6-7 中休みは程々で
四回戦を告げる“陣太鼓”が打ち鳴らされましたが、そこからパタリと動きがなくなりました。
続行ならば“三連打を二回”。
撤収ならば“六連打”。
そう言う事前の取り決めがあったのですが、そのいずれもなし。
それなりの時間が経過しましたが、いずれもなし。
「はて? 動きがないな? どうしたのだろうか?」
「よもや、二人して“腹上死”などと言う事もないでしょが……」
私は席を立ち、扉を開けて隣室の様子を伺いました。
すると屋敷の召使いがいくつかの食器を下げているのが、目に入りました。
つまり、隣室では“陣中食”を平らげていたという事。
それに気付き、私は思わずニヤリと笑いながら扉を閉めました。
そして、勝ち誇った態度のまま、再び席に着き、余裕の態度をフェルディナンド様に見せつけました。
「あの二人は、“行厨”でございましたわ」
「ああ、食事か。腹が減っては戦はできぬしな。……うぬ?」
「フフフッ、お気付きになられましたか」
「ああ、いかん、いかんぞ、これは」
「そうです。“行厨”を平らげたという事は、“まだまだやるぞ”という明確な意思表示に相違ありません。そして現在、繰り広げられた合戦の数は“4”。あと、2、3回は余裕にこなせそうですわね」
「うぬぬ……」
フェルディナンド様の顔から、余裕が完全に消えましたわね。
若人の力、侮った結果です。
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
そうこうしている間に、五度目の陣太鼓が打ち鳴らされました。
これはもう、勝ちで揺るぎませんね。
「ああ、いかん。いかんぞ! そこで止まるんだ!」
「ジュリエッタ~、もっとやっちゃいなさい。搾り取るのよ~、色々と!」
焦るフェルディナンド様と、余裕の声援を送る私。
何と申しましょうか、もう勝敗は決したような雰囲気。
これは美味しい。思った以上の収穫になりそうですわね。
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
「あああああああ!」
「はい、これで“6”ですわね! 私の勝ち~♪」
絶叫しながら頭を抱えるフェルディナンド様。
勝利の笑みを浮かべる私。
これで手に入りましたね、“大公陛下への貸し”が。
いや~、重畳重畳。正規の報酬以上の物を手に入れましたわ。
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
「なん……だと!?」
「まだ行きますか!?」
止まらない二人。
鳴りやまない壁の音。
進撃する初陣の騎士は、陣太鼓と共に更に前進する。
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
「え!? まだ行くの!?」
「おおう、これは凄い……」
さらに進軍する二人。
どこまで突っ走ってしまうのやら。
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
「うわ~、まだ続けるとは……」
「これは私も予想外」
想定を遥かに超える二人に、今度は戦慄する私とフェルディナンド様。
若いと言っても、やりすぎでしょう、これは!
ドンッドンッドンッ! ドンッドンッドンッ!
「おいおいおいおいおいおいおいおい!?」
「十回!? まさかの十回!? 一晩で十回ですか!?」
これは侮っておりました。
一応、賭け自体は私の勝ち、のはず。
フェルディナンド様の予想が“5”で、私は“6”ですから、実際の数の“10”には私の方が近いのですからね。
若人を壁越しに見守る我ら二人、腹を抱えて大笑いでございます。
私自身、侮っておりました。
これはある意味で、私の負けでございます。
こちらの目利き以上の物を、あちらが出してきたのでありますからね。
「フフフッ、これはしてやられましたわ! あの若人、こちらの予想を大きく上回りますか!」
「クハハハハ! こちらの戦は負けたが、何だか妙に愉快だぞ!」
どうやらフェルディナンド様も大人しく負けを認めたようですが、私共々、息が苦しくなるほどに笑われました。
いやはや、本当に凄まじいですわ。
というか、むしろ、ジュリエッタ、大丈夫かしら?
そちらの方が心配になってきましたわよ。