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055 渓谷のダンジョン 地下10階

 その後も順調に進み、地下10階のボス部屋に到着した。


「ボスに挑むのなら6人で行くのが最善だ」


 ヘディンが経験則から言う。


「ボスは一体か?」


「そうだ。種類はレッサーミノタウロスと言う牛頭のモンスターだ」


 背丈は2メートル超。主兵装は両手で持つ巨大な斧。ただし接近し過ぎると角と蹄による攻撃がある。ヘディンなら単独で討伐出来るが、無用なリスクは取りたくない、との事だ。


「なら丁度良い。俺とキスケ、マックスとヘンリー、そしてアッシュの五人で行く」


 それを聞いてカーツが名乗りを上げる。


「経験者無しで大丈夫か?」


 ヘディンが心配して聞く。どうやらマックスとヘンリーの経験はカウントされないみたいだ。


「敵がレッサーミノタウロスなら後れは取らん。それにこいつらと挑むって先約があるんだ」


「その通りだ。この5人で行く」


 マックスがそう言えば、そうなるしかない。


「後1人入れる余裕があるのだから儂も入れてくれんか?」


 ここでガングフォールが手を上げた。他のドワーフが必死に考え直してくれと懇願するが、ガングフォールは無視した。


「しかし……」


 マックスがどう言って断るか迷った。


「鍛冶神に誓ってボス部屋での俺とマックスのやり取りを話さないと誓うのなら構わない」


 なので俺が割り込んだ。マックスが言い淀んだ時点で何か隠し事がある事は相手側に伝わった。なら変に疑われ続けるより部外者が一番信用しているドワーフを巻き込んだ方が安全だ。


「勿論だとも!」


 ガングフォールはビールを一杯飲むが如く気軽さで神に誓い建てた。そして俺たちはボス部屋に踏み込んだ。


 ボス部屋は幅と奥行きが10メートルに縦が5メートルの一般的なボス部屋だった。装飾品は無く、中央にレッサーミノタウロスが一体待ち構えているだけだった。


「ブモォォォ!!」


 レッサーミノタウロスの咆哮で戦闘が始まった。咆哮に『威圧』が乗っていたのか、ヘンリーとキスケが固まった。


「先に仕掛ける!」


 ガングフォールなら彼らを守るだろうと信じて俺が先行した! カーツも数歩後ろから来ている。マックスはガングフォールに止められた。


 俺が槍を突き刺そうとすると、レッサーミノタウロスが斧を振り下ろして俺の一撃を邪魔した。流石にあの直撃はヤバいので回避しながら彼の後ろに回った。彼は俺の動きを目で追うも、槍では脅威にならないと考えてカーツに集中した。


「おおお!!」


 カーツが全力で両手剣を振り下ろすも、レッサーミノタウロスは膂力だけで振り上げた斧でその一撃を止めた。カーツが渋い顔をする。人間と外のモンスターならあの一撃が来るのを見たら確実に怯む。だが恐怖を感じないダンジョンのボスには心理戦は効果的に働かない。そして純粋なパワー勝負となると体力が先に尽きるカーツが不利だ。


 だがこの時間で俺はレッサーミノタウロスの後方に回り込んだ。後ろががら空きだと思ったら、鋭い蹴りが俺の頭を狙って放たれた。


「片足でカーツの一撃を往なせるのか!?」


 流石の俺もこれには驚いた。しかし驚くのが早すぎたとすぐに理解させられた。レッサーミノタウロスは蹴りを放つ時に体をばねの様に捻り、つばぜり合いしていたカーツをほんの少しだけ吹っ飛ばした。カーツなら瞬時に立て直すが、その間にレッサーミノタウロスは俺の方に向き直り、斧を横方向に薙ぎ払った。


「アッシュ!!」


 マックスの叫びが聞こえた気がした。だがこの程度の攻撃を躱せないと思われたのは残念だ。俺の敵となるであろう者たちはこんなレッサーミノタウロスよりも何倍も手強いのだから。


「『跳躍』」


 斧が頭上を素通りするほどに屈み、100メートル層を走るランナーの様な形から『跳躍』を発動させた。そして体ごとレッサーミノタウロスの脇腹にぶつかった。槍は見事相手の体を貫通した。流石はドワーフ製だ。


「グモォォォ!?」


 考えてもいなかった反撃を食らったレッサーミノタウロスが初めて苦悶の音を出した。これが無ければダンジョンのモンスターの脅威度は1~2段階上がりそうだが、ダメージを食らった時のリアクションは外のモンスターとほぼ同じだ。


 だがこの程度で負ける敵ではない。レッサーミノタウロスは左手で俺の頭を掴んだ。「ミシシ」と頭蓋骨が軋む。そして次の瞬間、レッサーミノタウロスの頭が真っ二つに裂け、胸元まで両手剣が達した。


「ご苦労さん」


 止めを刺したカーツが軽く言う。


「もうちょっと早くても良かったぞ?」


 拳同士をぶつけながらお互いの健闘を称える。俺がレッサーミノタウロスに捕まったのはあいつをあの場に固定するためだ。カーツの両手剣をフィニッシャーに使うのなら止まっている相手の方が決め易い。カーツの最初の攻撃でレッサーミノタウロスが俺を見失ったように、俺の刺突でカーツを見失わさせた。


「心配したぞ! いや、まずは見事だと言わなくては」


 戦いが終わったのを見てマックスが寄って来る。


「面目ありません」


「まだ耳が痛いわ」


 ヘンリーとキスケがばつが悪いそうに言う。レッサーミノタウロス程度の咆哮で硬直したのは二人の実力からして恥ずかしい事態だ。これに関しては慣れるしかない。


「魔石だけですか。残念」


 ガングフォールは消滅したレッサーミノタウロスの魔石をちゃっかり回収していた。ボス部屋だと偶にそれ以上の物が落ちるが今回はハズレだ。


「余り時間を掛ける物じゃないし、素早くやろうか」


 俺はボロ着を床に置き、その上に二つに割った首輪を置いた。

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