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090 ???視点 秩序と中庸

2章ラストは神々の事情です。


最終的に誰が誰を嵌めたのか。少しだけ謎が明らかになります。

「こいつは誰だ?」


 秩序の神の言葉が自然と漏れました。それがただの呟きでもこの世界を支配する最高神の言葉です。神界全てがその言葉の力で揺れます。


 冬至祭は人々の信仰心が高まる時期のため、本来は地上と直接関わらない神々も地上を覗き見たり敬虔な信者に二言三言伝える事が出来ます。秩序の神は多大な神力を使って創造した試作勇者の体を覗き見る事にしたらしいです。彼に与えた力が正しく機能しているのか。改善点があれば本物の勇者が来る前に修正する必要があります。あの力は相手の魂に直接作用するため、非常にデリケートなバランスで成り立っています。神々の中でもあれを弄れるのは数柱です。


「神よ、如何しました?」


 声を掛けるべきか迷いましたが、秩序の神の傍に仕えているのは私だけです。本来はもっと数が多いのですが、冬至祭を理由に神の下を離れる者が多いのです。私は自分の運の無さとタイミングの悪さを呪いながら、努めて有能な臣下のふりをします。


「試作勇者の体に他人の魂が入っている。これは由々しき事態だ。この魂を即刻回収せねば」


「お待ちください! 直接介入しては混沌陣営の神々が暴れ出します」


 今にも地上に下向しそうな雰囲気を醸し出す秩序の神を必死に説得します。なんでこういう時に自称「最愛の奥様」とか自称「忠義の右腕」が居ないんです!


「う~む、そうであった! いっそあやつらの事滅ぼすか」


「まずは秩序陣営の神々の総意を得るべきかと」


 お願い! これで止まって。


「こちらの先制攻撃には同意せぬか」


「はい。それに回収する前に原因を究明すべきかと。神の御業に介入できる存在など多くはありません」


 セーフ! とにかく他の話題で注意を逸らそう。


 秩序の神はしばらく目を閉じ、深い瞑想に入りました。過去を視る事で秩序が綻んだ発生点を探しているのです。


「奇跡か。あの男が奇跡を使ったのは理由があったのか」


 秩序の神が目をクワッと開けて宣言します。


「奇跡の発動を感知したのなら問題を解決出来たのでは?」


「あの時は神力が尽きて中庸の神が代理に立候補してくれたのだ」


 混沌勢力の神々が近く召喚される勇者を地球で殺そうとしました。秩序の神はその力で地球に介入し勇者を救いました。異世界への介入は多大な神力を要し、介入した双方はかなり疲弊しました。その上で、秩序の神は犠牲になった一人の地球人をこの世界に呼び寄せ、彼に新しい体を用意しました。この段階で一時的な神力枯渇状態になり、奇跡に答えられるだけの力が残っていませんでした。


 そこで中庸の神がどうにかしてくれると思い込んでいる秩序の神には失笑を禁じえません。この千年、何回詐欺られているのでしょうか。私は100回を超えた辺りで数えるのを止めました。


 無論、転生直後で奇跡を使ったので「くだらないお願い」と高を括った秩序の神にも責任はあります。「大金が欲しい」、「美少女が欲しい」、「奴隷落ちしたから助けて」のいずれかと決め打ちしたそうです。「そう言う魂を使ったんですか」と秩序の神を詰問しなかった私は自分自身を褒めたいです。


「中庸の神が魂をすり替えたのでは?」


 詳しい事は分かりません。でもこれ以外の可能性ってあります?


「なんだと! 中庸の神を呼び出せ!!」


 凄い剣幕で怒る秩序の神の下を辞し、私は伝手を頼り中庸の神を呼び出します。いつもの事なので私もあちらの陣営も阿吽の呼吸です。


「私の選んだ魂を何処にやった!? あの体に入っている魂はなんだ?」


「何を怒っているか分からないな」


 相変わらず飄々としている中庸の神に秩序の神がブチ切れるまでもうちょっとです。その直前で最悪の事態を回避する中庸の神は凄いのかバカなのか。


「僕は彼の願い通りに『何とかした』んだ。問題は無いはずだよ」


「正しい魂を正しい体に入れるべきだ。混沌の神々みたいな悪意ある解釈は認めない」


 これは久々のガチ切れでしょうか?


「困ったなぁ。でも彼の魂を試作勇者の体に入れようとしたら既に今の魂が入っていたんだ。肉体に入った魂を僕が直接取り除くのは神々の制約に反するんだけど」


「……制約は守られるべきだ」


 苦虫を嚙み潰したような顔で秩序の神が中庸の神の言い分を認めます。


「そこで近い時期に死んだ『風の聖戦士』の体を再利用したんだ」


「……」


 これは確信犯ですね。属性を司る八人の天使を属性の大精霊として人類に伝えました。そして先代勇者と八大精霊は力を合わせて世界を守る結界を張りました。地上に残した八つの力が健在な限り混沌の神々は世界を滅ぼせません。しかしこの500年で3つの力は失われました。後1つの力が失われたら結界の維持が出来なくなり、世界は滅亡に向かいます。秩序の神の予定通りに。最後の仕上げとして本物の勇者が世界を再生するだけです。


 中庸の神は秩序の神の一人勝ちが許せないのです。それは秩序陣営全員が分かっています。だから敢えて秩序の神が捨てた秩序陣営の力に肩入れしたのです。


「その者を感じる事が出来ない。本当に生きているのだろうな?」


「いずれ風の天使に祈りが届くんじゃない?」


「試作勇者の魂が祈りを捧げたらすぐに報告せよ」


「すぐに徹底させます。この時期なら祈る可能性が高いです」


 私は素早く他の神々と同僚に秩序の神の命令を伝えます。手遅れで無いと良いのですが……。


「中庸の神よ。試作勇者の体の不正利用は看過出来ない。この件は貴様の責任だ」


「偶然そうなった可能性があるし力尽くはどうかな?」


 中庸の神にしては粘ります。普通なら面従腹背でのらりくらい時間を稼ぐのに。となるとこの一件は中庸の神と混沌陣営の神々の間で何か密約があるのかもしれません。


「あれは野放しには出来ない」


「じゃあさ、一年見守ろうよ。彼が秩序陣営の英雄なら天寿を全うさせる。違うのなら次の冬至祭で魂を刈り取る」


「良かろう。責任から逃げる事は出来んぞ」


 そう言って秩序の神は中庸の神の言い分を認めます。一瞬ですが秩序の神が笑った気がします。笑った所を見たことが無いので、きっと気のせいです。


 そして一年後、私は秩序の神の真意を最悪の形で知る事となります。

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