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081 ラディアンドの冬 初仕事

「仕事が欲しいなら最初は糞尿と死体の回収だ」


 エリックが回せる仕事はこれだけらしい。門番にならなれるが、あれは日雇いではなく長期契約だ。下手に流民街のシステムに絡めとられるのは好ましくない。


「一人でやるのか?」


「新人と言えば相手が対応するさ。場所はここだ」


 汚い羊皮紙になんとか判別できそうな地図が描いてあった。どうやらこれをそこで手渡す事で仕事開始となるらしい。


「やってみよう」


 流民街を歩き回って地の利を得ると思えば悪くないかもしれない。それにこんな仕事に俺が勝てないような実力者が参加している可能性は低い。


 しばらく移り映えのしない流民街を歩くと臭いが一際きつい一角に出た。反射的に『アイテムボックス』からぼろい布を取り出してマスク代わりにする。次にこの仕事をやるのならもう少しマシなマスクを用意しよう。前世の俺と違い、この身体の汚物耐性はそこそこ優秀みたいだ。それでも夏場は絶対にここに近づきたくない!


 建物からは3人1チームで出て来ている。一人が木製の荷車を引っ張り、もう二人が木製のスコップを持っている。いつ潰れるか分からないほどガタが来ている荷車だが整備すると言う考えは無いのかもしれない。俺と同じように鼻と口を布で覆っているが、それ以上に彼らの目が死んでいる。残飯に嬉々として群がる流民と手遅れなジャンキーの中間に思える。モーリックみたいに手遅れなのを気付きながらそれでも抗おうとした人間の成れの果てかもしれない。


「ここで仕事があると聞いたんだが?」


 支配人と思える男に声を掛ける。孤児時代のクロードを散々痛めつけたような男なので間違いは無かろう。


「あ? それならそこの二人と組め」


「業務内容の説明は無いのか?」


「あいつらに聞け」


 酷い扱いだが殴られなかっただけ好待遇だ。俺の目がまだ死んだ魚の目じゃないのでビビったのだろう。だが俺が激昂してこいつに殴り掛かった所で事態は好転しない。今日はこいつの流儀に合わせるとしよう。


「俺はアッシュ。今日はよろしく頼む」


「おう」


「ついて来い」


 駄目だ。この二人からまともな事は聞けそうにない。


 俺達3人は黙って流民街を練り歩く。荷車を引いている男の頭の中には辿るべきルートが入っているみたいだ。どうやってそれが可能なのか甚だ疑問だ。正気を失う事とセットだとするとここで出されている残飯は俺が当初考えていた以上にヤバい代物かもしれない。流石にそんな事は無いだろう。


 しばらく糞尿をスコップで掬い上げて荷車に乗せる作業を続ける。乗せるたびに隙間から落ちているんだが、男二人は気にしていない。前世は綺麗好きだった俺としては耐え難い事だが、自分が糞尿まみれになってまで道を綺麗にしたくない。


 このまま何事も無く終わるのかと思った矢先、突然荷車が止まった。


「あれ」


 男は壁にもたれ掛かって動かない男を指差す。スコップの男がスコップを置いてその男に近づく。どうやら俺も同じ様に動かないといけないらしい。同僚が頭を、俺が足を持ってそのまま荷車に乗せる。そして何事も無かった様に進む。


「どうして死んでいると分かった?」


「分かる」


 分からない。この数か月異常な数の死線を潜り抜けて来た俺でもパッと見て死体かどうか判別できない。この男は何らかのスキルを持っているのか? だがそうなると荷車を引く全員がそのスキルを持っていると言う事になるのか? 俺の前世の経験やルルブの情報が役に立たないのは仕方が無いが、クロードの記憶すら空振りに終わるとは、ここまで俺の常識が通用しない場所だったとは驚きだ。マックスなんて一時間くらいで一時的狂気に侵されそうだ。


 深入りし過ぎるのは危険だ。だから糞尿を荷車に入れている隙に『ブレイブシステム』を死体に使用してみる。反応無し。この死体は本当に死体だ。これは想定通りだ。そうなると今日の同僚やジャンキーはどうだろうか興味が湧く。変に足が付いたら怖いから同僚は今回は見送る。だがジャンキーは死体に見えるけど死んでいない人間には積極的に使っていこう。


「帰る」


 男がそれだけ言うと荷車は支配人の居る屋敷に向かい出す。帰り道は来た道を逆走するだけだった。道中に新しく増えた糞尿は全部無視して急いで帰る。これだけの速度を出して大丈夫かと思うが、同僚二人から一切の感情を読み取れない。屋敷に着いた頃には他の荷車も帰って来ていて、かなりの渋滞となる。支配人が声を張り上げて指示を出している。しかし名前も番号も呼ばずにどうやってこれだけの人間に指示を飛ばせる? ルルブにサイキック系のスキルはあったのを覚えているが、こんな範囲テレパシーみたいなチートスキルは無かった。


 荷車を返し終わった順で皆は残飯の匂いがする方に歩き出す。急いで帰ったのはこれが理由か。


「給金は?」


「……ほら10枚」


 かなり驚いた支配人が俺に鉄貨を渡す。同僚たちはただ働きか。時間が経つとともに謎が増えるなんて最悪だ!


「昼飯はしっかり食えよ!」


「ああ」


 俺は支配人の発言に曖昧な答えを返してこの場を去る。やはり残飯に秘密がある。死んでも食う気は無いが『アイテムボックス』にもう少し貯えておこう。この狂った流民達には効果抜群な気がする。

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