女でいることの素晴らしさと葛藤
両親には感謝している。この顔に産んでくれて。
美春は高校生になった頃から、自分の顔が世間一般的に「中の上」なのかもしれないと考えるようになった。大学生になり、「上の上」の友達の彼氏に
「美春ちゃん可愛いよね。」と言われ、フットサルサークルのキャプテンだか部長だかに家に誘われた夜、キスをされた。もしや、私、「上の下」なのでは?と錯覚しそうになる事が何度もあった。
大学生時代、コンビニと、パチンコのホールスタッフのアルバイトを掛け持ちしている時も、とことんこの顔に助けられたと思っている。
仕事で手を抜くことは、美春の性格上、できなかった。生真面目で几帳面。加えて、評価がとにかく欲しかった。他の人が嫌がる仕事も率先して取り組んだ。常連客がレジに来る頃にはタバコのバーコードはスキャンしておく事、鬼ころしにはストローをさして渡す事、トイレ掃除を敢えて素手ですること、それをちゃんとアピールるするところは決して忘れなかった。「中の上」だった美春はたいていのことをそつなく、周りを気持ちよくさせながらすることができた。愛想のいい「中の上」は時々「上の下」の景色も見ることができた。そして「中の上」の働き者は、簡単に就職の内定がもらえることも知った。周りの友人が次々に就活で破れていく中、美春は次々に内定を勝ち取った。顔が関係ないとは、とうてい思えなかった。
就職先は金融業の会社にした。二次面接の相手である女性が、あまりにもキラキラしていて、美しく、聡明に見えたからである。男性社員が多いことも美春にとって重要だった。単純に、ちやほやされたかったからである。