表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/404

7-32 狭くて暗い場所

 ガタゴト揺れながら進む街道を進む馬車。


 律義に振動が私の体に伝わってきますが、外がどうなっているのかは分かりません。


 なにしろ、今、私がいるのは完全なる暗闇。


 一筋の光すら差し込まない狭くて暗い場所なのですから。



 コンッ、コンッ、コンッ!



 誰かが板を叩く音。



 コンッ、コンッ コンッ!



 私も同じように三度叩く。



「上手く行きましたね、ヌイヴェル様」



「おお、上出来上出来。問題なく入れたな」



 そう私がいるのは、リミア嬢が腰かける座席の下。


 丁度、人一人が入れるくらいの狭い空間の中に、自分を押し込めましたのでございます。


 何の事はございません。


 先程の“偽”の検問所で、素早くこの中に飛び込んだのでございます。



(実に単純な仕掛けです。アルベルト様の権限で、馬車の進路上に検問をでっち上げ、そこでディカブリオがこの馬車を呼び止める。そして、御者の注意をディカブリオとリミア嬢が引いている内に、反対側の扉を開けて、私が馬車に乗り込む。この馬車は我が家の物ですから、構造は熟知していますからね。“密輸用の隠し棚”くらい、用意してありますわよ)



 貴族の馬車は検問や通用門に引っかかっても、ろくに検査もせずに通される事がザラですからね。


 こうした“隠し棚”を仕込み、見つかるとうるさい品を持ち込んだりする事も多々あります。


 おそらく、御者もそれを利用して、密輸に手を染めていたのでしょうけど、よもや今回はそれをやられたとは考えませんでしょうね。



(今はまだ何もしていないとはいえ、もうすぐ誘拐という犯罪行為に移るのですし、詮索されるのは極力避けたいと思うのは当然の心理。さっさと馬車を走らせて、目的地に向かいたいと考えるでしょうよ)



 現に、“大事な積み荷”であるリミア嬢は自分の目の前にいて、馬車の中も“見た目的”には何もない。


 そうなれば、さっさと馬車を走らせるのは当然です。


 まさか検問であれこれ話している内に、見えない方の扉を開けて中に入られ、挙げ句の果てに“隠し棚”に人が乗り込もうなど、考えもしない事です。



(犯罪者ゆえに、“隠し棚”の存在を知りながら、それを開けて調べなかった御者の失策ですわ。検問でそんな事をすれば、別の面倒事にもなりかねませんからね)



 書類も本物、積み荷も本物、だから誰もが信じる。


 “裏の業界”に通じている御者の男も、まんまと騙される。


 そもそも運航計画書や通行手形も、“犯罪集団を一網打尽にする”ために、本物を用意したのですからね。


 陛下の捺印が施された書類を、誰が疑うというのでしょうか。



「それでヌイヴェル様、これからどうしますか?」



「予定通り、例の林道に差し掛かるまでこのままでいく。その付近まで来たらば、私とあなたが入れ替わり、あいつらを化かしてあげるから」



「……あの、今更ですけど、そんな狭くて暗い場所、大丈夫なのですか?」



「なに、狭くて暗い密閉空間なんぞ、“いつもの事”ですよ」



 まあ、ヴェルナー司祭様のお遊びに付き合っていますからね。


 あの方とは、毎度毎度“棺桶の中での逢瀬”を繰り返していますから、人が入れる空間さえあればいくらでも入っていられますよ。



(妙なところで役立ちましたね、あの変態行為は)



 やはり、人生というものは何事も経験が物を言うなと、しみじみと感じ入る次第です。


 と言っても、やはりこの振動はいただけませんね。


 馬車の中なので致し方ありませんが、真っ暗な上に揺れがあるのは思っていた以上にきついのかも知れません。


 ヴェルナー様の荒い息とどちらがマシかと、真剣に考えたくもなります。



「しかしまあ、楽しみじゃな」



「何がですか?」



「いや、ほらな、可愛らしい少女を誘拐したつもりが、蓋を開けて出てきたのは年増女が堂々登場! どんな間抜け面を晒すか、今から楽しみなのですよ」



「ヌイヴェル様、確かに私より二十以上も年上ですが、まだまだお美しいですよ!」



「あら、嬉しい事、言ってくれますね。このまま私の針子として雇われぬか? 姉のクレア嬢も一緒にな」



「それだと、お父様が泣きますよ。娘が魔女にかどわかされた、と」



「フフフッ、『処女喰い』に食べられるよりかは、魔女の使い魔になる方がマシな選択というものではないか?」



「確かに。ヌイヴェル様の側仕えなら、退屈とは無縁でしょう」



「そうじゃろ、そうじゃろ。まあ、考えておきなさい」



 などと外には漏れないように小声で話しながら、馬車の旅を満喫しました。


 さあ、準備は整った!


 『処女喰い』の愚か者共め、裁きの時は近いですよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ