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051 渓谷のダンジョン ガングフォール

新章スタート!

 俺が起きたら物見塔の前には山の様に資材が積まれていた。俺が公表した容量に多少の余裕を持って入る18メートル四方に収まる辺り、かなり出来る男が手配したのが分かる。少なくともこの世界の人間にとっては高等技術だ。俺は無言で全部収容した。


「おお、凄い!」


「あれが入るとは、本物か!」


「賭けは俺の勝ちだ。その酒を寄こしやがれ」


 ギャラリーが騒ぐ。俺が考えていたより数が多い。それにドワーフまで参戦するとは一体どういう状況だ?


「良し聞け! 俺達が攻略するダンジョンはここから歩いて3日の距離にある。自己紹介とかは道中にやれ! 出発!!」


 カーツの号令で全員がノソノソと動き出す。これでも早い方だ。100人とか200人になったら3日と言わず10日掛かるかもしれない。数が多いのなら現地集合が多いのもそのためだ。


 歩きながら構成を確認するとしよう。カーツ率いるカーツ傭兵団が10人。対人戦では無類の強さを発揮するがダンジョン攻略は素人だ。6人組の冒険者パーティー。個人の強さではカーツ未満だからCランクか? ファイター、ローグ、スカウト、メイジ、ヒーラー、不明のバランスが良さそうなパーティーだ。前衛が足りないが、ダンジョン専門と考えればこれで十分だ。これで野戦が得意と言うのなら心から転職をお勧めする。雰囲気ある老戦士が一人混じっているドワーフの4人パーティー。クロードの記憶が確かならドワーフの4人組はドワーフ軍の正規小隊と同じ数だ。まさかそんなのが参加しているとは思えないが、4人全員がカーツ級だ。装備差まで考慮に入れるとこの4人が最大戦力だ。マックスとヘンリーの主従2人組。ダンジョン攻略経験があるらしいが、それは冒険者とドワーフ組も同じだ。一番の売りがダンジョンに入る前に死んでいる。もう本当に留守番しておけ、と言いたくなる。


 最後は俺だ。この中では上位に入ると思うが、全体的に見ると自分の弱さが良く分かる。『アイテムボックス』に物を全部収容するために残っていたSP2つを振る必要があったし、SPを振る事による一発逆転が封じられたのが地味に痛い。これまで俺は「SPがあれば大丈夫!」と言う保険があった。それを吐き出したことがどう作用するか。少なくとも俺が生きている限り、ダンジョンで餓死の心配がないのは確かだ。


 歩いていると老ドワーフが歩を緩めた。歳でリタイアか?


「君が大熊をやった男だろう? 私はガングフォールと言うドワーフ商人だ」


 商人だと!? ミスリルのフルプレートメイルにアダマンタイトのウォーハンマーを装備して長距離遠征できるドワーフ戦士が商人だと気付けなかった俺は悪くない! しかも近くで見ると素材だけでなく意匠もこらされている。パーツ一つで男爵家の家宝クラスだ。


 なんでこんな男が居る? 商人と言う事はヘンリーが交渉したのはこの男か?


「そうだ。……アッシュと呼んでくれ」


 名乗るべきか迷ったが、相手に名乗られた後では名乗るしかない。不意打ちドアインザフェイスを食らった気分だ。


「そうかアッシュ君か。ヘンリーとカーツが中々名前を教えてくれなかったので興味が出たんだ」


「人間相手には色々あってな」


「詳しくは聞かないさ。それよりこれを渡そうと思って」


 そう言ってガングフォールはマジックバッグからミスリルの槍を取り出した。槍みたいな長い物が入ると言う事は国宝級か。俺のアイテムボックスが無くてもダンジョン攻略出来そうだ。……俺に何かあっても攻略出来る物が入っているんだろう。さもなくばこんなダンジョン攻略に参加しない。そんな考察は槍を目にして中断するしか無かった。


「凄い業物だ。調整前から重心も完璧とは恐れ入った。それに余計な意匠が無いから分からない奴が見たら鉄の槍と誤解する。間違いなく俺好みの槍だ」


 コストカットのために槍の柄は木製にするのが一般的だ。だがこの槍は穂と柄が一本のミスリルで出来ている。俺みたいなアイテムボックス持ちでなければ取り回しに苦労するため、意外とこのタイプは人気が無い。


「気に入ってくれて何より。年齢から考えて数年後に丁度良い重心になる様にを心がけたんだが、君の成長率が私の予想を上回った様だ」


 俺の身長は寝ていた3日でまた急激に伸びた。キスケは「私の治療効果よ!」と無い胸を張っている。半分くらいは彼女の功績だろうし、マックスとの関係を変に邪推されないカモフラージュに使える。


「嬉しいが、どう見ても毛皮とはつり合いが取れない」


「君が伝言を頼んだ行商人は一族の者なんだ。だから一族の恥を雪ぐ一環と思って受け取ってくれて欲しい」


「分かった。『雪は溶けた』と言う場面か」


 一族の恥を雪ぐって言葉を使えるのはドワーフ氏族長かその代理くらいだ。ガングフォールはどれだけ偉いんだ? とは言え、貰うだけではドワーフに悪い。クロードの記憶から必死に言葉を探す。あの夢でクロードが祖母に習った古風な言い回しで、ドワーフに「これで手打ちだ」と伝える表現を使った。ドワーフ自身がどう考えるかは分からないが、俺には追加で何かする必要が無いと伝えるのは大事だ。


「その言い回しを知っているのか!?」


 流石に俺の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったみたいだ。


「祖母が存命の内に最低限の基礎だけは教えて貰った。『古き鎧』の整備を頼む未来があったかもしれない」


 マックスが聞いていない事を確認して話す。『古き鎧』とはクロードの実家にある家宝で世界を滅亡から救った八騎の魔導鎧を差す隠語だ。マックスかヘンリーが聞いたら一発でバレるので使う時には注意が必要だ。普通のドワーフならこの隠語に気付かないはずだ。


「そうか、なるほど。マックス卿が惹かれたのはそのためか」


「名乗る未来は閉ざされた」


 ガングフォールはマックスが王子だと知っているのか。あの二人を見たら世間知らずの高位貴族なのは一発でバレるがマックスの正体まで見抜いていたか。


「今は閉ざされた鉱山でも再開する事はあろう」


「そうなったら名乗りに訪ねると誓おう」


「はっはっは、それは生きる楽しみが一つ増えた!」


 この短時間でここまで踏み込まれるとは。前世のブラック企業の記憶がある俺で無ければ尻の毛まで毟られていたかもしれない。とは言えこのチャンスを逃す事は出来ない。危険を承知で俺は自分から一歩踏み込んだ。


「『古き鎧』を新造出来るか?」


 八騎の魔導鎧と同レベルの魔導鎧はこの500年一度も作られていない。それがドワーフの技術喪失によるものなのか知らなければならない。


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