結局は水に流される事無く、法王に喧嘩を売った罪をあがなう事となりました。


 ほんと、いい性格していますわね。さすがは私の義兄。



「そうなると、翌日から引き揚げ作業が大変になりますね」



「だな。五百名の及ぶ水死体の回収か。かなり難儀な話だ」



 仮面で見えませんが、声色から面倒だなという感情が漏れ出るアルベルト様。


 船を出し、湖底から死体を引っ張り上げる作業ですからね。


 放っておいて魚の餌にするというのもありなのでしょうが、さすがに沈んでいる者の事を考えると、それは有り得ませんか。



「アルベルト、お前はこのままここに残り、沈んでいる遺体の回収をしろ。特にヴォイヤー公爵と魔女レオーネは速やかに回収するのだぞ」



「それは承知しましたが、世間にはどう公表なさるつもりで?」



「ん~。そうだな。湖で水上訓練を実施中、船が転覆して溺死した、くらいにしておこうか」



「雑ですな」



「まあ、死んだ数や人物の事を考えると、隠し通すのは不可能であるしな。下手に隠すと、却って妙な噂を呼びかねん」



 嘘をつくなら、堂々をしておくのは賛成ですわね。


 世間的には、そうかも、と思わせればよいわけですし。



「では、アルベルト様、ディカブリオとアゾット、あと我が家の手勢もはこのまま残留させますので、いかようにでもお使いください」



「助かる。あとは、ヴェルナー司祭にも残留をお願いせねばな」



「使者の声が聞けますからね。沈んでいる者を一人余さず回収するには、司祭様の御助力も必須ですわ」



「で、魔女殿は撤収すると」



「陛下から、面倒事を押し付けられましたので」



 なにしろ、リミア嬢をより一層、手懐けねばなりませんからね。


 貴婦人として教育するつもりですが、どうにもあの娘は“魔女”に憧れてしまっていますからね。


 いやはや、大公女プリンチペーサが魔女というのはいけませんね。


 表向きな魔女狩りは無くなったとは言え、魔女への偏見は未だに根強い。


 姫君が偏見に晒されるのは、良くない事ですし、陛下の名声に余計な傷をつける可能性もありますから、責任重大ですわ。



「それとアルベルト様、おそらく兵士らと共に沈んでいると思いますが、“フチーレ”の回収もお願いしますね」



「当然だな。あれの構造は私も気になる。それこそ、ネーレロッソと事を構える事になった場合は、あれを繰り出される可能性もある」



「はい。“未知”を“既知”に変えておく事は重要な事です」



「あとは、“火薬”とか言う、燃える砂も回収しておきたいが、さすがに無理か」



 アルベルト様が視線を向けるのは湖。


 燃える砂と言えども、さすがに湖に沈めば湿気ってしまうでしょうし、なにより流されている可能性も高い。


 そちらの回収は難しいでしょうね。



「火薬の件は、ヴォイヤー公爵の邸宅を洗ってみる方が良いかもしれんぞ」



「ですわね。少しくらい残っていれば幸いですが」



 得るものも多かった今回の事件。


 しかし、新たに出てきた謎も多いのもまた事実。


 忙しない日々はまだまだ続きそうです。

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