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7-55 おてんば姫の一撃

 縦横無尽に暴れ回る陛下の立ち回りは、まさに圧巻の一言。


 左手に持つ斧槍ハルバードを振り回しては襲い掛かる兵を吹っ飛ばし、倒れたところを右手の短槍ボアスピアでとどめを刺す。


 その都度、【生贄は槍先にブルチャーレ・ラ・ヴィータ】が発動して、更に強くなる。



(これほどまでに強いとは、流石です、陛下! しかし……)



 陛下の御業が強力無比なのは知っていましたが、同時に弱点もあります。


 それは陛下が“人間”であるという事です。



「怯むな! いかなる豪傑とて、限りがないわけではない! 数で圧し潰せ!」



 さすがにこちらも場数を踏んでいますわね。


 ロレンツォ様も冷静に指示を飛ばしています。


 一方、アルベルト様と対峙するコジモ様は動けないご様子。


 リミア嬢を盾にしているので機敏に動けないというのもありますが、アルベルト様の“黒い手”に恐れおののき、余計にリミア嬢を手放しにくくなってしまっています。


 なにしろ、フェルディナンド様が戦闘を開始したと同時に、こちらでも戦いが始まったのですが、それはもう一方的。


 近くにいた兵士が剣や槍でアルベルト様を攻撃しますが、そのことごとくを“黒い手”で防がれ、逆に自分自身がこの世から消されてしまう始末。


 瞬く間に五人もの兵士が、文字通り消滅しました。



「さあ、死神の腕に抱かれ、主神デウスの御許へ旅立ちたい者は遠慮はいらん。前に出て来い」



 禍々しい魔力を帯びた右手を見せ付けるかのように突き出し、周囲を威圧。


 その威力に、完全に場が飲まれてしまいました。


 【加速する輪廻コロジオーネ・アチレラーレ】、その黒い手に触れたものの“腐敗速度”を超加速させ、あらゆるものを土塊に変える死神の力。


 恐ろしいものです。



(兄弟揃って、ほんと、規格外ですわね)



 縦横無尽に暴れ回るフェルディナンド様は、敵からすれば暴虐の王。


 一方のアルベルト様は、静かに、そして、確実に敵を屠る死神のごとき存在。


 五百の兵で取り囲んでおきながら、たった二人に振り回されていますね。


 なお、私とオノーレは完全に無視されているような状態。


 なにしろ、ロレンツォ様からの指示で、私の身柄は“生け捕り”となっておりますので、誰もちょっかいをかけてきません。


 オノーレも一応、落ちていた剣を握って周囲を威圧していますが、あの二人に比べれば児戯にも等しい練度です。


 馬に関して言えば天下一品でも、武芸の方は多少心得がある程度ですからね。



(さて、この状況、そろそろ動いた方が良いですか。ディカブリオも今少し時間がかかりそうですし、部隊をひっくり返しますか)



 少し離れた位置でも叫び声が響いておりますので、ディカブリオが率いている兵と共に包囲陣の解囲に励んでいるようです。


 様子を見ようと、ヒョイッと馬車に登り、御者台から更に屋根に上ると、包囲網の外側で人が“宙を舞っている”のを視認できましたので、間違いなさそうです。


 怪力剛腕、“熊男爵バローネ・オーソ”の異名、嘘偽りなしですね。


 頃合いだと判断した私は、そのまま顔をリミア嬢に向け、絶叫。



「拳を握れ! 復讐のために!」



 私の声に反応し、リミア嬢は両手に力を込め、思い切り握り拳を作る。


 すると、姫君らしく装飾品であちこち着飾らせていましたが、その内、両手につけていました指輪から、棘が生えてきました。


 アルベルト様が用意した暗器で、握り拳を作りますと、針が飛び出す仕様になっているのです。


 そして、リミア嬢はそれを振り上げ、肌の露出部、すなわちコジモ様の顔面にお見舞いしました。



「ぎゃ!」



 針が顔面に突き刺さり、思わず悲鳴を上げたコジモ様。


 少女の拳程度では怯まないでしょうが、その手に突起物があれば話は別。


 指輪の針は頬と耳に刺さり、リミア嬢が逃げないように軽く締め上げていた腕を離してしまいました。


 そこからリミア嬢の動きもまた速い。


 解放されると同時にすぐに後ろを振り向き、怯んだ相手を蹴り上げ、股間に一撃を加えました。


 少女らしからぬ一撃。


 逃げるどころか、果敢に反撃するその姿勢は、勇猛と呼ぶに値します。


 股間を通じて全身に激痛が走り、前のめりに倒れたコジモ様に向かって駆け出し、左手で首を掴み、右の“黒い手”を鼻先にて寸止め。



「全員、動くな! コジモを捕らえたぞ!」



 喧騒著しき包囲網の中、アルベルト様が一喝。


 そこを中心として、次々と兵士の動きが停まっていきました。


 まあ、主家の若様が今度は人質に取られたのですから、当然でしょうね。


 なお、リミア嬢は用が済んだとばかりにササッと離れ、私のところへと駆け寄ってきました。



「ヌイヴェル様! 私、やりましたよ!」



 無邪気な少女の笑みは、この殺伐とした空間には不似合い。


 ですが、死を乗り越えて戻ってきたのですから、温かく迎えてやらねばなりません。


 私はぴょんと馬車から飛び降り、リミア嬢を優しく抱き締めました。



「お見事でございますわよ、お嬢様。間違いなく勲功第一です」



「えへへぇ~♪」



 笑顔の少女を撫でつつ、私は次の段階に移ったので、さらに思考を進めます。


 フェルディナンド陛下とアルベルト様の圧倒的な武威を示しつつ、人質のリミア嬢を解放し、逆にコジモ様を人質に取る。


 状況は逆転しました。


 ここでロレンツォ様が大人しく引き下がってくれれば良いのですが、すでに謀反は始まってしまっています。


 収まるのか、息子を見殺しにしてでも続けるのか、どちらの目が出るか。


 さあ、答えていただきましょうか、謀反人!

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