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7-27 おとり捜査(4)

 最悪を想定しての話ではありますが、連続誘拐事件が国家転覆を企む巨大な陰謀へと早変わり。


 想像力が豊かだと“揶揄”されそうなお話ではありますが、それを信ずるに足りる前例や現在の状況というものが匂って来ているのもまた事実。


 アルベルト様もそれを敏感に感じているからこそ、密偵頭という立場も相まって苛立ちを隠せないご様子です。



「とにかく、手っ取り早く片付けて、ヴォイヤー公爵を締め上げねばならんな」



「ごもっともではありますが、まずは手順通りに進めましょう。目的地にたどり着くまでにはいくつか“橋”を渡らなくてはなりませんが、相手に勘付かれたらば、その橋を切り落とされてしまいますゆえ」



「分かっている。そのための“おとり捜査”だろ?」



「はい。手早く、そして、着実に縛り上げるためには、表に出てもらわなくてはなりません。生餌を使って」



 視線は改めてリミア嬢に集中します。


 すでに例の御者には“送迎”の手配を仮予約程度ではありますが、前金と共に伝達してあります。


 状況は動きつつあり、今更別の策を打つ猶予はありません。



(特に重要なのは、生餌の存在よね。年若い処女で貴族のお嬢様、これの条件を満たせるのが、現状リミア嬢だけ。貧民を金で雇っては振る舞いでバレる可能性が高いし、そうかといって“本物”であればこんな危険な仕事を引き受ける者はなし。リミア嬢にしても姉のクレア嬢の仇討ちという話があるからこそ、あえて飛び込んできてくれたわけですしね)



 少女を生餌にして相手をおびき寄せるなど、紛れもなく外道な手法。


 やっている事は『処女喰い』と変わりません。


 唯一違う点は、“少女本人の許可の有無”でしょうか。


 こちらは了承済みであり、あちらは無理やり襲い掛かる。


 許可を得ている、これだけがこちらの正義の証です。



「それでヌイヴェル様、どのよう手順で行かれるのですか?」



 意気込んではいても、若干不安げにしているリミア嬢から質問が来ました。


 まあ、魔女の手管、しっかりとお見せいたしましょう。



「そうですね。まずは三日、四日ほど間を開けて、それから先方に送迎の依頼を正式に出します」



「今日明日に依頼するのではなく?」



「それでは早すぎます。情報は伝達するのに時間がかかるのですよ。おそらくは。御者から何かしらの伝者へ、伝者からカーナ伯爵へ、カーナ伯爵からコジモ様へ、という具合にね」



 実行役と主犯の間には、予防線を張るために幾人も間に挟むのが定石。


 情報伝達の迅速さを犠牲にすることで、足が付きにくくなるという利点を確保します。


 そのため、仮に“美味しい情報”が持ち込まれたとしても、実行役はすぐには動けないという事がままあります。


 上役にお伺いを立てねばなりませんからね。



(むしろ、私に好き放題させているアルベルト様やフェルディナンド陛下の方が、常道を外しているとも言えますわね)



 お二人から仕事を持ち込まれますが、基礎情報と大方針については伝達されますが、どうやるかについてはほぼ自由にさせてもらっています。


 下手に制限をかけるよりも、放っておいた方が話が進むという、妙な信頼感を与えてしまっているようです。


 実際、持ち込まれた案件はちゃんとこなしていますからね。



「そこから更に三日、四日を準備に費やします。つまり、作戦実行は一週間後くらいになりますね」



「それで、私はどうすれば?」



「まずは変装。本来の姿であれば、先方にバレますからね。化粧やかつらで姿を誤魔化し、その姿で送迎してもらいます。もちろん、単独で」



 同乗者がいては、襲いにくくなるので、先方が嫌がります。


 少女一人で馬車に乗り込めば、まさに襲ってくださいといっているようなもの。


 実際、クレア嬢が襲われたのも、そういう状況でしたからね。


 その再現を狙うために、リミア嬢もまた姉同様、単独行動となります。



「でも、大丈夫よ。ちゃんと、あなたに危害が加わらないように、こちらも罠を張って相手を絡め取りますから」



「もちろんです! あいつらをとっちめて、姉さんの仕返しをしてやるんだから!」



「意気込むのは結構。でも、作戦通りに演技はよろしくお願いしますね」



 そして、私は頭の中に描いている作戦の概要を説明しました。


 アルベルト様は大笑いし、アゾットもまた面白そうだとニヤついております。


 ディカブリオは準備が大変だと若干悩ましい顔になっていますが、やらざるを得ないと渋々承諾してくれました。


 リミア嬢は始めからやる気満々でしたので、策の中身を聞くなり、前のめりに賛意を示してくれました。



「ともかく、一網打尽にして、そこから徐々に相手の“上”をたぐい寄せていかなくてはなりません。準備は抜かりなくお願いしますね」



「言われるまでもなく、な。では、ディカブリオ、すぐに兵を集めるぞ。それと、必要な小道具も全部揃えるのだ。アゾットは町医者や酒場を回り、“噂話”を拡散させろ。今回に限って言えば、本職の私がやるより、“医者”であるお前の方が適任だ」



 さすがに作戦を立てた後は、アルベルト様も動きが早い。


 必要な指示を次々と出しては、自身もまたすっ飛んでいかれました。



(さて、こちらは数日待機の後、相手に正式な依頼を出して、罠にハメて差し上げましょうか)



 ただ待つのもあれですので、リミア嬢の服でも見繕っておきましょうか。


 表向きは“どこぞの子爵家へのお使い”というわけですし、それなりに身だしなみを整えて送り出さなくては、相手にいらぬ疑念を持たれかねません。


 それに、化粧もより念入りにして、身バレを防がねばなりません。


 意外とやる事があるものだと思いつつ、その時が来るのを待ちましょう。


 さあ、まずは作戦の第一段階。上手くヴォイヤー公爵家への道筋が潰される事無く、繋がっていてくれると良いですね。

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