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【電子書籍化】音が嫌いな令嬢はただ静かに暮らしたい〜追い出されるように嫁いだ先で人嫌いな冷酷強面公爵様に無意識に溺愛されました〜  作者: 景華
第3章 嫌音令嬢、辺境で幸せを掴む

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前世の意味


 食料庫と貯水庫がある、町の中心部。


 薄暗い蔵のような建物の中に芋類などの保存の効く食材、そしてその奥にある真新しい大型の箱は、魔石で冷やすことのできる冷凍庫が置いてある。

 冷凍庫の中には下ごしらえされた野菜の冷凍食品がずらりと入っている。


 この量ならば冬は余裕で持つだろう。

 隣の貯水庫も浄化の魔石で浄化済みの水を一リットルペットボトルサイズの瓶に詰めたものが大量に保管してある。


 一度浄化された水は密封して保存すれば石がなくとも綺麗なままだ。

 うん、水の方も問題なさそう。

 これ以外にも、各家庭には十分な量の備蓄ができているようだし、冬は何も心配しなくても大丈夫だろう。


「すごいな、こんなに不安のない冬は初めてだ」

「ふふ、皆頑張りましたものね」


 屋敷ではレイやカイも一緒になって野菜の世話や収穫、加工まで手伝ってくれたから。

 助け合いながら暮らしていく。

 そんなここでの暮らしが私には心地良い。


「本当に。雪が積もり始めて孤立する季節になってしまいましたが、こんなにも安心して冬を越すことができるなんて。子どもの頃の自分に教えてやりたいくらいですよ。あの頃は、冬を越せるかどうかわからなくて不安で仕方なかったですから……」


「あぁ……そうだな……」


 私はここに来る前のこのベルゼ公爵領のことをよく知らない。

 ただ、王都から離れた辺境の地にあって通常時でも2日は片道でかかってしまうということ。

 そして、そこを治めるベルゼ公爵様はとても冷酷で、今まで何人もの使用人が辞めていくほどだということだけだった。


 この国自体小さな国で、各領の大きさも全国的に小さい。

 他の領に行くにもすぐに行って帰ってくることができる中で、ベルゼ公爵領は最北端に位置する。

 まぁ、大国の最北端よりはマシだろうけれど、王都から二日もかかるのは王都の人間からしたら遠い場所だ。


 ただ二つ目で言えば、良い意味で知っていたことを裏切られた。

 ベルゼ公爵様──ロイド様は、とても勤勉で優しい方だ。

 ちょっと仏頂面で怖い印象は受けるけれど、真面目で誠実な方だと思う。

 使用人が何人も辞めたというのは正当な理由があったことだったし、実際は使用人にも領民にも慕われる領主だ。

 噂というものはやはり当てにならないと、身をもって知った。


「冷凍食品の解凍の仕方も、調理の仕方も、お前が何度も領内で料理教室をしてくれたから、皆安心して冬を迎えられるんだ。礼を言う」

「ロイド様……。お役に立てたなら、良かったです……!!」


 この世界で私にできることは、ただ前世を見て生きることじゃない。

 前世での知識を、この世界に活かすこと。

 前世で私はそのどれもをほとんど実践することなく死んでしまったけれど、 知識はたくさん蓄えた。

 イメトレだってこれでもかと言うほど、病室のベッドの上でもやってきた。


 それらはきっと、今世で生きるための準備だったんだと、今なら思える。

 どんなことも、無駄じゃなかったんだ。

 私の前の人生は、とても、意味のあるものだった。


 それが感じられるようで、心がほっと暖かくなるのを感じた。


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