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061 渓谷のダンジョン 地下20階

「はぁぁぁ!! 食らえファイアボォォォルゥゥゥ!!」


 ヘディン率いるパーティーの魔法使いであるスタイングリムが十分弱に及ぶ詠唱を終え、強力な魔法を地下20階のボスモンスターであるコボルトチャンピオンに放つ。この長い詠唱時間が魔法が実戦で役に立たないと言われる所以であり、その評価は正しい。それでも冒険者が魔法使いをパーティーに加えるのはジャイアントキリングを狙うための必要経費だと割り切っているからだ。俺たちが今戦っているコボルトチャンピオンと言う格上のボスモンスターに重傷を負わせる事が出来るのはスタイングリムの魔法くらいだ。


「回避させるな!」


 ヘディンの叫びに彼を含めた前衛5人がコボルトチャンピオンを拘束しに掛かる。ファイアボールの直撃さえ躱せば巻き込まれてもたぶん死なない。ヘディンはタワーシールドを構えスタイングリムの護衛と全体指揮をやっている。そうなると拘束の役目は前衛の4人の仕事だ。


「氏族の名誉のために!」


「そして氏族長秘蔵のドワーフ酒のために!」


 ガングフォールが連れて来たドワーフの二人がコボルトチャンピオンの両足に抱き着く。名誉を重視するアロガと酒が大事なファーラムはガングフォールに負けない前衛特化のファイターだ。流石のコボルトチャンピオンもドワーフ二人を吹き飛ばすには時間が掛かる。


「アッシュ右!」


 カーツの怒号が飛ぶ前に俺はコボルトチャンピオンの右腕に狙いを定めていた。カーツが左腕を担当するのならこれでコボルトチャンピオンは四肢を自由に動かせない。


「ファーラムはやらせん!」


 ドワーフの首筋に爪を差し込もうとしていたコボルトチャンピオンの上腕を貫く。流石はドワーフ製の一品! 俺が先ほどまで使っていた支給された槍は5本連続でコボルトチャンピオンの体に当たると同時に柄が折れた。穂も貫通せずにそのまま毛皮の上を滑るだけだった。


「ギャイン!?」


「槍が違うんだよ、槍が!」


 先ほどまで碌にダメージを与えていなかった俺が腕一本を持って行ったのを驚いて動きを止めるコボルトチャンピオン。


「よそ見はさせねえ!!」


 カーツが大上段から両手剣を振り下ろす。かつてレッサーミノタウロスを両断した一撃だが、コボルトチャンピオンは前腕を犠牲に攻撃を止めた。肉を切り骨で止まった感じだ。


「マジかよ!?」


 流石のカーツも全力の一撃が身体能力だけで止められた事にショックを隠せない。


「インパクト!」


 ヘディンの掛け声とほぼ同時にファイアボールがコボルトチャンピオンに直撃する。俺たちはその爆発に巻き込まれてバラバラに吹き飛ばされる。酸欠対策に『マナ呼吸』に切り替え少しでも早い復帰を目指す。足に組み付いていたドワーフ二人は吹っ飛び壁に激突した。頑丈だから死んではいないと思うが二人が戦闘中に復帰する事は無さそうだ。カーツは直撃と同時に後ろに跳んだが、両手剣を手放していた。それでもファイアボールの余波を食らったのか、片膝をついている。


「あれを耐えるか!」


 スタイングリムが恐怖で震える声で叫ぶ。パニックになって背中を見せないだけ余裕があるのかヘディンを信頼しているのか。


「くっ!」


 ヘディンが攻撃を捨ててタワーシールドでコボルトチャンピオンの突進を止める姿勢を取る。


「うわぁ!」


 二人がぶつかった影響で発生した衝撃波はすさまじく、カーツは後ろに飛ばされないだけで精一杯だった。突進を諸に受けたヘディンは何とか数歩下がるだけで止まった。しかしタワーシールドは大破し、彼の両腕の骨も折れているようだ。


 それでもコボルトチャンピオンは一瞬硬直した。そしてコボルトチャンピオンの頭は宙を舞った。


「ラストアタックを取って悪かった」


 俺はドワーフ製の槍から血を払いながら言う。あの爆風で吹き飛ばされる瞬間、俺は無理やり槍をコボルトチャンピオンの上腕から引き摺り出し、『アイテムボックス』に入れていた。後は武器を失い動けないふりをしてコボルトチャンピオンが動きを止める瞬間を狙っていた。


「いや、良くやったアッシュ」


 ヘディンが祝福してくれる。思う事はあるみたいだが、あそこで俺が動かなければヘディンとスタイングリムは死んでいた。


「流石はダンジョンの最終ボス。老骨には荷が重かった」


 ファイアボールに全力をこめた反動か、スタイングリムは実年齢より20年は老けて見えた。ただでさえ冒険者パーティー最年長の45歳だから、知らぬ人が見たら老人としか思わない。魔法に関しては実戦で腕を磨き上げて来たそうだ。そのためか学校で正規の訓練をした魔法使いや学卒に師事した魔法使いが嫌いだ。そう言う過去のため、使える魔法の数が少ない代わりに一撃の威力が大きい。俺は『魔法威力増幅』みたいなスキルを持っていると睨んでいる。


「俺達6人で良かった」


 俺に次いで軽症のカーツが言う。マックスかガングフォールに万が一があったら大変だった。


 アロガとファーラムが無事か確認しようとした所で入口が音を立てて開いた。


「大丈……大けがじゃない! アッシュ、ポーション類!!」


 キスケが乱入してきた。ボスを討伐したのでドアが開くとは言え、俺達が出て来るまで待つのがマナーだ。とは言え、今回はコボルトチャンピオンを討伐するのに時間が掛かったために全員が心配していたんだろう。それから俺達5人の治療で皆が世話しなく動いた。


 流石に今日はこれ以上の戦闘は無理だ。でもボス部屋の後ろにあるダンジョンコアを壊す程度は出来る。ガングフォールが一足先に偵察に向かった。


「地下21階がある」


 偵察後の開口一番に全員が言葉を失った。

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