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070 渓谷のダンジョン 最後の謎

 ダンジョンドレイクを倒して8時間は経過した気がする。この世界に時計はあるが個人が携帯する様なものは無い。その代わり本能的に時間が分かる者は多い。人間とエルフは日の出が無いダンジョンではその感覚がマヒするらしいが、ドワーフは逆に感覚が研ぎ澄まされる。


 ダンジョンドレイク戦の怪我を魔法とポーションである程度治すと言う建前で宴会しただけな気がする。ある程度酔いが回って仮眠する事で地上が恋しくなる者が多く居た。浮かれた気分で「凱旋」を夢見る者たちを他所にリーダー格は帰還ルートを真剣に相談している。その場に俺が口を出すのはあまり良くない。無視されたらそれだけの事だ。


「この帰還ルートは無事に帰れる前提みたいだが?」


「ダンジョンを攻略した今、地上でモンスターに襲撃される程度の脅威しかない」


 ヘディンの答えを聞いて、彼らが事の本質をまるっきり理解していない事に気付く。俺もブラック企業時代に多く経験した。企業同士で合意したのに国が横やりを入れて来て商談が流れた事が何度もあった。俺の時はギリギリアウトな案件ばかりだったが、黒字のためには必要なリスクだったんだ! 何が言いたいかと言うと、ヘディンにとっての想定外の横やりは俺にとっては確定襲撃だ。


「おかしいとは思わないか?」


 まずは彼らに疑問を抱かせる。


「去年調査した冒険者パーティーは本当に調査を断念したと思っているのか」


「雪が降ったのなら引き返すはずだ」


「なら何故雪解けが終わってすぐに誰か調査に出さない?」


「……」


 ヘディンは押し黙る。彼はここに来る際に「他のダンジョンが活性化した」と言っていた。それの真偽は不明だ。だが雪解けと活性化の間には調査パーティーを派遣出来るだけの時間的空白がある。


「去年のパーティーはこのダンジョンが今年Cランクになると確認して帰還した。そして今年攻略するはずだった」


「「なんだと!?」」


 俺の爆弾発言を聞いてカーツと傭兵団を中心に多くの人が驚く。


「あり得ん! ダンジョン攻略は許可制だ。無断での攻略は冒険者ギルドが許さない」


 ヘディンが否定するも、その論述は寂しい限りだった。


「俺は無許可でここを潰すつもりだったぞ。献上に価値を見出さない者はヘディンが考えるより多い」


 ヘディン達は俺が流民だと知っている。だがマックスの遊歴中の騎士同様に「そう言う設定」だと思っている。本当に流民なら口すら聞いてくれないかもしれない。


「……だが」


 言い淀むヘディンはラックナーとスタイングリムに目を向ける。冒険者パーティーの知恵者に助けを求めるのは良い判断だ。その二人が俺の爆弾発言で驚かなかった数少ない人間でなければ。


「冒険者ギルドがグルかって話でしたら、私には分かりません」


「私たちが蚊帳の外なのはガングフォール様が証言してくれます」


 ラックナーとスタイングリムの話を聞いてヘディンの目から光が消える。


「誰か俺に分かるように説明しろ!」


「では私が」


 カーツの求めにラックナーが応じる。そして彼は語る。


 去年調査に来たパーティーは渓谷のダンジョンが地下20階まで拡張したのを知った。Cランクになる前に討伐するのが理想だが強制ではない。この段階で撤退は何の問題も無い。しかしそのパーティーは何故か冒険者ギルドに報告しなかった。ダンジョン調査の依頼失敗は信用に大きい傷が付くので、本来は「異常なし」と嘘の報告を出す。今年ダンジョンがCランクになっている確証が無ければ調査は成功したと報告され、冒険者ギルドは疑わずに受理する。


「傭兵が倒していない敵を倒したと言って戦果を盛る感じか」


 カーツが一人で納得する。カーツ傭兵団の面々が分かりやすいように敢えて口に出したのだろう。


「その通りです。そしてアッシュが気付いた続きがあります」


 ダンジョン調査の依頼失敗が実力以外で発生した場合、再調査に立候補する事が出来る。そして信用を失わないために積極的に再調査をやるパーティーが多い。再調査してCランクになっている所を発見し攻略すればお咎め無しの上にギルドと城爵から褒美を貰える。無論、Cランクのダンジョンを攻略出来る実力者の場合、と注釈が付く。


「そいつらは攻略出来るのか?」


「俺達よりは弱い。それでなくても単独では不可能だ。地下22階前後が最終階層と決め打ちするのなら30~50人規模の攻略パーティーを組織すれば行けるはずだ」


 カーツの問いにヘディンが答える。そしてこれだけの人員が動くのだから誰かに気付かれる。だから俺の話は杞憂と言う風に話を持って行きたかったのだろう。


「アッシュとヘディンの話を総合すると最悪です」


 ヘンリーは片手で顔を叩く。伯爵家の人間だけに分かるか。


「どういう事だ、ヘンリー。何か分かるのか?」


「マックス様、30人規模をデグラスを通さず動かせるのは貴族だけです」


 ヘンリーの発言を聞いてラックナーが続ける。


「アッシュではありませんが、名乗り出なければ無断攻略は露見しません」


「隠す理由があるとはとても思えん!」


 ヘディンが頭を抱えて唸る。王家と辺境伯の関係を知らなければ当然の反応だ。もし無断攻略を企む貴族が辺境伯と繋がっていれば、それは王家に内緒でCランクの魔導鎧を手に入れるのが目的か。俺みたいに低すぎる最大レベルを上げるためなんて微笑ましい理由なら良いんだが。


「そう言う場合はダンジョンが攻略されない様に担当文官に賄賂を贈るんですけどね」


 スタイングリムが肩をすくめながら言う。


「儂のルートに賄賂をケチりおったか!」


 それを聞いてガングフォールが悪態をつく。渓谷のダンジョンの攻略許可を出したのはガングフォールに忖度したドワーフだ。そのドワーフもヘディン達同様に蚊帳の外に居た。本来は貴族同士が結託してこの手の悪さが露見しない様に立ち回る。


「それを踏まえて、帰路でダンジョンコアを求めて襲撃されると思うか?」


 そして俺が戦勝ムードに水を差す。そこからはヘディンとカーツが中心となって熱い議論が交わされる。そして取るべき帰還ルートが決まる。

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