052 渓谷のダンジョン 山岳要塞
「あれを造るの必要な物は何か知っているか?」
「Aクラスのダンジョンコア、エルフの魔法、そしてドワーフの技術だ」
これで正しいはずだ。
「そこまで知っているとは流石だ。だがそれでは不完全だ」
「他に何か必要なのか?」
「まずBクラスの魔導鎧は儂の一族で造れる。無論、Bクラスのダンジョンコアを手に入れる難問をクリア出来る前提でだ」
Bクラスのダンジョン攻略はほとんど聞かない。ここ100年ほどで1つ攻略されたくらいだ。
「エルフの魔法は良いのか?」
「人間が頼めばやってくれる。儂が頼んだら矢の雨が降るがな!」
エルフの魔法は問題無いと言う事か。となると問題はドワーフにある?
「Bクラスまで造れるのにAクラスは無理な理由がある?」
「認めたくはないが、山岳要塞にある鍛冶神の工房が無ければAクラスの魔導鎧は難しい」
かつて世界を滅ぼさんとした勢力がドワーフの山岳要塞を落としたのはその工房が狙いだったか。ドワーフが崇拝する鍛冶神と人間が認める大地の大精霊は同じ領分を司るが、別の存在となっている。世界観とか神話にはルルブの情報は役に立たないので邪推するしかない。人類は秩序神を至高神とする一神教に近い多神教だ。鍛冶神を神と認めるわけにはいかないから、神に匹敵すると言う大精霊に落としたか。これが本当だとすると、もう数百年人類の天下が続けば本当の一神教になりそうだ。
「アイテムボックスに入れて持ってこられないか?」
「過去に脱出時に同じ事を考えたドワーフが居た。だが工房がある場所は神域だ。移動する事すら叶わなかった」
「それは都合が良いな」
「何!?」
「ならまだ残っているって事だ」
「それはそうだが……」
「喪失していたらどうしようと本気で悩んだ俺の心配を返せ!」
「ドワーフの悲願を軽々しく言うな!」
しばしいがみ合うも、いがみ合うだけ疲れるので程々の所で話をつづけた。
「で、それだけなのか?」
「気付いたか」
「工房だけが問題ならそう言うはずだ」
「Aクラスの魔導鎧なら工房だけの問題だ。あれになるともう一手必要になる」
すなわち大精霊をAクラスの魔導鎧に紐づけする何か。そしてその紐づけを維持するための生贄の血筋。
「どうやれば良い?」
「さっぱり分からん。あれはエルフの領分だし、今もエルフがそれを出来るか。ただ先祖の文献を読んだ限り、王家の血筋が鍵だ」
俺とガングフォールは自然とマックスを見た。国父だから特別なのか、500年前に推定異世界から召喚された勇者だから特別なのか。と言うか「タケル」なんて名前はこの世界の人類では異質だ。実際初代国王から今代までタケルを名乗った王はいない。秩序神は今回の問題も二匹目のドジョウ狙いで勇者召喚をやるのだろう。
「その話は本当だろう。マックスに会ってからあいつには振り回されっぱなしだ」
世捨て人の様に一人で生き抜こうと考えていた俺がマックスのためにダンジョン攻略をするとは本来考えられない。俺の思考すら王家の天の大精霊に誘導されている可能性を考慮しなくてはいけない。天の大精霊と他の大精霊には上下関係がある。そして国父と彼のハーレムの7人では国父に主導権があったらしい。そしてその関係は500年経った今でも変わらず続いている。世界を守るための祝福と綺麗事を並べる者が多いが、実質的には質の悪い呪いだ。
「難儀な事だな。武器なり魔導鎧なりが必要なら儂の所に来い。売ってやる」
「そうなると相当稼がなくてはいけないな」
「そうだ。黄金の輝きは良いぞぉぉぉ!」
何故商人をやっているか分かった気がした。
「はぁ。その分だと今回もたんまり稼ぐ算段でもして来たか?」
「鴨が葱を背負って来たからな! コアの件以外を譲る必要は無い」
なんだと!?
ヘンリー、貴様は何に同意した!?
「一応カーツも居たんだろう?」
引き攣った笑みでやっとそれだけ言えた。
「応よ! ドワーフの酒でしっかり接待してやったぞ」
酔い潰したのか。ああ前の方に居るキスケがカーツに怒鳴っているのかそれ関係か?
「おっと、断るのは無しだぞ? 酒を飲めない奴とドワーフは商売をしない」
アルハラ!? ブラック企業時代も酷い経験をしたが、こっちの世界でもアルハラからは逃げられない運命みたいだ。酔いに対する耐性スキルはどれだったか。『毒耐性』で効果があったか気がするが、自信がない。
「仕方が無いか。俺は金と名誉なんていらないが、他の奴らは別だぞ?」
「名誉と実績はちゃんとあちらに行く。金銀は全部ドワーフが貰うだけだ」
マックスはコアを献上すれば名誉を。カーツ達はダンジョンを攻略した実績を。それはそれで大きいが、彼らが手にするのは本当にそれだけだ。ダンジョン攻略で一攫千金を当てる夢を持つ真っ当な人間が参加していない事を祈るしかない。
「ははは」
こう言われては俺は何も言えない。マックスがこれを聞いて凹む前に俺がヘンリーに話しておくか。なんで俺が人間関係のフォローをやらないといけないんだ!
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