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083 ラディアンドの冬 動き出す歯車

 急いては事を仕損じると言うが、取っ掛かりすら見つからない。残飯が怪しいのは正気な人間なら誰でも分かる。だがそれ以上調べようとすると途端に情報が途切れる。『追跡』スキルを取れば役に立つかもしれないが、俺にそれを取る空き枠は無い。それに枠の上限を考えるとこのスキルは俺のビルドと相性が悪い。これを取るのなら取ってはいけない『天魔法』を取った方が遥かにマシだ。


 真実を知るには関わっていそうな人間を直接締め上げるのが早い気がする。でもそうすると流民街の権力構造そのものに喧嘩を売る。それはまだ早い。今の俺は監視対象かもしれないが排除対象では無いはずだ。


 そして特に大きな出来事も無く日々が流れると気になる発見があった。ジャンキーになる流民が増えている。そしてそれ以上に消える流民が増えている。ゴブリンミートの量を増やしたのだろうか? 俺が『アイテムボックス』に入れている残飯の重さに変わりは無いと思う。


 なので流民街の顔役で唯一多少話せるエリックのもとを訪ねた。


「人が減っていないか?」


「冬だからなぁ」


「死体の数と合わない」


 惰性で続けている糞尿集めの仕事が意外な所で役に立った。感覚的な事だが、5人が消えたら1人は死体となって発見される。4人は消える。そしてその消えた4人は残飯を食いに赤い屋根の家に入ったきり出てこないのまでは調べがついている。何回か徹夜して張り込んだ事があるが、朝になるまで変な動きは無かった。空振りに終わったが赤い屋根の家には地下通路がほぼ確実にあるのが分かったのは収穫だ。


「色々あるんじゃね?」


 エリックは頭を掻きながら薄ら笑いを浮かべる。これ以上エリックを突いてもこの件で進展はなさそうだ。


「俺が世話になっているモーリックが消えない事を精々祈っていろ!」


 モーリックはいずれ帰って来ない。だが俺の目の前で未帰還にはさせない。エリックにそれを伝えて効果があるか分からない。だが彼は俺が何処に寝泊まりしているか確実に把握している。エリックの手は俺が想像できるより遥かに長い。場合によってはこの身体がクロードの物だと知っている可能性すらある。流石にそれは穿ち過ぎだろうが、俺の年齢からラディアンドの孤児だったまでは当たりを付けているはずだ。


「俺がどうこう出来る事じゃないしなぁ」


 俺と目を合わせるのを避ける様に天井を見ながら答える。ブラック企業の営業で何回も似た光景を見て来た。これは出来るがやるには面倒な処理が必要だと言っている様なものだ。エリックは善人過ぎてこういうダーティーな交渉になるとボロを出す。そこを容赦なく突く俺は前世の自分が嫌いだ。


「これから人が少なくなるから目立つ事もあるだろうなぁ。一月もすれば逆に新人が増えんだが……」


 エリックはモーリックの話題から逃げるために最初の話題に戻す。


「増える? 雪解けはまだ大分先だぞ?」


 春になって他所から来る流民が増えるのなら分かる。秋になって税金を払えず流民落ちする人間が増えるのも想像できる。だが来月の1月には人が増える理由が見当たらない。


「解放孤児どもがな」


 初めて聞く言葉だ。だが凡そ理解できる。冒険者ギルドで登録した孤児は100日を目途に首輪を外せる。そう言うのを隠語で「解放孤児」と呼んでいるみたいだ。首輪付きの孤児をどう思っているか良く分かる。


「そう言うものか?」


 クロードなら怒りを露わにエリックに殴り掛かって返り討ちにあっていた。俺はクロードの記憶から彼の怒りを知っているが、それは俺の怒りでは無い。記憶の影響で多少不愉快ではあるが、理性が飛ぶほどではない。


「ああ。冒険者になった解放孤児の9割は解放されてから1か月で死ぬか流民街に住み着くからな」


 孤児院から冒険者になるルートが棄民政策の一環なのは何となく分かっていたが、ここまで積極的に行政が介入しているのに驚く。


「その割に若い奴らをあまり見かけないぞ?」


「若い奴らは腹いっぱい食うからなぁ」


 食った残飯の影響が出るのが大人より早いのか。


 本来俺にその事を教える必要は無い。だが俺が元孤児か本気で探りを入れるためにエリックの方も出血を覚悟した。そのためにこの情報を俺に流すしかないと判断したのだろう。俺が孤児仲間を心配する素振りを見せていればそこから調べるつもりだったはずだ。


「まったく酷い話だ」


 だが困ったな。一月もすればクロードの顔を知っている人間が流民街に来るか。見た目はかなり変わっているし潰れた目も復活しているので付き合いが浅い人間は絶対に気付かない。それでも一緒に数年暮らした奴らなら雰囲気で気付く。


「話はそれだけか?」


「ああ」


 そう言って席を立つ。


 あ!


 今年の孤児が来ると聞いて不自然な長考があった事に家を出た時に気付く。これは気付かれたか?


 かと言って戻って確認なんてしたら恥の上塗りだ。


 それにバレた所で俺が一人ならどうとでも対処出来るはずだ。となると懸念はモーリックとベルファの二人か。


 タイミングが悪い時に色々なイベントが重なるのは卓上だけにして欲しいものだ。


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