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066 渓谷のダンジョン 魔導鎧

 俺は「魔導鎧を出せば勝てる」ととんでもない勘違いをしていた! クロードの記憶にある魔導鎧はAクラスのダンジョンコアを使っていてほぼ無限に活動できる。だがヘンリーのはCランクのダンジョンコアを使っている。どれくらいでタイムリミットが来るのか皆目見当がつかない! 前世の卓上でボスエネミーとして出て来た事はある。だがその際は相手が防衛戦に徹していた。プレイヤーが魔導鎧を使うルルブを持っていなかった事もあり、攻勢での立ち回りが分からない。


 だが俺の心配は杞憂かもしれない。


「はぁぁぁ!!」


 ヘンリーが魔導鎧が背負っている3メートル級の剣でダンジョンドレイクに斬り付ける。一撃ごとにドレイクの鱗が潰れ、血が飛び散る。


「グワァァァ!!」


 ドレイクが右足でヘンリーを蹴ろうとするが、ヘンリーは左腕でそれを受けた。一センチほど押されたが、そこで止まり片手でドレイクの足を押し返した。


「凄い! これは勝てる!!」


 俺は喜色満面で叫ぶ。


「そうだが……」


 しかしマックスの顔が優れない。


「何か懸念があるのか?」


「魔力消費が激しすぎる。短期決戦なら大丈夫だが、この戦い方で殺し切れるか」


 マックスは片手で足を押し戻す行為が無駄に魔力を消費するだけだった事を心配しているみたいだ。


「だが貴……ヘンリーの魔力量はかなり高いはず」


「低くは無い。俺の10分の1程度だ」


 咄嗟にマックスをぶん殴らなかった俺自身を褒めたい。これだけの差があるのならマックスが搭乗すべきだった。


「ヘンリーに華を譲るためか?」


「……『魔導鎧操縦』のスキルがない」


 マックスは搾り出す様に言う。それは王族としては致命的な欠陥だ。建国者から歴代国王まで全員が『天魔法』と『魔導鎧操縦』スキルを持っていた。俺に明かすのも苦渋の決断だったろうに俺を信じて明かしてくれた。スキルが無くても剣を振るえる様に魔導鎧は操縦できる。しかし高レベルスキル持ちとスキル無しでは前者が圧倒的に強い。


「ヘンリーのレベルを聞いても?」


「レベル2だ」


 咄嗟にマックスを蹴らなかった俺自身を褒めたい。


「その程度の差なら気にせずマックスが操縦しろ!」


 高レベルの『魔導鎧操縦』スキルか圧倒的魔力量でごり押し出来る操縦者が前提の魔導鎧に普通に優秀なだけの男を乗せるな! 明らかにヘンリーのビルドと致命的にまで合っていない。


「うおおお!」


 俺とマックスが話している間もヘンリーとドレイクは死闘を演じていた。そして遂にヘンリーの剣が前足と首の間の肉に突き刺さった。並みのモンスターならここからは畳み込める。


「グルゥゥゥ」


 しかし相手はCランクのダンジョンのボスモンスターにして竜種に分類されるダンジョンドレイクだ。一撃良いのを貰って逆に冷静になった雰囲気だ。これは良くない。実に良くない。


 そして俺の懸念通りにドレイクが両前足を宙に浮かせる。


「チャンス!」


 ヘンリーががら空きの腹目掛けて数歩前に出る。


「不味い、罠だ!」


「罠じゃ!!」


 俺とガングフォール、どっちが先だったか分からない。ただ以前俺とマックス、そしてガングフォールを吹き飛ばしたあの攻撃だ。そしてドレイク最強の物理攻撃が地面では無くヘンリーの魔導鎧目掛けて放たれた。


 ヘンリーは咄嗟に剣の腹で両足の攻撃を受けるも、剣は衝撃で爆散した。俺とマックス目掛けて飛んできた破片は俺が全て叩き落とした。


 剣を破壊した両足はそのまま魔導鎧の胸を強打し、そこで発生した衝撃波がヘンリーを襲う。幸い、衝撃波で魔導鎧そのものが後方に吹き飛ばされてヘンリー自身へのダメージを軽減した。ヘンリーの足が何らかの方法で固定されていたら、ヘンリーは魔導鎧の中で爆散していただろう。


 その幸運を差し引いても魔導鎧は酷い状態だ。特に全力の一撃を食らった剣を持っていた右腕は肩から無くなっている。ドレイクとヘンリーの間に落ちている腕を見ると、指先から肘までは原型すらとどめていない。肩と上腕は辛うじて形を保っている。ヘンリーの家紋が描いてあるボディーは陥没していて、見るも無残な形になっている。


 ギギギと不協和音を出しながら何とか動こうとするヘンリー。だが両足のダメージも大きかったみたいで、動こうとするたびに足から火花が飛び散る。戦力としてはもう期待できない。と言うか、滅茶苦茶高い玩具が初陣でスクラップ行きだ。ヘンリーはどう実家に説明するのか気になった。


 この非常事態にそんな事を考えられる余裕があるのは狂乱しているマックスが横に居るからか。それとも悪すぎる状況からの現実逃避か。


「ヘンリー!」


 咄嗟にヘンリーの下に駆け付けようとするマックスを止める。今動いても死体が二つになるだけだ。


「離せ!」


「行っても死体が増えるだけだ!」


「だがヘンリーが!」


「助けたいならあのドレイクをぶっ殺せ!」


「……」


 マックスがドレイクを睨む。だが答えは無言だった。今のマックスでは奇跡をおこさないとあのドレイクには勝てない。


「マックスは俺を信じられるか? 一瞬とは言え、俺にその命を託せるか?」


「それで勝てるのなら、躊躇はしない!」


 即決するなよ。俺が悪魔だったらどうするつもりだ?


「分かった。『ブレイブシステム』」


 そして俺は初めて他人に試作勇者の力を使った。勝つのに奇跡が必要なら、その軌跡を用意しようじゃないか。

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