7-6 小さな助手
リミア嬢から“復讐の依頼”を受けた後、私は部屋を出ますと、ボーリン男爵様がおられました。
廊下を行ったり来たりとうろうろして、実に落ち着かないご様子。
(まあ、それだけ娘が心配だという事なのでしょうね)
私が部屋を出るなり、すぐに飛びついて来ました。
「ヌイヴェル殿、クレアはいかがでございましょうか?」
余程心配なのでしょう。慌てる様子をさらけ出し、私に詰め寄って参りました。
今少し落ち着かれた方が貫禄が出ますよ、ポロス様。
「私がお持ちした菓子を召し上がられ、今は落ち着いてお休みになられました」
「おお、かたじけない! なんとお礼を申してよいか」
「リミアお嬢様よりお礼は受け取っておりますゆえ、左様に申されずとも結構でございます」
私は男爵様に一礼し、クレア嬢の平癒をお祈り申し上げました。
「それと、男爵様。リミアお嬢様よりの頼まれ事なのですが、今回の一件の犯人を探し出して欲しいと申されましてな。私も心痛めておりましたので、方々に当たってみようかと思うております。また、お話を聞きにお邪魔するやもしれませぬが、構いませぬか?」
「リミアがそのようなことを……。分かりました。大した役には立てませぬが、できるだけのことは致します」
よしよし、これで男爵様の言質はいただきました。
これで“あの作戦”を使えるというもの。見ておれ、下衆共よ、約定通り、阿鼻叫喚の地獄へ落としてやるわ。
(それよりも先にするべき事はある。【淫らなる女王の眼差し】を用いても犯人の顔は特定できなかったが、そこに辿り着くための重要参考人の顔は拝む事は出来た。まずはそれを見つけなくてはな)
いくつか目星はついておりますが、こういう時に肝心なのは“足”。
自ら足を運び、確実な情報を掴む事です。
捜査の基本ですわね。
(しかし、手当たり次第に調べると言っても、時間が……。店の予約が入っていない時間を使うにしても、かなりの時間を要する、ここはやはり、男爵様のお言葉に甘えてみますか)
作戦変更です。
前段階の準備が私一人では、手間がかかり過ぎます。
ここはそう、“助手”がいりますね。
私は閉めた部屋の扉を再び開け、リミア嬢を呼び寄せました。
「ヌイヴェル様、何事でありましょうか?」
「数日で良いから、私のお針子になりなさいな」
まあ、針子はあくまで私の側にいるための名目。
本当の理由は“重要参考人”の捜索の為の人手です。
「え? 私がですか!?」
「そうそう。その間の衣食住の保障はします。なにより、クレア嬢をかどわかした阿呆を見つけるために協力してほしいのよ」
「是非にもお願いします!」
前のめりに私の提案を受けてくれました。
いやはや、本気で姉の仇討ちをしたいのですね。
「お、おい、いくらなんでも、いきなりそんな話は……」
まあ、当然、ポロス様は難色を示されました。
姉は持ち直しつつあるとはいえ、妹まで出かけるのは流石に心配なのでしょう。
父親として当然の反応です。
「お父様! 私はお姉様の仇を討ちたいんです! お姉様にやった仕打ちを、十倍百倍にして返してあげたいの!」
「しかしだな……。お前まで何かあるのではと考えると」
「大丈夫です! この国一番の知恵者である魔女様が一緒なんですから!」
なんだか知らぬ内に、この子の中で私の評価が天井知らずで上がっていっているようですね。
悪い気分ではありませんが、程々にしてほしいものですわね。
その実態が“業突く張りな女”だと、バレた後が怖いので。
「ご安心ください。危ない真似をさせるつもりはりませんし、万が一に備えて、強力な護衛も用意いたしますので心配いりませんわ」
まあ、大切な娘さんを預かるわけですから、その点は抜かりありません。
それでもなお渋るポロス様でしたが、リミア嬢が私にしがみ付いて、出かける気満々で強引に馬車に乗り込み、そのままの勢いで連れ出す事になりました。
こうして、私、アゾット、リミア嬢の三人でボーリン男爵邸を後にし、私の住まう“魔女の館”へと馬車を走らせた。




