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7-51 黒幕登場

 フェルディナンド陛下が乱入し、事態がより深刻になりました。


 完全に先読みされ、こちらの想定してた五倍もの兵を隠していたのは、完全にこちらの読み違えでした。


 その状況下で陛下がやって来たのですから、マズいどころの話ではありません。



「陛下! 撤収を!」



「いや~、無理だろ。道が塞がれている」



 呑気な態度を崩さない陛下ですが、実際逃げ道は塞がれいています。


 何重にも兵が包囲を築き、こちらを逃すまいとしています。


 ディカブリオの腕を以てしても、この厚みのある布陣を穿うがてるかどうか。



「クハハハハッ! ようこそお越しくださいました、陛下! 歓迎いたしますぞ!」



「コジモ、歓迎という割には、酒席の用意が出来ておらんな。酒も料理もない宴など、実に面白みに欠ける。おまけに“華”が二名というのもいただけんな。おまけに、片方は咲いてもいない“蕾”ときた。華やかさにおいても全くダメだな」



「その余裕の態度、いつまで続きますやら」



 すでに包囲下にあり、実際、指示一つで周囲の兵が襲い掛かって来るでしょう。


 そうなれば、いかにアルベルト様とて、陛下を守り切れるかどうか。



「そこまでにしておけ」



 二人の間に割って入る声は、屋敷の中から飛んできました。


 玄関の方を見ますと、一人の老人が立っていました。


 老人と言っても齢を感じさせるのは白髪の頭髪だけで、背筋はぴんと張り、身体から溢れる生気は壮年のそれ。


 老人とは思えぬ活力で溢れております。


 その姿には、見覚えがありました。



(あれは、ヴォイヤー公爵ロレンツォ様! 公爵自身も噛んでいましたか!)



 予想していた事とは言え、公爵家当主自らが出てくるとなると、さすがに私もたじろいでしまいます。


 “若様の悪戯”ではなく、“当主が画策した簒奪”なのが確定したのですから。



「陛下、息子の手際の悪さに酒席を用意できなかった点は、お詫び申し上げる」



「詫びる態度とやらが一切感じぬがな、ロレンツォ。いやはやこうもあからさまに反旗を翻してこようとは、正直驚いているぞ」



 両者の視線が交差し、互いに尊大な態度を見せ付けながらに、緊迫した空気が辺りに充満します。


 どちらも後には引けない、そういう雰囲気です。



「しかしなぁ、ロレンツォよ、何が不満で簒奪など企む?」



「不満だと!? 不満しかないわ! 我がヴォイヤー公爵家こそが、ジェノヴェーゼ大公国の“本当の大公家”なのだぞ!? これは簒奪ではない、奪還だ!」



 鼻息荒く、声も絶叫と呼べるほどの怒りに満ちたもの。


 ロレンツォ様の怒りが手に取るように分かりますが、その怒りの原因というものがいまいち見えてきません。



(簒奪ではなく、奪還ですか)



 現在、ジェノヴェーゼ大公家はもちろんフェルディナンド様が当主です。


 この正統性に異議を唱えるという事は、過去に相続の関係で何かがあったという事を意味しています。


 大公家やその血縁でも、色々とあったのですね。



「ふ~む。それが理由となると、“ラキアートの動乱”の際の事か?」



「そうだ! 当時の大公家には直系男児がおらず、二人の大公女が嫁いでいた者が次の継承者になる。一人はワシの祖母であり、今一人は陛下の曾祖母だ」



「ですな。……ああ、その時、敗れた事への腹いせ(・・・)というわけか」



 陛下も妙に納得した風に、首を何度も縦に振りました。


 おまけに、百年ほど前にあった“ラキアートの動乱”に関する事ですか。



(あの時は、ラキアート大公率いる“改革派”に属したり、あるいは同調していた貴族は、かなりの数が粛清されましたからね。それの煽りを受けた、というわけですか)



 私とて、全てを知っているわけではありません。


 一応、各地の貴族に関する記録は収拾し、頭の中に叩き込んではいますが、それでもあくまでそれは“表向き”な情報に過ぎません。


 “舞台裏”の情報ともなると、当事者でなければ知らない、秘された物というのもかなりの数になります。


 情報収集にも、限度というものがあるのは当然。


 つまり、目の前の大公家所縁(ゆかり)の両家も、色々とあったという事でしょうね。



「あの時、ジェノヴェーゼ大公国もどちらかというと、改革派寄りの者が多かった。教会の横暴ぶりには、少々腹に据えかねている者も多かったというわけだ。ワシの祖母、そして、陛下の曾祖母の嫁ぎ先もまた、そうだった」



「だな。そして、私の曽祖父がそれを“裏切った”と」



「そうだ! 土壇場で改革派から身を引き、例の大粛清から逃れた! それどころか、色々と改革派の情報を横流しして、教会側に媚びを売るとは!」



「むしろ、それが正しい行いだろう? その後の大粛清の結果を見れば、さっさと手を引き、自身の家を守ったのだからな」



「だったら、我が家を売るような真似をなぜした!?」



「知らん。あの世へ行って、当人に聞いてくれ」



 陛下もすまし顔で答え、知った事かという態度。


 まあ、百年前の事で責任を取れ、家督や財産を寄こせと言われましても、今を生きる者からすれば、知った事ではないですわね。


 よくもまあそれだけの恨み事を、今の今まで溜め込んでいたものです。


 その点は感心致しますね。



「おかげで我が家は没落し、その勢力をどうにかこうにか取り戻した時には、すでに大きく引き離され、問題のジェノヴェーゼ大公家の家督は、そちらに流れた! あれさえなければ、あの事件さえなければ……!」



「要は、危機察知能力の低さで、事件の巻き添えを食う羽目になった、という事ではないか。恨むなら、先見の明に乏しかった祖父母を恨む事だな。こちらにどやかと言うなど、筋違いも甚だしい」



「ならば、今こうして危機的状況の陥った陛下もまた、その考えに殉じていただきましょうか!」



「やってみるがいい。できるのであれば、な」



 火花を散らす二人ですが、この状況、ひっくり返すのは難しい。


 最悪、私だけでも脱出するかとも考えましたが、逃げたところで“この場面”を目撃しましたロレンツォ様より、後々追及されるのは必定。


 逃げ道などと言うものは始めから無かったのかと、今更に思う私です、はい。


 ゆえに、期待しましょう。


 私の三枚舌では、“荒事の前”においてこそ活躍の場があります。


 しかし、今はすでにその場面を通り越し、“荒事”の御時間です。


 陛下の“槍捌き”と、アルベルト様の“黒い手”が、どこまで突き進めるのか、これに託すより他ありませんね。


 頑張ってください、お二人とも!

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