月への旅3
もっとも離れた船室に存在しているとはいえ、得体の知れない生物が自分と同じ密室空間に存在しているのは落ち着かないものだ。俺は光輝丸の設定したアラームが鳴る前に目を覚ましていた。昨夜はほとんど眠れず嫌な夢を見たしk分は最悪だった。
『船長。201号客室の"宇宙人"様が目を覚ましました』
「そうか。暴れたりしていないか?」
『生体反応を確認したところ、体温が正常ではない数値です。医療機関を受診する必要があるかもしれません』
「……すぐに様子を見に行こう。部屋のものは壊れていないな?」
『はい、”宇宙人”様は目を覚ました後、物を壊したりしていません』
あの宇宙人と対面したら、意思疎通が取れるか試してみる必要がある。体温が正常ではない事が気になるがそもそも宇宙人に正常な生体反応を期待する方が間違っているだろう。酸を吐いたり目からビームを出したりして船体に使われているルナメタルを破壊するほどの力を持っていたらおおごとだが、その心配はなさそうだ。
「あの宇宙人のDNA鑑定はおわったか?」
『はい。調べてみたところ人間のDNAが95%でした。なので”宇宙人”様は地球人なのかもしれませんね。その他のDNAは人類以外の生き物が由来となっているようでしたが、詳細はデータベースにはありませんでした』
DNA検査の結果を聞いて俺は少し後悔していた。あの奇妙な造形の生き物が人間だとは思えなかったからだ。もし人間だとしたら、どういった過程を経てあの姿になったのか想像したくもない。しかし全く知らない未知の生命体ではないのだから、急に頭がバッカルコーンになって捕食される心配はしなくてもいいわけだ。とりあえず話ができればどんな経緯であの場所にいたのかもわかるだろう。
考えながら歩いていたらもう”宇宙人”が眠っていた部屋の前まで来ていた。一応軽くノックをしてから中を覗き込むと、そこには肌色をしてカエルのような目を持つ”宇宙人”がこちらを見つめていた。
「……えぇっと、気分はどうだ? 水、飲むか?」
敵意を感じなかったのでトレーに乗せた水差しからコップに水を注いでやると、その”宇宙人”は人間のように受け取り、水をゴクゴクと飲み干した。
「あ゛…」
そいつは何か言いたげにこっちを見た。
「俺は、この船の船長だ。お前はなんでこの船の倉庫にいたのだ?」
「……?」
もしかしたら通じるかと思って話しかけてみたが、やはり言語は通じないようだ。首をかしげている所を見るに、人間的な意思は持っているらしい。ちょっとジェスチャーを交えてみるか。
「俺、船長。おまえは?」
何度か自分を指さし、俺が船長だと主張するとなんとなく意図が通じたのかその宇宙人は俺と同じように俺のほうを指さし、船長と発音した。そいつによればどうやら奴はジーバという名前らしい。意思疎通が取れて、名前が分かればかなり上出来だろう。今日は一日ジーバとコミュニケーションをとってみよう。月へ到着するまでは今日をいれればのこり2日だ。こいつが危険でないなら、月の子供たちと一緒に地球へ連れ帰るのも悪くないだろう。そもそも宇宙人ではないかもしれないが、言葉が通じないならば何者か聞きだすのも一苦労だ。