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7-67 魔女と法王 (5)

 互いに嘘は吐かないとの契約の下、情報交換がなされていますが、やはり長年謎であった“雲上人セレスティアーレ”の情報を知るのは実に有意義です。


 しかも、話す相手は地上の支配者でもある教会の法王。


 情報交換抜きにしてもお付き合いいただければ幸いなのですが、それでもやはり警戒心と言うものはあります。



(図々しいと言いますか、身勝手と言いますか、いきなりこちらを花嫁呼ばわりですからね。何をお望みなのやら)



 道とは闇であり、闇は恐怖を生み出す。


 その闇を振り払うのが情報であり、性格であればある程、闇を切り裂く。


 魔女とは探求者であり、闇を振り払う者というのが私の自負。


 まだまだ知らねばならない事が山ほどありますね。



「さて、地上の人間と“雲上人セレスティアーレ”との違いと言う事だが、最大の相違点は、汝らが言うところの“魔術”についてであろうな」



「魔女狩りに狂奔された事も、今は昔でございましょうね」



「そう皮肉を言うな。あれは当時の“雲上人セレスティアーレ”の上層部の読み違えから始まった愚行だ。今ではそうした愚か者達は隅に追いやられ、もう魔女狩りに興じる事はない」



「“魔女ステレーガ”とは、知識の探究者であり伝承者、そして、魔術の使役者。それを根こそぎ狩り立てるなど、ある種の“愚民化政策”なのでは?」



「そうした側面もあるが、一番の理由は先程述べた“魔術”と言うものの扱いだ。我々は汝らの言う“魔術”を“恩寵”と呼んでいるしな」



 その言葉に私は思わず眉をひそめました。


 魔女狩りが荒れ狂っていた時代、幾人の犠牲者が出たか分からぬほどに魔女、あるいは魔女と疑われた者を死に追いやった事か。


 その原因である“魔術”を、よりにもよって“恩寵”などと真逆の言葉で彩るなど、その傲慢さが透けて見えてくる想いです。



「知っての通り、魔術は誰でも使える」



「はい、条件付けさえできれば、眠っている魔術を呼び起こし、自身に備わっているそれを行使できるようになります」



「それが相違点の一つ。“雲上人セレスティアーレ”には条件付けがいらない。自分がどういった“恩寵”を持って生まれてきたのか、物心ついた時にはすでに“知覚”している」



 これは大きな相違点です。


 地上の人々は自身にどんな“魔術”が備わっているのかを知らない。


 知らないからこそ、突如発現した時に驚きますし、魔女狩りが行われていた時代にはそれを隠匿しようとしました。


 私は【淫らなる女王の眼差しヴァルタジオーネ・コンプレータ】によって相手の情報を覗き見る事が出来ますので、上手くやれば相手を覚醒へと導く事が出来ます。


 そうした手間が省略されるのは、大きいですわね。



「それともう一つは、“恩寵”を複数所持して産まれるということだ」



「複数ですか!?」



「ああ。正確に言うと、“最低三つ”を持って生まれる」



「三つも!?」



 これもまた驚きの事実。


 地上の人間が持つ魔術は一人一つです。


 たまに私のように二つ持って生まれる者もいますが、複数所持で生まれるのはごく稀です。


 しかし、“雲上人セレスティアーレ”はそうではなく、少なくとも三つも持って生まれてくるとの事。


 しかも、条件付けの必要もなく、どういった魔術を行使できるのかを知覚できている点も大きい。


 これは“特別な存在”だと自負していても、決して驕りではありませんわね。



「……とまあ、これが互いの相違点であるが、満足な回答かね?」



「十分すぎるほどの情報です。むしろ、ここまで教えてくれた事の方が意外でございます、聖下」



「なに、“花嫁”へのほんの心づけだよ」



「……それなのですが、なぜ私が“花嫁”なのですか?」



「それを二つ目の質問にするかね?」



 確かに、二つ質問する権利がありますので、それを聞く事も出来ます。


 大いに気になる点ではありますが、尋ねたい質問はまだあります。



(そもそも、私を娶る理由が見えてこない。蓄財はそこそこやってますが、法王のような最高位の方を満足させれる額ではない。かと言って、美貌に惚れているとも思えません。やはり、昔の出来事でしょうか?)



 聖下の言を信じるのであれば、赤ん坊の頃の私と面識があるようですし、その頃に何かあったと考えるのが普通です。


 そう考えると、やはりカトリーナお婆様の影がちらついて来ます。


 あの人なら、何を仕込んでいてもおかしくはありませんからね。



(そもそもの話として、お婆様の本当の功績が見えてこない。一応、魔女狩りを辞めさせ、大手を振って魔女が世間一般に認知されるようになったのは、お婆様が何かを“雲上人セレスティアーレ”と取引したからだというのが、私の推測。それを聞くのが一番でしょうか?)



 いざ聞けるとなると、聞きたい事が多すぎて、一つに絞れませんね。


 ちゃんと前もって優先順位を付けていなかった、私の手落ちです。


 何を聞くべきか、根本的な質問を考えねばと、さらに深く考え込みました。


 そして、私はようやく優先して尋ねるべき事を見出しました。



「では、聖下、二つ目の質問、よろしいでしょうか?」



「うむ。何について尋ねたいのだ?」



「聖下が知る限り、話せる範囲で教えていただきたい事、それは“ラキアートの動乱”についてです」



 百年ほど前に発生したという、五大公の一人ラキアート大公マティアス陛下が、教会に反旗を翻したという事件。


 反旗と言っても、教会側にいくつかの改革を求めただけでしたが、教会の、その裏にいる“雲上人セレスティアーレ”の対応は苛烈でした。


 マティアス陛下の一党はその多くが騙まし討ちに会い、多くが惨殺され、マティアス陛下自身も塔に幽閉された後、家族共々殺されてしまったと伝わっています。


 事件の真相は秘匿され、ラキアート大公家内の相続問題と言う事で世間的には決着がついています。



(しかし、それは真っ赤な嘘であり、“雲上人セレスティアーレ”が支配体制を揺るがす事件として処理し、裏の事情を徹底的に消したはず。それを知る事が出来れば、その後の動きも理解ができるはず!)



 改革派への徹底した弾圧、魔女狩りに狂奔する教会、すべての出発点こそ、今私が利いた“ラキアートの動乱”に端を発している。


 これさえ知る事が出来れば、私は真相に近付ける。


 そう思ったからこその質問。


 さあ、シュカオ法王聖下、あの事件の真相を法王の口から、聞かせていただきましょうか!

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