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096 冬至祭 病気の正体

「リルの母親はどうやって死んだか覚えているか?」


「母?」


「同じ病気か確認したい」


「症状は同じ。咳が酷くなって最後は吐いた血の海で溺れた」


 前世なら結核と診断されそうだ。


「咳を始めてから何か月で死んだ?」


「確か三か月と少し」


 10年以上前の記憶のためか、リルは凡その期間しか覚えていなかった。


「喜べ! リルの治療法が分かった」


 リルは病気では死なない。肺に巣食っている寄生生命体に体の中から食い破られる。


 ルルブのダークエルフは正面戦闘が苦手の代わりに暗殺と毒殺などの搦め手が得意な種族だ。そんなダークエルフが暗殺を気取られないために時限式の殺害方法を色々編み出した。遅効性の致死毒なんてのが有名だが、それを使うと毒殺したのがバレる。なので彼らは長い年月をかけて寄生虫と寄生菌類を進化させてきた。こいつらがリルの肺の中で長年巣くっていたから『寄生耐性』スキルが発現した。


「流石……ゴホッ」


 咳き込むリルの背中を擦りながら、どう話すべきか迷う。


 リルの母は三か月で死んだ。潜伏期間から寄生虫が本命とみるべきだ。そして同じ種類の寄生虫ならリルは孤児院に来てすぐに死んだはずだ。何かが彼女を延命した。そして今は急激に体調が悪化している。


「リル、首輪を取ったのはいつだ?」


「二日前」


「それから体調が急に悪くなっていないか?」


「そう言えば。ただの風邪と思った」


 孤児の首輪にある『成長阻害』が寄生虫に効果てきめんだった、と結論付ける。三か月で死ぬところを10年も生かすとは面白い。マックスには頃合いを見て追加報告を渡しておこう。だが首輪の効果が切れたのなら事態は加速度的に悪化するはずだ。病気なら一か月ほど余裕があると油断したが、寄生虫だとするともっと短いだろう。血を吐き出してからでは遅い。最悪ここ数日の間にヒーラー無しでやるしかない。


 そして最初の想定通り、これで寄生菌類では無い事が確定した。寄生菌類は咳と共に拡散する範囲攻撃でもある。リルと一緒に孤児院に居た一年上の奴ら、そして俺が咳き込んでいない。リルを虐めていたホルガー辺りは確実に感染して血の海に沈んでいるはずだ。


「良く聞け。リルは病気ではない。ダークエルフが暗殺に使う寄生虫が肺に居る」


「……」


 流石のリルも言葉を失う。


「そう落ち込むな。数日のうちに除去すれば死ぬ事は無い」


「母……母は……殺された?」


 おかしい。俺の考えていた会話の流れと違う。


「あ、ああ、そうなると思う」


「許せない! 私は絡新婦の神に誓って母の仇を討つ!!」


 クロードの記憶によると絡新婦の神は混沌の神々の一柱だ。巨大な黑蜘蛛の姿をしており、彼女の蜘蛛糸一本一本は生者の未来を見通すと言う。生者は自分の蜘蛛糸を切られると死ぬとも言われている。ダークエルフの女王は絡新婦の神に永遠とわまで忠誠を誓って永遠の命と若さを得たという。ここら辺の神話は南の帝国の建国神話の一部だがクロードも詳しくは知らない。貴族社会で呟かれる噂でしかないが、500年前の勇者はダークエルフをハーレムに入れなかった咎でダークエルフに殺されたらしい。俺なら眉唾だと笑い飛ばすが、ダークエルフとハーレムの件は王国の父の3大失策の一つとして残っている。残り2件も当然女絡みだ。


 現実逃避気味に歴史の出来事を振り返っているが、そろそろリルに向き合わないといけない。


「そ、そうだな。そのためにも治療をしないと駄目だ」


 俺の方が圧倒的に強いのに本能的恐怖が危険を知らせる。リルが俺に忠誠を誓っていなければ「本当の事を伝えた」腹いせで俺は殺されていたかもしれない。ルルブにもダークエルフ社会のみが持つ「真実暴露罪」と言う私刑を許可する法がある。人間的に解釈するのなら、真実とは嘘と欺瞞で塗り固まったダークエルフ社会に多大な悪影響を与えるものであり、真実の語り部が口を開く前に始末するのが社会全体の利益につながる。


「肺を裂く」


 断言しないで欲しいんだが、リルの決意は固い。


「準備に数日必要だ」


 少なくても這い出る寄生虫を殺す手数が居る。それに普通のポーションより強力な回復薬が必要だ。ルビーのパーティーメンバーだし、彼女に相談すれば手数の確保と必要な物資の買い出し大丈夫だ。


「……分かった」


 捨てられた子猫みたいな感じで俺を見上げる。治療が失敗するのが怖いのか? それなら仇討ちを声高に宣言しないはず。


 ん、もしかして俺がリルを捨てると思われた? ダークエルフの生物兵器である寄生虫の成虫をどうかしようと思う人間なんてまずいない。正常な人間なら患者が死ぬのを待って患者の家ごと焼く。念には念を入れてまだ生きている遺族ごとやっても不思議じゃない。リルの場合、家は孤児院で遺族は孤児院の同期になる。これはいよいよ秘密裏にやらないとまずい。


「ゲホッゴホッ……」


 駄目だ。リルの不安を取り除く言葉なんて浮かばない。前世もクロードの記憶も何の役にも立たない。これだけの力を得ながら一人の女の子を安心させられないとは!


 もうこうなったらヤケだ! 使ってやる! 前世とクロードが持っていなかった力を!


「リルは生きる。俺がその証拠をその魂に刻もう!」


 俺は真っ正面からリルの心臓に右手を当て、『プロトブレイバー』を発動する。

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