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7-57 爆発音

「どうも初めまして、ジェノヴェーゼ大公国、大公陛下とその取り巻きの方々。俺の名はネーレロッソからやって来た魔女。名をレオーネ=ダ=ヴィンテージ。死ぬまでの短い間、覚えておいてくれ」



 振る舞い自体は貴族への応対ができる程度には優雅ですが、口調ははっきり言えばガサツそのもの。


 下町訛り(スラング)が出ていますし、女の身で一人称が“俺”ですから、育ちが悪いのでしょうね。


 もちろん、それで相手を見くびったり、見下したりするつもりはありませんが。


 さて、どう切り出そうかと思案していますと、フェルディナンド陛下が前に進み出ました。


 得体のしれない相手を前にそれはいくらんでも危ういと、アルベルト様がそれを制しようとしましたが、陛下は構わず前に進み出て、値踏みするかのようにあちらの魔女を品定め。


 まあ、長衣ローブで身を包み、尖った帽子を深々被り、さらに道化師の仮面まで付けているのですから、その全容は全く分かりませんがね。


 辛うじて、声色から女性と判断できる程度です。



「ほ~。ネーレロッソの魔女は、ヴィンテージ村の出身か。あそこは葡萄酒ヴィノの名産地だな。特に泡が吹き出す三変酒スプマンテは極上だ」



「美味しいですよ~、俺の村の酒は」



「次に会うときは、ちゃんと献上品として持って来い。それで今日の一件は水に流してやろう」



「この状況で生き残る自信があるのは、流石に豪胆だね~、大公陛下は」



 なんとも間の抜けた世間話程度の陛下と魔女の挨拶。


 とは言え、ちゃんと情報を聞き出しているのは、流石は陛下。


 貴族はそれぞれ“家名”や“爵位”を持っていますが、庶民はそうではありません。


 “自分の名前”だけの者も多い。


 そのため、家名の代わりに“住所”を用いる場合があります。


 我が家のアゾットやラケスがそうですわね。二人がイノテア家の一員になるまでは、住所を名前に使っていましたから。


 そして、目の前の魔女もその例に漏れず、自身の出身地である村の名前を、そのまま名前として使っているようです。



(つまり、レオーネとか言う目の前の魔女は、“庶民出身の魔女”という事。これは少々面倒ですわね)



 平静を装いつつも、私は思わず心の中で舌打ちをしました。


 というのも、“貴族や名家出身の魔女”よりも、“庶民出身の魔女”の方が、“実戦”においては厄介だからです。


 私のような貴族名家の出身の魔女は、“知識”に偏ります。


 なにしろ、“本”を所蔵しているわけですから、魔女の秘術や知識の伝授は暗号化された“魔導書”を読み解く事により、先代からの知識や技術を継承します。


 一方、庶民出身の魔女は、“経験”を積む事により先代から継承していきます。


 そのため、知識の幅は狭くとも、狭いだけに自身が体得したものに関して言えば、何度も実践して得ているため、熟練度が高い。


 噛み合う相手にはとことん強い。



(さて、そうなると、相手がどんな魔術を使うか早めに見極めないと、その術中に陥る事になるわね。早めにケリをつけないと……!)



 しかし、焦る気持ちが芽生えましたが、すぐに対処できないのが現状。


 なにしろ、フェルディナンド陛下とアルベルト様が何十人か敵兵を倒しましたが、まだ四百数十名はいるのですから。


 距離を詰めて魔女レオーネを仕留めようにも、兵士の壁が邪魔。


 後ろの方から徐々に喧騒が届くようになり、ディカブリオも頑張っているようですが、逃げ道の構築には時間がかかり過ぎる。



(工作員として潜んでいた者が堂々と姿を晒した以上、必勝を期しての事。どんな魔術を使って来る!?)



 この状況でも“期待感”が芽生えてしまうのは、度し難いものです。


 知識の信奉者として、異国の魔女の“技前わざまえ”を見ていたいという知識欲が疼く。


 ああ、本当に度し難いですわね。



「フフフッ……、では、ご期待通り、俺の魔術、その一端をお見せしましょう!」



 レオーネが軽く手を挙げますと、屋敷の中から更に十数名の兵士が出てきました。


 しかし、鎧兜を身に付けていない軽装の兵士で、武装も“長い金属製の筒”を抱えているだけ。


 槍も剣もなしにどうするつもりかと、私はじっくりと観察。


 しかし、アルベルト様が絶叫。



「今すぐ物陰に隠れろ!」



 叫ぶと同時に、自身も馬車の裏に走り、フェルディナンド様もそれに続行。


 私も少し遅れてリミア嬢の手を引きながら、馬車の陰に身を寄せました。


 その直後でした。



 “バァン!”という轟音がいくつも鳴り響いたかと思いますと、身を隠していた馬車が吹き飛んでしまいました。


 繋がれていた二頭の馬も大穴を開けられてグチャグチャになり、馬車本体も砕かれる始末。



「え!? 何!? 雷でも落ちてきた!?」



「あああああああ! 馬がぁぁぁ!」



 リミア嬢とオノーレの叫びがこだまします。


 まあ、叫ぶ気持ちも分かりますとも。


 私自身、相手の攻撃の正体が掴めていないのですから。


 それに馬車の破壊は痛い。馬も車体もボロボロになってしまったのですから、新しく買い替える必要があります。


 とんだ出費ですわね。


 あとで陛下に請求せねば。



「やはりそうか! くそ、こんなものまで持ち出すとは!」



 唯一、相手の攻撃の正体を知っていたであろうアルベルト様は、露骨に舌打ちをしてきました。



「アルベルトよ、あれは何だ?」



「陛下、あれは“フチーレ”と呼ばれる武器です。詳細は私もよく分かっていませんが、金属製の筒につぶてを込め、“火薬”と呼ばれる燃える砂に火を着け、その爆発力で礫を飛ばして来ます」



「ほ~、そんな武器があるのか」



「私も、ネーレロッソ側に放っていた間諜から、多少報告を受けた程度です。銃本体は元より、火薬とやらの製法も一切が不明。それこそ“魔術”の領域ではないかと」



 そして、全員の視線が私に集中します。


 いや~、正直に申せば、困りものですね、はい。


 初めて見る武器、その運用法、それへの対処を即座にやってくれというご注文なのですから。


 相も変わらず、陛下もアルベルト様も無茶ぶりが過ぎます。


 “魔女”はなんでもこなせる万能人ではないのですよ!

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