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7-17 闇市

 それはほんの偶然の出会いでした。


 私とアルベルト様は公都キャピターレゼーナにおいて、例の御者が立ち寄りそうな場所をあちこち回って、何軒も店をはしごする日々。


 口入屋、酒場、馬具店など、多岐にわたりますが、“鼻から右頬にかけて瘢痕のある男”で“馬の扱いに心得のある者”という特徴があります。


 私達二人以外にも、あちこちに手の者を放って探させているので、いずれはどこかで接触できるだろうというのがおおよその考え。


 そして、見つけ出した後はリミア嬢が顔の確認を行って、確定という流れ。


 そんな地道な捜査が三日ほど続いた日でした。


 アルベルト様と共に“少し曰く付きのある”口入屋に足を運んだ時の事。


 その口入屋はアルベルト様の話だと、“密輸”に手を染めているのだそうです。


 法律で商いが禁止されている品や盗品を売買し、それの取引や運搬を密かに扱っているそうです。


 ちなみに、密偵頭のアルベルト様が、この店の“裏”を掴みながら、敢えて泳がせているのは、罠にハメるための小道具として残しているからだそうです。



「貴族が闇取引に手を染めたら、それを理由に揺すれるからな。こちらの制御しやすいように、枷をハメてやればいい」



 いやはや、敢えて“闇市メリカートネーロ”を残し、そこに踏み込んだ者を締め上げるとは、アルベルト様もお人が悪いと言わざるを得ませんね。


 そんな怖いお店に、魔女と死神が来店いたしました。


 もちろん、表面的には“下級貴族の夫婦”としてではありますが。


 受付兼待合室には何人かおり、店に入ってきた私やアルベルト様をジロジロ舐め回すように視線を飛ばして来ました。


 胡散臭そうに見る者、金を持っているのかどうか値踏みする者、それは様々ですが、気にしたりしていては話が進みません。


 視線を無視して、受付へと歩み寄りました。



「らっしゃい。今日はどういった御用件だ、貴族の旦那方?」



 受付係はガラの悪い、教養もなさそうないかにもといった感じの無頼漢。


 こういうのを受付に配しているだけで、この店がどういう店なのか知れようというものです。


 むしろ、却ってやりやすいくらいです。



「えっとですね、人を運んでほしいのですよ。それでいくらくらいになるのかを、聞きに来たってわけ」



 私が述べたのは、仕事の見積もり確認というわけです。


 相手の反応をうかがいながら、もし“ハズレ”なら料金が気に入らんと言って最終的にぶち壊せばいいだけの話。



「ああ、馬車の手配か。何人でどこまでだ? それによって金額は変わるぜ」



「人数は“女の子が一人”よ。ただちょいと訳アリでさ」



 私は周囲を見回し、敢えて落ち着かない風を装いました。


 これから悪い事をします。そう言いたげな態度で。


 しかし、そこは相手も慣れているようで、特にこれといった反応を示さず、話を続けてきました。



「ふ~ん。……んで、その娘さんがどうしたってんだ?」



「その子は私の姪っ子でさ。亡くなった姉夫婦の子供なんだけど、こいつをね、とある子爵様がお気に召したのよ。前にご一緒した宴席で目に留まったとかで」



「ほ~。つまり、その御貴族様に姪っ子を“売っちまおう”って事かい?」



「人聞きの悪い事を言わないでよ。子爵様の所に“年季奉公”に出すだけですわ」



「ヘッヘッヘッ、大した違いはないんじゃないか?」



「フンッ! 悪いのは姉さんよ! 借金(こしら)えて死んじゃって、こっちに請求が来ているんだから! だったらさぁ、預かった姪っ子に帳尻合わせしもらっても、罰は当たらないんじゃない?」



 つらつらと“悪い顔”をしながら作り話を述べる私。


 隣で聞いているアルベルト様は表情を動かさずに聞いておりますが、内心では大爆笑しているでしょうね。


 さすがは魔女、手慣れている、と。



「ただまあ、年季奉公が契約以上に長引いて、帰ってこれないってこともあると思うのよね、私」



「あ~、そうだな。よくある話だ」



「そうなると、子爵様の体面的によろしくないから、姪っ子が“初めからいなかった”って事を装いたいわけですよ」



「……どういう意味だ?」



「小耳に挟んだんだけど、最近、女の子がよく誘拐されているって話。それに紛れ込ませようって事よ」



 ここで核心に迫る話を切り出しました。


 “表”の店を粗方探し尽くして、例の御者が見当たらないとなると、どこかに潜んでいる可能性が高いです。


 こうした“闇市”には、独自の人脈もありますので、そこから引っ張り出そうというのがこの来店の目的。


 “貴族の子女の送迎”という餌、これが耳に入ればあるいは潜みからでてくるかもしれません。


 探しても見つからないなら、相手から出てきてもらう。


 用意した“生餌リミア”は、とても可愛らしい“復讐に燃え上がる”乙女ですよ。



「まあ、ここで手配する馬車の御者には、子爵様の手の者に姪っ子を渡してもらうんだけど、例の連続誘拐犯にでも襲われたってことにして、姪っ子がいなくなったって事にしてもらおうって話!」



「あ~。なるほど。姪っ子は御貴族様の手に渡り、あんたらは姪っ子が誘拐されたって事にして、“年季奉公じんしんばいばい”の件を隠す。御貴族様にしても、表沙汰にはしたくないから、姪っ子は闇の中ってわけか」



「そうそう。互いの体面を保つのには、やっぱ“狂言誘拐”でもでっち上げちゃうのが一番ってわけ!」



「ん~、引き受けてもいいが、その、なんだ」



「ああ、もちろん手間賃は割増してもらっていいわよ。誘拐の件は被害届を出して当局に通報しますし、その件でこちらに聞き込みに来ると思いますから、その応対もしてもらわないといけませんから。適当に煙に巻いといてくださいな」



 なお、その“当局のお偉いさん”がすぐ目の前にいるのですが、よもや密偵頭が狂言誘拐を仕組もうとは思いますまい。


 とんだワル(・・)ですわね、私も、アルベルト様も。



「あんたもとんだ悪党だな~、御夫人」



「さっきも言ったけど、借金残して、娘をこっちに預けた姉さんが悪い」



「現金なこって」



「んで、引き受けてくれんの? どうなの?」



「ああ、いいぜ。丁度うってつけの奴がいる」



 そう言うと、受付係は店の奥へと向かい、程なくして一人の男を連れてきました。


 しかも、“鼻から右頬にかけて瘢痕のある男”を。



((大当たり(コルピーレ)!))



 顔には出しませんが、私もアルベルト様も、心の中で拍手喝采。


 蛇の道は蛇。やはり裏については、裏の世界に足を踏み込むのが手っ取り早いですわね。


 まあ、魔女や死神でなければ、生きては帰れぬでしょうけどね♪

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