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7-15 再集結

 公都キャピターレゼーナから港湾都市ポルトヤーヌスまでは、馬を走らせれば一時間ほどで着ける割とご近所な二つの都市。


 であるからこそ、ゼーナにおられるフェルディナンド様やアルベルト様が、ヤーヌスにいる私の所へ割と気軽にやって来れるのです。


 その一角にある“魔女の館”に、再び主だった顔触れが揃いました。


 私とオノーレがまず戻り、次いでアゾットとリミア嬢も戻ってきました。


 話しながら軽く食事でもしようかと、飲み物と食べ物を用意していますと、ディカブリオもやって来ました。


 今日は男爵としてのお仕事。領地での執務を終え、ヤーヌスに戻ってきたというわけです。


 それと時を同じくして、商人に扮したアルベルト様まで到着しました。


 守衛頭に状況を伝えて、すぐにやって来るこの速さ。おまけに変装までして来訪する念の入れよう。


 事態が思わしくないのは、明白ですね。


 そこで情報の摺り合わせですが、オノーレとリミア嬢は離席させました。


 リミア嬢には聞かれたくない話になる可能性が高く、オノーレは馬の世話がありますから、いつまでも引っ張り回すわけにもいきませんのでね。


 そのため、館にある塔の部屋には、私、アゾット、ディカブリオ、アルベルト様の四名が顔を揃えています。



「……なるほどな。問題の馬車の御者が、カーナ伯爵の所にいる可能性が高い。そして、カーナ伯爵の関係深いヴォイヤー公爵の所に、ネーレロッソ大公の工作員が出入りしていた、と」



 こちらの持っている情報を全部話しますと、アルベルト様も一段と渋い顔になられましたね。


 誘拐事件への貴族の関与は最初から疑っていたようですが、やはりここまでの大物が関わっていたとは想定外であった模様。


 まあ、それはこちらも同じことですが。



「とは言え、まずは一日でそこまで調べ上げた点は、さすがは魔女殿といったところだな。思った以上の収穫だ」



「想定外の大物が関わっている可能性を考えましたので、こうしてご連絡を入れたわけでして」



「その慎重さ、判断の早さもさすがだな」



 裏仕事に手を染めている以上、まずは何より慎重さが求められますからね。


 最重要の会議も、盗聴のおそれの無い魔女の館の塔の部屋を使っておりますし、ディカブリオやアゾットのような、完全に染まり切っている者以外は退出させたのもそのため。


 情報は必要最低限の者だけ知っていれば良いのです。



「それで魔女殿としては、どうするのが良いと思うか?」



「一番はカーナ伯爵、ヴォイヤー公爵への強制捜査でしょうが、さすがにそれを行えるだけの証拠が固まっておりませんので、まずはそのための証拠集めが最重要かと」



「だな。となると、唯一表に出ている例の御者の確保が優先か」



 アルベルト様の意見には同意ですね。


 貴族への強制捜査など、余程の証拠が固まっていない限りはまず不可能。


 下手に小突いて何も出ませんでしたでは、重大な問題に発展しますからね。


 まして、ヴォイヤー公爵はフェルディナンド陛下の御身内。


 余計にやりづらいというものです。



「アゾットや、ヤーヌスでの調査はどうでしたか?」



「すべて空振り。目ぼしい口入屋や馬具店は見て回りましたが、それらしい情報はなし。リミア嬢と回っておりましたので、酒場や花街が手付かずではありますが」



「なら、明日からはリミア嬢を屋敷で待機させ、かわりにディカブリオと手分けして今日回れなかった別の場所を回れ。瘢痕の男を見かけたら、リミア嬢を呼んで確認を取れるようにしてな」



 さすがに少女を連れて酒場や花街は目立ちすぎます。


 それこそ“身売り”に来たなどと思われては、目も当てられません。


 それでは『処女喰い』と何ら変わりませんからね。



「姉上、それはよろしいのですが、やはり人手不足ではありませんか? 他に手立てがないのですから、“しらみつぶし”は良いとしても、捜査範囲が広すぎて、必ずどこかに抜け(・・)がある点は否めないかと」



 心配そうに述べるディカブリオですが、その意見は正しい。


 公都キャピターレゼーナの人口は三十万、港湾都市ポルトヤーヌスの人口は十万。


 ジェノヴェーゼ大公国の一番手、二番手の都市ですからね。


 我がファルス男爵家の人手だけでは明らかに不足。


 ネーレロッソ大公の陰謀が匂ってきた以上、隠密性に加えて、迅速さも求められる状況となりました。


 ひっそりと、それでいて手早く、などと相反する条件を満たせなど、無茶もいいところです。


 もちろん、ここは雇い主に責任を取ってもらおうと、三人の視線がアルベルト様に集中します。


 当然だと言わんばかりに、アルベルト様も頷かれました。



「もはや、腰を据えてのんびり捜査などという段階は過ぎたようだな。子爵家からも人員を出そう。右頬に瘢痕がある御者、という条件があるのだから、捜査は可能だ」



「では、そちらの手配をよろしくお願いいたします。こちらも手隙要員を総動員で当たらせますゆえ」



「うむ。ただ、最終的な確認をしなくてはならんから、リミア嬢は絶対に屋敷からは動かすなよ。容疑者を発見次第、すぐにリミア嬢に確認してもらわねばならん」



「そうですわね。では、明日からの捜査は、リミア嬢とオノーレはここでの待機を命じておきます。標的を発見次第、手早く現場に送り込めます」



 オノーレがいれば、馬車でも、あるいは馬の二人乗りでもできますからね。


 一報あれば、手早く現場に駆け付けれるでしょう。


 やれやれ、本当に忙しなくなって参りました。


 『楽園の扉(フロンティエーナ)』には、しばらく出勤できそうにありません。


 我が娼婦人生初の“予約取り消し”でございます。


 オノーレの言葉ではありませんが、ほんと娼婦稼業も潮時なのかもしれませんね。


 早く事件を解決しないと、本当にそうなりかねません!


 本当に全力で解決しますよ、この事件を!

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