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7-20 嫌な巡り合わせ

 公都キャピターレゼーナでの探索の結果、ようやくにして瘢痕の男の居場所を掴みました。


 何日もの地道な捜査が実を結んだといったところでありましょうか。


 裏稼業を営む口入屋に潜み、ほとぼりが冷めるまでジッとしていたのでしょうが、思わぬ餌が飛び込み、うっかり顔を覗かせてしまったのでしょうね。



(さて、ここからが忙しくなるわね。上手く相手を誘導し、リミア嬢を襲わせて、現場を押さえなければなりませんからね)



 アルベルト様にはリミア嬢を囮にする作戦は“最後の手段”などと述べましたが、実際はその方法で行く気満々です。


 姉のクレア嬢への略取に妹として激怒し、自身の体を差し出してきてまで報復すると言ったのです。


 これでただ隅で見ていただけでは、彼女の心意気を踏み躙ってしまうだけ。


 ですので舞台に上がっていただき、最も注目される位置に立たせてあげるのも、今回の仕事の内と考えております。



(もちろん、襲われると言っても未遂で終わらせるので、当人に危険は及びませんけどね。そう、寸止め、寸止め~♪)



 処女の娘を生餌とし、相手を罠にハメる。


 自分も十分外道よね、などと思いつつ馬を走らせ、港湾都市ポルトヤーヌスまで戻ってきました。


 ゼーナかやヤーヌスまでは、馬を走らせれば一時間程度で着くご近所。


 両者の間には広い街道が整備されており、人の往来は絶えないほど活況に満ちております。


 また、歩行者用と乗馬・馬車用の道も分けられており、急いで馬をすっ飛ばしても、人を跳ね飛ばすような事にならないのも速さの理由です。


 そんなこんなでヤーヌスの市街地に入りますと、さすがに馬の足を緩めます。


 大通りは人が多く、さすがに街道と違って馬で疾走というわけにはいきませんのでね。


 しかし、今日は特に込み合うなと不審に思っておりますと、なにやら人だかりが出来上がっていました。


 何かの出し物か特売でもやっているかと思ったら、さにあらず。


 簡易な壇上に一人の神職の男が乗り、そこから辻説法で色々と捲くし立てているではありませんか。


 行き交う人々は足を止め、その吟じるように放たれる説法に聞き入っています。



(あ、あれはヴェルナー司祭様!?)



 説法を行っていたのが、見知った顔であった事に私は驚き、しかもよりにもよってヴェルナー様である事に驚愕しました。


 かの御仁は従弟ディカブリオの父方の伯父であり、最愛の奥方を亡くされたのを機に、出家して神職になられました。


 その際に私はあれこれ小細工を弄して、そうなるように仕向けたのですが、その“小細工”がバレた後、それを誤魔化すために“天使”になってしまったのが、今の私です。


 そのため、ヴェルナー様は天使の息吹を感じるため、神職でありながら娼館通いを行うという困った秘密があります。



(あ、まずい! 予約取り消しの件で、絶対に怒っているか、不審に思っているわね、これ!)



 そう、今は大変よろしくない。


 ここ数日、事件の捜査に忙殺され、高級娼館『天国の扉(フロンティエーナ)』には出勤できないでいます。


 そのため、予約の取り消しという、大変不名誉な事をしてしまいました。


 長い娼婦稼業において、初めての予約取り消しであり、しかもそれがよりにもよってヴェルナー様。


 厄介な事になるのではという危惧もありましたが、まあ大丈夫だろうという楽観的な判断と、多忙ゆえ忘却の彼方へ追いやっていました。



(しかし、それは完全な誤り! 狂人の行動力を読み違えた!)



 こうして普段あまりやらないような辻説法を行うなど、明らかに“大通りを見張るための口実”なのは明白!


 おまけに、公都を出立して、“魔女の館”へ向かう最短経路!


 ここを通るだろうという、予想を立てていたであろう事も伺えます。



(ああ、もう、この人は! なんでこんな無駄に勘が良いのよ!)



 狂人なのは間違いありませんが、“優秀な狂人”である事を失念していました。


 これは完全に私の失策。


 少し思考を巡らせていれば、こうなる事は予想できたはず。


 通りを一本、遠回りすれば回避できたのですから、うっかりでしたわね。


 そして、ぶつかり合う視線と視線。


 完全に姿を捕捉されました。


 変装を解いていたのも失敗。化粧をそのままにしておけば、あるいは誤魔化して素通りできたかもしれないのに……。


 

(仕方ない。また“嘘”で誤魔化しますか)



 以前もそうであったように、私はヴェルナー様に嘘を重ね、知られてはマズい事を誤魔化して来ました。


 今回もまた、その繰り返しとなりますか。


 私はヴェルナー様に御祈りの印を組み、軽く会釈。


 そして、馬の進む方向を“魔女の館”から“教会”へと切り替えました。


 さすがにこの人混みで会話をするのは、いくら何でも秘密が駄々洩れになりかねませんからね。


 余計な手間が増えたと悪態付きながら、教会へと向かうのでした。

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