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097 冬至祭 スキルは言葉より雄弁に

「あぅぅぅ……主君が私の中に……」


 スキルを付与しているだけだからな?


「終わったぞ」


 それを聞いて俺に倒れ掛かるリルを体で支える。両腕があれば途中で支えられたがこの義手でそこまで細かい動きはまだ厳しい。『魔導鎧操縦』のスキルレベルを上げれば精密作業が出来る様になるだろうが、そこまで必要としてはいない。それに俺のスキルポイントは貴重だ。シングルユースの案件で無駄ポイントを消費する余裕は無い。


「これが主君の匂い」


「もう離れても大丈夫だ」


「残念」


「これから言う事は内緒だ」


「分かった」


 これはダークエルフの忠誠心を信じるしかない。この世界は情報社会ではないから、知識を独占する方が一般的だ。リルに取っても俺が語る事は胸の内に秘めた方が得るものが多い。だが俺のスキルは強すぎる。俺を売った方が得すると算盤を弾ける人間は多い。


「まずはこれを見ろ」


 俺は『アイテムボックス』から丸めたダイアウルフの皮を取り出す。


「ダイアウルフ!? でも何処から」


「『アイテムボックス』だ」


「おお、流石主君!」


 リルは純粋に感動している。孤児に取って『アイテムボックス』は持っているだけで勝ち組になれるスキルだ。少なくてもここ10年の間ではラディアンドの孤児で『アイテムボックス』を成人から持っている者はいない。5年前に成人になって商人の丁稚になった孤児が『アイテムボックス』のスキルに目覚めたと言う噂を聞いた事がある程度だ。だから孤児が二人『アイテムボックス』に目覚めたと言う話は絶対に信じられない。


「リルも使える」


「え?」


「俺がリルに与えたスキルは『アイテムボックス』だ。この皮を収容したいと念じるんだ」


 恐る恐る皮に手を伸ばすリル。そして意を決して小声で「収納」と唱える。


 そしてダイアウルフの皮は消えた。


「ほ、本当に!?」


 リルが自分の手を凝視しながら固まる。


「次は任意の場所に出すだけだ」


「出、出て」


 ポスッと音をたてながらダイアウルフの皮が地面に落ちる。


「な?」


「主君、命が風前の灯火な私のために……」


「助けると言っただろう? それに『アイテムボックス』は投資だ。しっかりその分は働いて貰う」


「投資? 働くのは当然」


 しまった。この世界では投資なんて理論は一般的ではない。何せ大半の人間はその日の生活費を稼ぐために働いている。前世の俺も投資に詳しいと言うわけじゃないし、気にしないでおこう。


「さて、ここで問題がある」


「?」


「俺のスキルは回数制だ。『アイテムボックス』は人生で3回しか与えられない。一回目は俺自身。二回目はリルだ」


「!!」


 思ったより貴重だと知ってリルが固まる。


「そんな顔をするな。俺が本気だとリルに伝えるには言葉では無理だった。なら俺が与えられるもっとも貴重なスキルを与える以外方法を思いつかなかった」


 一応『天魔法』と言うUR級の超絶レアスキルがストックにある。間違いなくそれが一番貴重なスキルだ。しかしダークエルフに『天魔法』がどんな化学反応を起こすか皆目見当がつかない。天の大精霊の怒りに触れてラディアンドそのものが光の柱で浄化される可能性すらあり得る。だから2番目に貴重な『アイテムボックス』を選択した俺の考えに間違いはない。


「そこまで貴重だとは……。もう1回しか使えないなんて」


「勘違いしているぞ。最後の1回は誰に与えるかもう決まっている。だからリルで打ち止めだ」


「!?」


 リルのお目目がグルグルしだした。ヤバい、説得が強すぎたか?


「落ち着け、な? 最後の1回は俺の子供に与えるつもりだ」


 風の大精霊の祝福のろいは次代に繋げないといけない。クロードが生きていれば全力で同意するのは分かり切っている。その子は滅びに向かう世界で大変な思いをするだろう。だが『アイテムボックス』さえあれば生存率が大幅に上がる。2つあるから子供二人にって考えていたんだが、リルが生きているのなら大丈夫だ。ルルブによるとダークエルフの寿命は短くても数百年。世界がその前に滅びておらず、俺が頼めば孫の代くらいまでは気に掛けてくれるはず。それ以降は子孫の努力に期待だ。


「分かった。さっそく作る」


 下着を降ろそうとするリルを必死に止める。


「母体が健康にならないと妊娠は大変だ。やるにしても治療が終わってからだ」


 セーフ。


「予約」


「分かった、分かった。それで良いから」


 セーフなのか?


「ああ、それでリルの『アイテムボックス』の容量は分かるか?」


 とにかく話題を変えるんだ!


「大きい?」


「『心』の基礎値×『アイテムボックス』のスキルレベルだ。スキルレベルは1だから『心』の基礎値がそのまま大きさになる」


「主君が魔法の言葉を……」


 以前にもましてリルのお目目がグルグルしだし額から湯気が出る。掛け算が何気に高等技能だと忘れていた。「これを出せばこれが返って来る」みたいな感じで売買しているから日常生活には困らないが、足し算と引き算すら出来ない人が多い。


「今度時間がある時にどれくらい入るか確かめよう」


 後日確かめたらリルの『アイテムボックス』は14立米だった。となると『心』の基礎値は同じく14になる。俺の4とは圧倒的な差があり過ぎて『プロトブレイバー』の最大値成長があっても同レベル帯なら心の強さでは倍近く差が出る。


「落ち着いた」


 何とかリルをなだめすかし、会話が出来る状態まで戻す。


「そうか良かった。これだけ時間が過ぎたのならバザーの方は落ち着くか」


「そろそろ閉まる」


 昼夜を問わず色々な店が出ているが、昼夜で店が入れ替わる事が多い。夜になれば酒と女が主役になり、衛兵の目が暗闇で陰る事を知って賭博が始まる。


「ならルビーを説得に行くか」


「主君が望むのなら」


 リルが一瞬躊躇する。俺から「ルビーに会う」と言うのを考えないようにしていたか。ルビーがリルの離脱を認めたくないのは容易に分かる。筋を通すだけなら投げ捨てても良いが、リルの治療には人手がいる。そしてルビーは手助けを二つ返事でする。時系列を無視して「なんでもっと早く言わなかった」と噛みつかれそうだ。


 なのでリルの命が2日持つのなら確実に救える。


 残すは俺とルビーの商談の行方だ。リル離脱の混乱、そして俺とルビーのレベル差を最大限に利用しないとやり込められる。


 俺はリルの先導に従い、ルビーが滞在している宿屋を目指す。



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