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7-65 魔女と法王 (3)

 知識を求めるのであれば、相応の対価を用意しろ。との有難いお言葉。


 法王シュカオ聖下の言は、商人の視点で言えば至極真っ当なものです。


 欲しいものがあるならば、代金を支払うのは当たり前ですからね。



(しかし、そういう意味においては、この御方は“暴君”ではありませんね。権力に物を言わせて、無理やり強奪するような真似はしませんでしたので)



 貴族の中には、本当に横柄な方もいますからね。


 庶民なんぞ、搾れるだけ搾り取ってしまえと考える方も多い。


 そんなやり方では、いずれ搾り取る対象がいなくなるというのに、愚かな事です。 


 しかし、目の前の方は世の道理を弁えています。


 支配しながら、その実、持ちつ持たれつなのが人と人の繋がりなのです。


 支配する対象がいなければ、支配者ですら単なる“個”なのですから。



「聖下は裏の事情にもお詳しいご様子。やはり色々とお聞きしたいですわね。折角ご用意いただいた逢瀬でありますし」



「うむ。美女との……、いや、“魔女ステレーガ”との逢瀬は実は法王と言えども“禁則事項”であるからな。少しズル(・・)をして教会法の裏を突き、火遊びに興じているというわけだ」



「それはどういった意味で?」



「端的に言うと、“魔女ステレーガ”との接触は、単独・・では行ってはならないという決まりがあるのだ。必ず別の“雲上人セレスティアーレ”がいなければならず、会話も、ましてや取引など厳禁というわけだ」



「……ならば、今こうしていることも?」



「法王と言えども、教会本部に帰ったら、枢機卿連中からどやされるだろうな。まあ、カトリーナとの約束と違って“絶対”ではないから、多少お小言を言われる程度で終わるだろうが、快く思われんだろう」



 やはりここでもお婆様の名が出てきますか。


 あの人は一体、どこまで食い込んでいたのでしょうね。


 名前が出てくる度に、遥か遠くの存在に感じてしまいます。



「では、その大魔女グランデ・ステレーガ、すなわち私の祖母カトリーナへの質問はできますでしょうか?」



「禁則事項に触れない限りの質問に関して言えばな」



「では、代価として、互いに一つずつ質問するというのはどうでしょうか?」



「ふむ……。等価の情報、とは言い難いが」



「情報などと言うものは“時価”でございますよ。状況、あるいは聞き手によって、価値がいかようにでも変化いたしますので」



「なるほど。それも道理だな。では、それを受けよう。ただし、条件が二つある」



 ここで聖下が、こちらを値踏みするかのようにジロジロ見つめてきました。


 互いに質問をぶつけ合う以上、その中身は必ず自身が知りたい事であるのは当然です。


 こちらは知りたい事が山のようにありますが、聖下が私の知り得る事で未知のものであるのは限られています。



(出せるかけ金(チップ)はこちらが少ない。少ない手札で、出来る限り聞き出せるようにしなくては)



 頭の中を整理し、知りたい情報の中でも優先度の高いものを選んでいきました。



「では、条件だが、まず一つ目は『こちらが先に質問をして、それに答えた場合にのみ、そちらの質問に答える』だ」



 これは納得の条件です。


 あちらがこちらの事を知りたい案件には限りがあります。


 知りたい事を知って、そこで打ち切りと言うわけですが、こちらの手札が少ない以上、これは受けざるを得ません。


 私は無言で頷いて、条件を“了”としました。



「で、もう一つの条件だが、『質問の解答において虚言を禁ずる』だ」



 要するに、嘘の答弁は絶対ダメという話。


 これもまた当然ですわね。



(そう、嘘は止めておいた方がいい。そもそも、私の【淫らなる女王の眼差しヴァルタジオーネ・コンプレータ】を無力化するほどの方ですからね。情報系の魔術を身に付けている可能性が高い)



 そう考えるのが自然です。


 そんな相手に嘘を吐いて機嫌を損ねるなど、それこそ大損害!


 こちらが知りたい事を知る機会を、永遠に閉ざしてしまう可能性がありますので。


 この条件もまた、無言で頷きました。



「では、条件の摺り合わせも終わった事であるし、早速だが質問しよう」



「はい。それで、何についてお答えいたしましょうか?」



 さて、どんな質問が飛び出すのかと、先程以上に緊張をしつつ、身構えていますと、不意に聖下の右手が動きました。


 そして、人差し指をピンと伸ばし、その指さす先には私の右親指。



「その指輪、どこの誰から貰った?」



 真っ先にこの指輪について尋ねて来るとは、やはり目の付け所が違う。


 よりにもよって、“一番聞いて欲しくない質問”が、いきなり飛び出してきますか。



(この指輪は首無騎士デュラハンのガンケンより受け取った物! 集呪ガンドゥルと接触していたなどという話、法王、“雲上人セレスティアーレ”に知られてしまうのはマズい!)



 何しろ、“雲上人セレスティアーレ”は世界に災厄をもたらす怪物、“集呪ガンドゥル”を倒す事を昔から続けてきた方々です。


 その最前線にいるのが、地上の支配者である法王。



(この質問は簡単ではないわ!)



 やむを得なかったとはいえ、迂闊に条件を飲むべきではなかったかもしれません。


 やはり地上の支配者です。一筋縄ではいきませんね。

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