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7-43 大きな餌と釣り針

 納屋の中で話し合った事を、早速アルベルト様に報告しました。


 どんな拷問を行って吐かせたのかと思っていたようで、まさかの裏取引に少しばかり驚いているようです。



「まあ、百歩譲って、司法取引の件は良しとしよう。問題は、あの二人が信用できるかどうかなのだぞ?」



 アルベルト様は懸念はもっともですね。


 信用があるからこそ、契約が交わされ、取引が成立するのですから。


 信用の薄い連中との取引など、報酬の先払いをしてもらうか、あるいは何かしらの担保を確保しておくのが鉄則ですからね。


 そして、こういう政治絡みの案件での担保とは、“人質”を取るのが相場と決まっております。



「息子が一人いるとか言ったな。それを人質にでもするか?」



「いいえ。それではカーナ伯爵が、激発しなくなる(・・・・・・・)可能性があります」



「ほ~、わざと裏切り易い状況を作り、その上で放置すると?」



「はい。かの御仁に関しては、信用に置けない、という点を信用しておりますので」



 先程のやり取りは、でまかせであるのはお見通しです。


 納屋から出る際に二人を掴み、すでに思考を盗み見た後ですからね。



(結果は真っ黒! どうやって出し抜いてやろうか、この思考で満たされていましたからね。隙を晒せば、間違いなく後ろから襲い掛かって来るのは確実)



 我が魔術を甘く見過ぎですわ。


 まあ、【淫らなる女王の眼差しヴァルタジオーネ・コンプレータ】の事を知っているのは、本当にごく限られた者だけですからね。


 分からなければ、手の打ちようがないのは必定。


 触っただけで思考を読み取られるなど、普通の方々からすれば反則チートもいいいところですわ。



「それで、万全を期すために、いくつかまた小細工をしておこうかと」



「再び魔女の詐術か。どうする?」



「まずは礼部に手を回し、大公陛下とリミア嬢の“養子縁組”をでっち上げます」



「なるほど。つまり、リミア嬢に手を出そうとした段階で、コジモは陛下に弓引く反逆者というわけか」



「男爵令嬢よりも、大公女殿下の方が遥かに格上ですからね。言い逃れできない状況を作り出せます」



「なら、礼部の方はチロール伯爵に頑張ってもらうとするか」



「ユリウス様なら、すぐにでも動いてくれるでしょう。もちろん、公文書の偽造も含めて、ね」



 妹分ジュリエッタの上得意にやらせるのはいささか気が引けますが、他に頼める場所もありませんからね。


 ユリウス様は礼部の次官補。地位と権限を使えば、養子縁組のでっち上げ程度、すぐにやってしまうでしょう。


 それに、多少の事情説明をして、“勅命”という事にしておけば、問題はないはず。


 目の前のアルベルト様もまた、ユリウス様から見れば叔父でもありますしね。



「それに加えて、更にもう一芝居打っておきます」



「ん~、あれか、私に兄上の変装でもしろと?」



「はい。チロール伯爵の相続の時のように、“影”として動いてもらいます」



「それも面白そうだな。大公女殿下に手を出そうとして、そこに大公陛下が直々に顔を出したらどういう反応になるか、面白い余興になりそうだ」



「大魚を吊り上げるのには、大きな餌と釣り針が必要でしょうから」



「当然の理論だな」



 アルベルト様はニヤつき、作戦の“了”を示した。


 アルベルト様とフェルディナンド陛下は双子の兄弟で、容姿はそっくり。


 そのため、影武者として動かれる場合もあります。


 普段は髪を染め、あるいは仮面を着け、容姿が同一である事をごまかしていますが、変装を解けば本当にそっくり。


 鏡を見ているのかと思うほどに似ております。


 ただ一点、右手に宿す“死神の黒い手”だけが、両者の差異を示している。



「よかろう。それでその策は、いつ実行に移す?」



「明日の夕刻には、ヴォイヤー公爵家の別邸に向かおうかと」



「準備期間、一日か! また急かすな!?」



「相手に余計な思考をさせない事。何より、“鮮度”が命ですから」



「まあ、表向きはリミア嬢を確保して、それを送り届けるって話だからな。確保、そして、身支度、別邸への送迎と考えると、時間的猶予は一日がいいところか」



「万全を期したいところではありますが、時間の猶予がないのも事実。こちらに有利な点があるとすれば、あちらの方がより準備不足という事でしょうか」



 何しろ、こちらは今から準備を整えるのに対して、あちらはそれができない。


 しかし、相手の懐に飛び込む以上、地の利は向こうにあるのも事実。


 微妙なところではありますが、公爵家への強制捜査がやりにくい以上、犯罪行為を誘発させ、現行犯で現場を押さえるしかありませんからね。



「では、すぐにでも動くとしよう。ユリウスに使いを」



「ユリウス様は『天国の扉(フロエンティーナ)』におりますよ。今夜はジュリエッタに予約を入れておりましたから」



「あやつめ、こっちが散々苦労しているというのに、女遊びとはいい御身分だな」



「まあ、今回は礼部が関与する事のない“裏仕事”になる予定でしたからね。思った以上の大物がお目見えして、こちらも慌てて仕掛けやら釣り針やらを交換している最中ですし、ユリウス様が遊んでいるのを責めるのは酷な話ですわ」



 実際、状況が二転三転しましたからね、今回の一件は。


 当初は連続誘拐略取の捜査だったのが、貴族の関与が疑われていき、しかもネーレロッソ大公国の横槍まで疑われる始末。


 誘拐犯を締め上げて終わりのはずが、今や国家転覆の一大事件です。


 この数日、気の休まる時がありませんし、しかもこれから最大の捕り物劇が始まりますからね。


 さらに気を引き締めねばなりません。



「ダメですね。全然聞こえません」



 納屋の壁に張り付き、聞き耳を立てていたアゾットが首を横に振りました。


 伯爵と御者が何を話しているのかと盗み聞きをさせていたのですが、徒労に終わってしまったようです。



(まあ、後で私の魔術で聞き出せばよいだけ。触りたくはないけど)



 『処女喰い』などという下劣な犯罪をやらかす輩に触れるなど、本来なら忌避すべき事です。


 捜査の為でなければ、さっさと逃げているところですわ。



「では、こちらも動くと致しましょう。ディカブリオ、お前は『天国の扉(フロエンティーナ)』に行って、ユリウス様に事情を説明し、協力を仰ぎなさい。遊びの邪魔をした詫びも含めて、ちゃんと申し伝えるのですよ」



「了解しました!」



 ディカブリオは箸って自分の馬の方へと向かいました。


 まあ、立場的には店の支配人の息子ですからね。多少の騒動も何とかなるでしょう。



「さて、それでは“互いに”作戦会議は終わったでしょうし、交渉といきましょうか」



 再び納屋の方に向かって歩き出す私。


 ディカブリオに変わって、今度はアルベルト様が一緒に入ります。


 さて、大人しくしてくれるのか、それともやはり裏切るのか、それは交渉次第ですわね♪

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