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7-34 白い魔女は下品な言葉で罵り倒す

「落ち着け、貴様ら! 狙いの娘はまだ馬車の中にいる!」



 動揺する周囲に対して、カーナ伯爵マッサカーが叱咤が飛ぶ。


 さすがに賊の頭領ですし、周りの有象無象よりかは頭が回りますね。



「おい、馬車が検問を出発する直前は、娘しか乗っていなかったのだろう?」



「は、はい、伯爵様! それは間違いなく!」



「なら、話は簡単だ! お前が検問の兵士と話している内に、死角になっている方の扉から素早く車内に入ったって事だ! そして、“隠し棚”に潜り込めば、見た目的には誰もいない風に見える!」



「……あ! なら、出発前は中に潜んでいて、走り出してから隠し棚から飛び出して、入れ替わったって事ですかい!?」



「そういう事だ! だから、娘は座席下の隠し棚に入ったまんまだ!」



 まあ、当然ではありますが、そういう結論に達しますわね。


 そして、それは大正解。


 隠し棚の存在に気付き、現状を鑑みれば、誰でも分かる単純な仕掛けですからね。


 私は狭くて暗い場所に慣れておりますが、リミア嬢には少々きついかもしれませんね。


 さっさと目の前の愚か者共を処理して、隠し棚より出してあげねば。



「だったら、このババアぶっ殺して、さっさと娘を連れて行きましょう!」



「当然だ! ババアには用はない! 目的はあくまで、娘の方だ!」



 こやつらめ、またしても私をババア呼ばわりしますか。


 なんという見る目のない連中でありましょうか。


 そろそろ私も我慢の限界ですね。



「しかし、魔女め。貴様も迂闊な事よな!」



「何がでありましょうか?」



「話を聞くに、馬車を見送る場面までいたという事は、馬に乗って検問まで先回りしたという事だろう? 下っ端とは言え、貴族、男爵夫人を名乗っていながら、こんな捕り物や捜査の“餌”にされた事をだ!」



「いえいえ、約束された報酬があればこその奮起でございますわ。それに、私、娼婦でもありますから、“お馬さん遊び”が大の得意でございますのよ? 今までいかほどの荒馬を乗りこなしてきたことか。その数は百や二百では利きませんわ」



「貴族の夫人が馬車ではなく、馬に跨るとは、なんとはしたない事か! おまけに、何頭も乗りこなしたと自慢気に語る様も、下賤な娼婦に相応しい。所詮、成り上がりの男爵だな!」



 言っている事には理がないわけではありませんが、私の神経を逆撫でする物言いは気に入りませんね。


 確かに娼婦は、一般的に汚らわしいと思う者もおりましょう。


 七つの大罪の内、“色欲ルクスーリア”そのものを表す存在と思われていますからね。


 魔女に相応しい姿ともいえましょう。



(しかし、その色欲無くば、未来を描けぬのが生物というものでありましょうに。それを無視して、お高くとまっているのは、どうにも鼻につく。おまけに『処女喰い』などという埒もない悪行に手を染めていて、よくもまあ言えるものだわ)



 いちいち癇に障る物言いに、私も久方ぶりに“憤怒”に心を支配されそうですわ。


 おまけにババア呼ばわりですからね。


 本気でキレそうです、はい。


 

「やれやれ、私のような美人を捕まえて、ババア呼ばわりとは嘆かわしい。金さえ払えば、あなた方を夢心地に落とし込んでやろうというのに」



「ハッ! 中古には価値がないだよ! それとも魔女よ、あれか、誰かが舐めた飴玉を、お構いなしに口に入れるというのか!?」



「なるほど、伯爵様、思っていた以上に意外と頭がよろしいようで。その物言いであるならば、一理ないこともない」



 たしかに、飴玉であれば、誰かが舐めればそれで売り物にはならない。


 しかし、それを女性と同列に扱うとは、見下げ果てた男ですね。


 私の不機嫌度の度合いが更に一段、上がりましたわね。



「伯爵、あなたにとって、女子は飴玉ですか? しゃぶりつくものですか? 甘くて美味しい食べ物ですか?」



「手垢が付いては、買ってくれないからな。何事も新物あらものが一番! もちろん、女もな! 誰かの喰いかけ、食べ残しなんぞに価値はない!」



 なるほどなるほど、理解しました。こやつらを生かしておく理由は一つしかなくなったわ。


 証人として、伯爵と御者以外はまとめて死んでいただきましょう。



「……公爵家の取り巻きも大変ですわね。特に、お坊ちゃんの変態趣味に付き合うともなると、ある意味同情いたしますわ」



「…………! そこまで調べがついていたのか!?」



「あまり、魔女の手管を侮らないでいただきたいですわね。どこからともなく嗅ぎ付けられて、情報を抜き取られてしまうものですよ」



「長く喋り過ぎたようだな……。おい、早くこのババアを」



「はい、皆さん、前方にご注目!」



 私は道の先に顔を向けますと、居並ぶ顔触れもそちらを向きました。


 そして、そこに見えましたるは無数の“灯火”。


 何十本という松明の列、それが近付いてきているのが見えました。



「あれは!?」



「バカですね。細腕の女子が二人、何の備えもなく“餌”になると思ったのですか?」



「クソ! 罠を張っていたか!?」 



「フフフッ……、ご理解いただけましたか、クソ野郎の皆様方!」



 言ってやった。言い切ってやったわ。呆然とする男どもを上から見下ろすのはなんとも心地よい。


 見ていて面白いですわ!


 いささかお下品な言葉遣いですが、目の前の下劣な“クソ野郎ども”にはお似合いの言葉ね!


 さあ、怖ぁ~いお兄さん達がもうじきゾロゾロやって来ますわよ♪

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