不協和音の末に
あぁ、うるさい。
私、メレディア・フレッツェルにとって、この荘厳な音楽はただの不協和音でしかない。
音楽だけならばまだ聞くことができただろうが、人々のこそこそとした話し声が混ざり合えば、ただただ不快なだけの音にしかならない。
私は今、今日初めて会った人と結婚式を挙げている。
ロイド・ベルゼ公爵。
人嫌いで有名な彼は、今年25になられたらしい。
私の5つ上の旦那様。
美しい銀色の短髪に鋭い翡翠色の瞳。眉間には皺。
実年齢よりも上にしか見えない険しい表情のロイド様。
そんな彼に負けず劣らず力の入った表情で、私はじっと目の前の旦那になる男を見上げる。
「病める時も健やかなる時も、妻を愛し、妻を敬い、生涯をともにすると誓ますか?」
「…………誓おう」
「同じく、病める時も健やかなる時も、夫を愛し、夫を敬い、生涯を共にすることを誓いますか?」
「誓います」
とにかく早く終わらせてしまいたかった。
参列者の小声。
ムードを盛り上げるための音楽。
そして神父のお決まりのセリフ。
全てが混ざり合ってもう限界だ。
早くしてしまわないと──そろそろ吐くっ!!
私の耳が限界に近づいて「誓いのキスを」と促す神父の声を最後まで聞くことなく、私は勢いよく初めましてで夫になったばかりの男の胸ぐらを掴み上げ、自分の方へと引き寄せた──!!
「んぅっ!?」
ぶつかり合う口と口。
それは口づけと言うにはあまりに不恰好で、甘さもなく、ほんのり血の味のする、私にとってのファーストキスとなったのだった。
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