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064 渓谷のダンジョン 地下22階

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 重装備のヘディンが宙を舞い壁に激突する。これまでコボルトチャンピオンの全力突撃以外では一歩すら動かなかったのヘディンがすっ飛ぶ姿は衝撃的だ。悠長に眺めていたら死ぬ事になりそうだ。


「スタイングリム、下がれ!」


 俺はフルパワーで槍を振り下ろしダンジョンドレイクの噛みつき攻撃を弾こうとするも、吹っ飛ばされたのは俺の方だった。それでもスタイングリムが詠唱を中断して後ろに下がる余裕は出来た。


「助かる!」


 スタイングリムが急いでボス部屋の反対側に走って詠唱を再開する。彼の魔法が通じるかは分からないが、ダンジョンドレイクはその魔法を最大の脅威と認識している。それを利用しない手は無い。キスケはヘディンがダンジョンドレイクの注意から外れた事を利用しポーションを流し込んでいる。しばらくすれば復帰出来るだろうが、この間に攻撃の手を緩めては駄目だ!


「竜退治の栄光を!」


「「竜退治の栄光を!」」


「祖先に感謝を!」


「「祖先に感謝を!」」


「ぶちかませ!」


「「応!!」」


 ガングフォールがドワーフを鼓舞し、今一度の突撃を敢行する。ガングフォールの一撃が決まれば多少のダメージになるが、残り3人は気力でぶつかっているだけだ。


「くそっ!」


 俺は立ち上がりざまにどのようにこのピンチに陥ったか考える。


 地下22階に到達した俺たちは大まかに二つの状態に分かれていた。まだ戦える者ともう戦えない者だ。特にカーツ傭兵団はカーツとキスケ以外は精魂尽きていた。それにカーツは傭兵団のフォローでかなり疲労が溜まっている。ヘディンの冒険者パーティーはまだ元気だがボスに挑むには正面火力が足りない。となるとマックス達とガングフォールが主力になるしかない。


「私とヘンリーがガングフォール達とボスに挑もう!」


 マックスが水を得た魚の様に言う。6人パーティーで挑むのならそれほど悪い選択ではない。それに二人には切り札があるみたいだ。


「少し良いですか。このボス部屋はどうやら10人まで入れるみたいです」


 ヘディンのパーティーで唯一役割が分からなかった男が突然喋った。


「え、話せるの?」


 マックスが驚く。俺達全員が驚いたと思う。


「無駄話はしません」


 男がお辞儀しながら言う。


「ラックナーは学者なんだ。不愛想な奴だがこれまでハズレを引いた事は無い」


 ヘディンの説明に皆が耳を貸す。しかしまさか学者とは驚きだ。卓上でもダンジョンに潜る前に学者に情報を聞く事はあったが、学者本人が乗り込んでくるとは驚きだ。


「Cランクのダンジョンになった事でボスの強さが上がりました。それを生かすためにボス部屋を大きくしたみたいです」


 ボスモンスターの大きさでボス部屋に挑戦できる人の数が決まるらしい。


「となると俺が行くとして、残りは3枠か」


 俺はいの一番に参加を表明した。


「スタイングリムの魔法が必要になる。その盾である俺が行かないわけにはいかない」


 ヘディンとスタイングリムが参加を表明する。


「最後は俺……」


「駄目よ」


 カーツの発言をキスケが遮る。


「だが傭兵団から誰か出さねば!」


「そうね。だから私が行くわ」


「正気か?」


「傭兵団で一番元気なのは私。回復から補助、さらに牽制までお任せあれ!」


 クルっと一回転してウィンクするキスケ。


「はぁ、分かった。任せる。カーツ傭兵団の名を背負うんだからヘマするんじゃねえ!」


「任せて!」


 そして俺たち10人が選ばれた。


 それでも流石にボスがレッサードラゴンであるドレイクだとは考えもしなかった。ドレイクは四本足を持つが翼を持たないドラゴン種でとにかく装甲が頑丈だ。俺の前世を終わらせたトラックを片足で軽々しく蹴り飛ばせるパワーを持っている。更に何らかの属性ブレスを持っている事が多い。まさしくダンジョンのボスとして君臨するに相応しい存在だ。


 そしてこれまで負けない程度に戦えているが、決定打が無い。このままでは負ける。


「アッシュ、アレを出してください!」


「遂にか!」


 ヘンリーの頼みに応じて俺は『アイテムボックス』に荷物扱いで入れられた魔導鎧を取り出した。ダンジョンドレイクは反対側を見ているので2メートル50の物体が現れた事にまだ気付いていない。これならあのドレイクとある程度互角にどつき合える。


「マックス様、今の内に!」


「それにはヘンリーが乗るんだ!」


 マックスはヘンリーの話を断り、逆にヘンリーが搭乗すべきと言い出した。王子がヘンリーの実家の家紋が胸に大々的に描かれている魔導鎧に乗るのを躊躇したか? 詳しい経緯は分からないが、マックスがダンジョン攻略を決めた後にヘンリーは実家に泣きついてガングフォール経由でこの新品を用立てたみたいだ。


「しかし!」


「私にはドレイクに通じる天魔法がある! 前衛で攻撃が通じないのはヘンリーだけだ!」


 その通りなんだが、ドレイク相手に『シャイニングセイヴァー』で接近戦を挑む王子を見ていると多くの者が胃を痛める。


「グダグダしない! ヘンリー乗って!」


 結局部外者であるキスケの一言で搭乗者が決まった。


 魔導鎧のエンジンに火が点される。そしてそれを見過ごすダンジョンドレイクでは無い。


「何分だ!?」


「5分ください!」


「聞いたな! ヘンリーが動けるまでにドレイクを倒すぜ!」


「「おおおお!」」


 俺の激を聞いて皆が持てる力全てを持ってダンジョンドレイクを足止めする。俺の『槍術』が何処まで通じるか試してくれる!


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